お茶の時間
庭の外には大きな生き物がいた。トーマス卿は、あれは恐竜だと言っていた。マチルダははっとした。まさか、みんな、恐竜に食べられたんじゃなかろうか! でも――でも、あの恐竜は木の葉っぱを食べていたから、おそらく人間は食べないだろう。でももしも――もしも、人間を食べる恐竜が他にいたとしたら――。
ホーンさんはどこに行ってしまったのだろう。一人外へ出ていったシャーロットのことが急に気になってきた。まさか彼女も食べられ――ううん、そんなことない。
それに、屋敷の人間が全て食べられるなんてことがあったら、もっと悲鳴が上がったり、大きな騒ぎが起きているはずだわ、とマチルダは思った。けれどもそんな物音は聞こえなかった。今日は目が覚めたときは普通だったし、お嬢様の着付けを手伝っているときも普通だったし、その前に使用人の人たちとも会ったし……。強いていえば、発掘現場に行くために、ホールに降りた辺りからおかしかったのだ。
マチルダはトーマス卿を思い浮かべ、彼がネズミになったことを考えた。人間が消えた代わりに――恐竜が出現したのだわ。トーマス卿の姿は消え、それはネズミになった。マチルダはまたもはっとした。まさか、みんな、恐竜になったわけじゃないでしょうね!
それなら、説明がつくような気がした。恐竜になってしまったのだ。使用人たちみな。クロフォード家の人たちの姿もないので、彼らも恐竜になってしまったのかもしれない。マチルダは考えた。奥様や旦那様も――例えば、庭で木の葉を食べていたような、大きな恐竜になって――。
マチルダは想像した。人間がみな、恐竜になってしまったところを。そしてなおかつ、屋敷で生活しているところを。例えばお茶の時間はどうなるんだろう。居間に奥様がいて、傍らにブラウン氏が控えていて。奥様はお茶の時間を知らせるベルを鳴らすわ。でもどうなんでしょうね。マチルダは庭にいた恐竜の、大きな爪の生えた手を思い浮かべた。あの手でベルは持てるのかしら。でもともかく、お茶を飲むために屋敷の人びとが居間にやってくるわ。みな室内に収まることができるのかしら。さぞや窮屈なんじゃないかしら。あの巨体だし。マチルダは今度は、庭の恐竜の馬鹿でかい図体を思い浮かべた。というか、そもそも部屋の扉を通ることができないでしょうね。みな小さな隙間をなんとか通り抜けようと、悪戦苦闘している――。――ああ、なんて馬鹿げたことを考えているんだろう!
一階に着いた。さらに階段を上るはずだったが、マチルダはそのままふらふらと裏口へと向かった。扉を開けると、眩しい陽射しが目に飛び込んできた。
ホーンさんはどうなったのだろう、と思う。外に出たまま帰ってこないホーンさん。まさか本当に恐竜に食べられ……いや、そうではなくて、まさか恐竜に姿を変え……これらの考えが再び頭の中を巡った。けれども、それを上手くまとめることができなかった。
特に目的もなく、屋敷の縁を歩いていく。角を曲がると、青い芝生が広がっていた。庭師たちによって綺麗に手入れされている、クロフォード家の庭だった。マチルダは遠くの木々を眺め、そしてぎょっとした。
そこに何か動くものが見えたのだった。大きなものが梢を揺らしている。大きな――とても大きな、そして長いもののようだった。
それはゆっくりと動いた。段々とその詳細がマチルダの目に明らかになっていく。灰色をした、毛のない生き物のようだった。長いと思われたものはその生き物の首だった。異様に長く、そしてそれを左右に動かしながら、生き物は木の葉を食べていた。
長い首は丸くてしっかりとした胴につながっている。その胴からは首と同じように長い尻尾が続いている。胴からはまっすぐで頑丈な足が伸びていた。その一本一本はまるで柱のようだった。
マチルダが見つめていると、その生き物は、それを察したかのようにこちらに近づいてきた。歩みとともに、ずしんずしんと音が響く。マチルダは動くことができなかった。ただ、固まったまま、その到来を待ち受けていた。
青い芝生の上で、夏の輝かしい日の光にさらされて、その生き物は悠然と歩いていた。首の先には、身体の割には小さな頭がついていた。マチルダの、はるか何メートルも上にある頭だった。その頭がゆっくりと近づいてくる。トカゲに似た顔をしており、黄色い目が、マチルダを捉えた。
目と目が合った。そして生き物の口先が、そっとマチルダの頭に触れた。
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