第二十四話:プリンセス第三形態
「〈アルデバラン〉は?」
「……まだ眠っている」
その会話は監視部隊でされていたものだ。
複数の騎士団の精鋭部隊や技術部等から
そんな彼らの眼前──とは言っても直線にして約1kmは距離を取っていたが──には、身動き一つせず地面に横たわりながらも未だに息があり、悠々と眠っている
〈雪狼騎士団 第二分隊〉が挑み、結果として痛み分けに終わったあの決戦から既に十日程が経過していた。
今更の話ではあるが、〈虚獣〉にも一定の力量毎に分けられたランクが存在する。
Eランク──1~2m級の小型種のほとんどが該当する。ある程度鍛えられ、武装していれば一般人でも充分に対処可能。
Dランク──3~5m級、稀に1~2m級の個体もいる。騎士や冒険者等それなりに鍛えられた者でないと難しい。
ここまでが一応『
Cランク──通称〈戦士級〉。体高6~10m級。
単独戦闘を行う場合、〈魔導人形〉相当の強化外骨格の使用が推奨される。
平臥状態で10m級になる〈竜頭蜘蛛〉の成体などはこれに該当する。
Bランク──通称〈師団級〉。10m以上級で体格に上限はない。
戦闘特化型の〈魔導甲騎〉の使用が推奨される。
王国騎士団では分隊長クラスの実力者でないと単独での戦闘は推奨できない。
Aランク──〈
一つの魔力源が動いている様なものであり、国を滅ぼせるだけの力が当然ある訳で。
Sランク──〈
このランクになると最早、ただ歩いて通過するだけでも国一個を簡単に滅ぼしてしまう様な化け物――「存在」そのものが『災害』、そんな領域だ。
そして、最後の一つ。
EXランク──それは文字通り『規格外』として扱われる存在。
それ単独でも世界を滅ぼしうる――言うなれば、それは『災害』すらも超越した『神話』の体現。
現在は確認されていないが〈対界級〉──〈神裁戦〉の神話に描かれている〈
余談になるが何故十三体なのに十二星座の名前かというと『双子座』に該当する存在が雄と雌の二個体が
国を一つ滅ぼした、ということもあり〈対国級〉と考えられていた。だが、先の戦闘を経て、その能力を改めて認識した魔術協会により、〈アルデバラン〉の脅威度は〈対陸級〉相当であるという見解が出された。
「あれだけの攻撃でまだ生きているとは……!!!」
「あぁ……まさに化け物だな……!!!」
そう、呟く様な小声で言い合っていた。
〈雪狼騎士団〉による作戦決行まで、厳戒態勢は続く。
それとほぼ同じ頃。
レイは臨時救護所を訪れていた。
重傷者・意識不明者は優先してベッドに寝かされているが、それでも足りずに溢れた者達が大勢床や椅子のあちこちに横たわるしかない。そんな状況だ。
そのうちの一角に、レイは用があった。
「分隊長の容態はどうですか?」
「……まだ眠ったままだ」
そこには仰向けになって寝かされているアイクの姿があった。
あの戦闘からもう十日程経っているのだが、未だに彼は意識が戻らない。
ギリギリまで引き付けて〈
そんな捨て身同然の術を実行し、運良く成功させたからこそこうして生きているはずだったのだが。
「医者の診立てだけど……〈アルデバラン〉が放った魔力には毒性の様な、何らかの呪術的な効果が含まれているんじゃないか、ってさ。クロトらも同じ見解だ」
曰く、彼の〈魔力回路〉にも何らかの異常が発生しているらしい。
彼が起きてみないことには詳細な症状は分からないが、治療の過程で行った検査による見立てでは長期間――それも年単位で、復帰が見込めない可能性があるそうだ。
あるいは『現在意識不明となっているこの状態こそそれの影響ではないか』という仮説や『もしかしたら〈アルデバラン〉を仕留めれば意識が戻るのでは?』などという根拠のない楽観的な予想も上げられていた。どちらにせよ、彼の容体と〈アルデバラン〉との因果関係で、現在分かっていることが余りに少ないということに変わりはない。
