9. 地上の光

地上の光

 リチャードは自分が、固いものの上に横たわっていることに気付いた。少しずつ目を開ける。土の匂いがする。これは地面だ。自分は何故か地面の上に倒れているのだ。


 目を開けるにつれて、状況が明らかになってきた。ぼんやりと暗い空間だ。でも真っ暗ではない。リチャードは呻いて、身を起こした。身体はあちこちが痛むが、ひどい怪我をしていないようだ。そうだ、自分は地下にいたのだ。化石を見るためにクリフとともに、地下に入って、そしてそこで恐ろしいものと遭遇した――。


 そうだ、クリフは。リチャードは周囲を見て、クリフが倒れているのを発見した。ただちにそこに駆け寄る。そっと触れると、クリフが小さな呻き声を出した。そして目を開ける。ゆっくりと身を起こした。幸いなことに、クリフのほうも怪我はないようだった。リチャードが手当てをした腕を除けば。


「ここは……」


 クリフは呟くように言い、そしてはっとして、リチャードの背後を指差した。


「出口です! あそこから出られますよ!」


 真っ暗でないはずだった。上り坂になった道がそこから続いていた。その先にはぽっかりと――穴があり、そこから日の光が、地上の光が差していたのだった。




――――




 コーデリアは目を開け、自分が屋敷の居間のソファに寝ていることを知った。見慣れた天井に心地よいクッションの柔らかさ。コーデリアはぼんやりと辺りを眺めた。


 一体何故、自分はここにいるのだろう。確か……大変なことがあったのだ。不思議なことが次から次へと起きた。しかも最後は命を奪われそうになって……。記憶がはっきりしてきた。コーデリアはがばりと起き上がった。ホーンさんは? あのへんてこな世界に一緒に飛ばされたホーンさんはどうなっただろう。


 コーデリアは部屋を出た。屋敷に人の気配があった。驚き、つかの間そこに立ち止まる。いつも通りだ。いつもと同じ、クロフォード家の屋敷だった。コーデリアは混乱しながら、歩き出した。


「姉さん」


 突然呼びかけられ、コーデリアはぎょっとして足を止めた。振り返って見ると、そこにいたのはパトリックだった。いつもと変わらずにこにこしている。パトリックはコーデリアに言った。


「ずいぶんとよく寝てたね」


 寝てた? 私が? 私は居間のソファで眠っていたのだろうか。それでは今まで起きた出来事は? 全て夢だっただろうか。くらくらする頭で考えていると、パトリックがさらに言った。


「でもさ姉さん。なんで外出着なの?」


 はっとしてコーデリアは自分の身体を見た。確かに外出のための服装をしている。発掘現場に行く予定だったからだ。いつものようにマチルダに着替えを手伝ってもらって、そして階下に下りて――。そこから不思議な一日が始まったのだ。


 マチルダ! マチルダのことを思い出して、コーデリアは強い不安に捕らわれた。彼女はどうしてるだろう……。一刻も早く、マチルダの顔を見て落ち着きたかった。それにシャーロットは。トーマス卿は。本当に、全ては夢だったのだろうか。


 コーデリアはパトリックの問いに適当に答えると、玄関ホールへと向かった。そしてそこでシャーロットに会ったのだ。シャーロットが驚いてこちらを見る。その表情で、コーデリアはさっきまでのことは、恐らく夢ではないだろうと感じた。


「無事だったのですね」


 コーデリアに近づいて、シャーロットが言った。コーデリアは力を込めて頷いた。


「ええ。気付いたら、居間のソファで寝ていたのです。……私は、確か、見たこともない森の中にいたよう気がするのですが……」

「そうです。私もそこにいました。そして私も、気付いたら部屋の中で倒れていたのです」


 やっぱり夢じゃなかった。その思いがコーデリアの中で強くなっていった。シャーロットは落ち着かない表情でコーデリアを見た。


「トーマス卿はどこにいらっしゃるのでしょう」


 そうだ。叔父様の問題があったのだ。コーデリアは迷いながら答えた。


「クローゼットの中に閉じ込められたままなのでしょうか……」

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