第4話
夢を見ていた。昔の私自身の夢だった。
かつての私は一振りの刀であった。刀とは人を斬るために作られるものであるが、私はそれに加えて、もう一つ目的をもって作られた。
決して折れることなく曲がることなく、百年人を斬り続けられる刀。
そういった思想の元、何本もの失敗作の果てに作り上げられたのが私だった。
実際、私は所有者を変えながら九十九年の間人を斬り続けた。多くの人に使われながら、その何倍もの数の人を斬った。そして百年目、私は式神となった。
私を式神にした男は陰陽師であった。その男、最初の主の言うことには、本来式神とは鬼神や妖怪変化の類を使役したもののことだが、私と相棒は付喪神の魂に細工をして作られたらしい。
付喪神とは、長く使われた道具に魂が宿ったものだ。つまり、私は刀の付喪神ということになる。そして、付喪神から作られた式神とはかなり稀なものなのだという。
その理由は教えてもらえなかった。その前に主は殺されてしまったからだ。殺したのは主の跡継ぎであった。跡継ぎは私と相棒の次の主となった。そして私たちのような式神の作り方を確立しようと研究を続けたが、結局は実を結ばず無念の死を遂げた。
それから何人かの主に仕えた後、私たちは今の主と出会った。
主は私が刀であることを知っている。人を斬るために作られ、それに疑問を待つことすらなく実行してきたことを知っている。私はそういうものだと、私自身が隠すことなく伝えたからだ。それでも、
「でも、徹と俺は君のこと好きだよ。だって優しいじゃん」
そう言って笑った。そんな笑顔を私に向ける主は初めてだった。だから、思った。この笑顔を護りたいと。そのために必要だというのなら、私は刀としての自分を捨てることさえ厭わない。
そこで夢は覚めた。目を開けると、傍らには相棒の姿があった。
「おはよう。手入れは終わったよ。気分はどうかな?」
「あぁ、悪くない。礼を言う。主と徹は?」
「お二人とももう寝てるよ。僕もそろそろ休みたいんだけどね」
「……今度、お前の手入れ道具も探してみよう」
「お隣さんに頼めばいいんじゃない?この手入れ道具も彼がくれたんだろう?」
「それはダメだ。あいつに借りを作りたくない」
「なんだいそれ。まぁいいや。期待せずに待ってるよ、左近」
「おぅ。任せておけ、右遠」
そう言って私たちは休むことにした。もうすぐ夜明け。右遠の手入れについては、一度主に相談してみよう。
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