そこに、近づいてくる気配を感じる。振り返ると、丁度そこにやってきたのはライラとリィエだった。
作戦開始時刻までにはまだ余裕があったはずだが、と聞くと、前回の〈アルデバラン〉の活動再開までの時間を考慮して時間を繰り上げることになった様で、二人が呼びに来たという。
「……また来ます」
それだけ言って、レイもまた彼の元を後にした。
現在、〈アルデバラン〉並びに〈プレヤデス〉に対する反攻・殲滅作戦が立てられていた。
作戦名は〈
攻略対象を〈アルデバラン〉に限定し、四つに分けた部隊を中心に展開する、それぞれ四段階で構成された大規模作戦。
元来より技術開発を目的に組織されていた〈雪狼騎士団〉に於いて、過去に開発・製造して倉庫に眠っていた試作兵器や、新開発の兵器すらも持ちうるものは全て投入。製造可能なものは十日間で可能な限り生産されそのまま配備。さらに既存の機体も可能な限り
コクピットの中で、レイはもう何度目かの溜め息を吐く。
その〈プリンセス〉の姿には若干の変更が加えられていた。
遺跡で発見され、起動した姿を〈第一形態〉、そこから肩部の可動装甲を外した姿で今まで運用されていたのを〈第二形態〉とするならば、〈第三形態〉とでも言える姿であろう。
対物ナイフが破損したということで左腕の前腕部に装備されていた籠手を外し、変わりに〈ラヌンクラレアス〉の装備から転用した儀礼用の片手楯が搭載されている。元々装備していた籠手より大きく、大楯よりは小さいがその分小回りが利き、それなりの強度があるということで防御力はかなり高いと期待できた。流石に〈アルデバラン〉のブレスが相手では心許ないかもしれないが、〈プレヤデス〉の攻撃程度なら問題なく凌げるだろう。
背部バックパック〈アンヘルヘイロウ〉にも、左舷サブアームに追加装備が搭載されている。
30.0mm電磁機関砲──〈プリンセス〉が最初に発見された遺跡で、同じく発見された装備。名前の通り30.0mmのペレット弾を電磁力で発射する兵器で、既に装備している70.0mm砲に比べれば単発の威力は低く──それでも平凡な虚獣が相手ならば十分な火力はある──代わりに高い連射性能を持つ火器である。
連射性能を考慮すればその殺戮能力が過剰過ぎたこともあるが、扱いやすさ等もまた70.0mm砲及び155.0mm砲で事足りていた為に倉庫で保管していたものだったが、〈プレアデス〉の数の暴力に対抗するべく引っ張り出してきたのだ。
弾倉はドラムマガジンで、装弾数は60発。予備弾倉も二基、飛行ユニット〈セイレーン〉の内側に格納している。
そして、もう一点。第一形態で装備していた、便宜上〈スラストアーマー〉と呼んでいた肩部の可動装甲が、改修されて復活することになった。
今まで搭載されていなかった理由だが、
その代わりとして、可動型アタッチメントを肩部と〈スラストアーマー〉の間に挟む様に取り付けることで可動域を拡張することに成功している。具体的には外側向きに対して30度ほど仰俯角が付けられる程度しかなかったものが、その可動範囲はそのまま、水平方向に装甲を360度自由に回転させることが可能となっている。
現状に於ける最大限の技術力を以て強化を施した〈プリンセス〉……普段の彼ならば高貴さすら溢れるその雄姿に見惚れて惚気てそれはもうメスの顔ならぬメカの顔でも表情に浮かべて機体に抱き付き頬ずりでもしそうなものだが。コクピット内で何度も溜め息を吐いてはぼやいてを繰り返す。
「……どうすればいいんだろうね」
〈プリンセス〉に言い聞かせ……あるいは悩みか迷いを相談でもするかの様に、何度目になるか同じことを呟くレイ。
そんな彼が今一つ浮かない訳は、言い渡された作戦の内容にあった。
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