みちこおばあちゃん

@tyutayaeikou

第1話 たけのこごはん

キンコンカンコーン...

学校のチャイムが鳴る...。


ダムの放水のごとく昇降口は帰る生徒で溢れる。それを遠目に見ながら


「俺も帰るか....」


そう心の中でつぶやいて僕も遅れて

自転車庫へと向かった。


そんな僕は朝おばあちゃんが言っていたことを思い出した。


「今日の晩は、たけのこごはんやで

白いご飯炊かんといてや、お母さん」


そう、今日の晩飯はたけのこご飯なのだ。

僕は心の高揚を抑えきれず思わず飛び上がったのだが、自転車庫の屋根に思い切り頭をぶつけてしまった。痛い。


痛けれども、心は踊り、僕は帰路を急いだ。

とにかく漕いだ。頭の中はもうたけのこご飯

しかない。


先生に言われたレポートや、受験対策の教本のことなどどこかへいってしまった。

今はとにかくおばあちゃんのたけのこごはんが食べたいのだ。他のことなどどうでもいい。


ひたすら漕いで15分。

やっと家に着いた。


「お帰り〜葵。」


古びた引き戸を開けて家に入ると

いつもの声が出迎えてくれた。

母だ。今日はいつもより少し早かったようだ


そして手を洗い、すぐさまテーブルにつき

たけのこごはんのお出ましを待つとする。


みちこおばあちゃんのたけのこごはんはたまらなくうまいのだ。

裏の山で取り立てのたけのこを、

糠でアク抜きして茹でたものを、かしわ、にんじん、ごぼう、そしてこんにゃくと混ぜてダシのみの味付けで炊く。


シンプルなのだが、親父も母も、僕も誰も真似できない。そしていつもみちこばあは

自慢げに語る。


「経験が違うのよ。アハハハ笑」


確かに、50年近く我が家の食卓に料理を並べ続けているみちこばあちゃんに、

若輩の我々が敵うわけがなかった。


そしてついに、おでましときた。


「できたわよ〜、はい、よそいましたから

とってくださいねー」


柔らかい声でおばあちゃんはご飯を

持ってきた。


おばあちゃんの持っているお盆には

綺麗に盛られたたけのこご飯があった。

その見た目は別に派手ではないが、

どこかキラキラしていて、

懐かしいのに、新しさのある面持ちだった。


「いただきます」


言ってすぐに、僕は箸を持って

たけのこご飯を頬張った。


「おいしい!」


思わず口に出た。


水加減もちょうどよく炊かれたご飯は

ほど

口の中で簡単に解け、

こんぶとかつおの合わせ出汁の味付けが

口の中に瞬く間に広がる。


そして、2回ほど噛めばたけのこやその他の

具材の味が口に広がって、もう言葉には表せない。

口の中に里山が広がった。まさにそうとでも

言うしかないのかもしれない。


あまりにおいしかったので

二杯おかわりした。

やはりおばあちゃんのたけのこごはんは

たまらなくうまい。


おばあちゃんは笑顔だった。

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