第十八話:意外なことで進む開発
「────我が魂喰らいて
それは会敵して早々のこと。
吼える様なリィエの声が奏でる詠唱により、魔術が起動する。
〈
火属性と風属性の複合型攻性魔術。
もう一つ太陽が生まれたかと思ってしまうばかりの眩い閃光の直後、強烈な爆発が巻き起こされた。
「相変わらずやべえ火力」
「すっごいですね……」
〈虚獣〉が群れていた一帯の領域がもうもうと黒煙を上げている。
そんな惨状を拝んだ感想を述べると『えっへん!』という声と共に、リィエの〈ラヌンクラレアス〉が腰に手を当ててふんぞり返る姿勢を取った。
その時だ。
ひょこん、とレイの頭頂にあった二本のアホ毛が揺れる。
「あっ、でも討ち漏らしが……」
同時に気配を感じ、気が付いてみると。もうもうと上がる爆煙を突き破って、討ち漏らしたと思われる何体かの〈
だが。
『──あ……だめですね……もう機体動かせる程も魔力ないです……』
「あっ、はい……なんとなくそんな気がしてました……っ!!!」
そのままその場で尻餅を着く様に倒れ座り込んでしまうリィエの〈ラヌンクラレアス〉。
それを横目にしながら、レイは操縦桿を繰り〈アンヘルヘイロウ〉の副腕を展開、懸架されている二連装電磁砲を構える。
上部の155.0mm電磁加速螺旋砲と下部の70.0mm電磁速射砲、どちらも未装填状態だったが、連射性能から70.0mmの方を使用する。
〈セイレーン〉から取り出した弾倉を装着し、初弾を装填──射撃可能となる。
同時に、ある新装備を携えていたシズヤの〈ラヌンクラレアス〉もまた迎撃準備を整えていた。
『さぁて、俺もそろそろ動くか……!!!』
「頼みます。……使い方はわかりますよね?」
『転生前伊達にゲームやってねぇっての』
返答に対し「ゲームとは流石に勝手が違うと……」などと突っ込みかけたが、心内に止めておいた。
シズヤの機体に装備されているもの。
新装備〈
フレームと弓部をエーテメタル製にし、各所動作機構に〈魔導甲騎〉の関節部に使用されるのと同じ技術を転用したことで
〈プリンセス〉の電磁砲がいつか壊れて修復不可能になってしまったら、という保険もあるが。
発掘した〈対魔力弾〉を始めとする各種実体弾を他の機体──〈魔導甲騎〉でも運用できないか、ということで開発を試みた、実質的に初の量産型実弾兵装……の試作品。
『俺これでも冒険者時代、魔力が少ない分を補う為に弓を自作して使ってたからな』
そんな独り語りをしながらも、携えたそれを構え照準を定めるシズヤ。
確かに彼は以前『魔力保有量はAランクあるんだが魔力生成量はC-って結構低いんだよなぁ』などと言っていたのをレイは覚えていた。
『勿論実弾用の〈
曰く、
『
無駄なイケボで奏でられた一言。
同時に銃爪を引いたことで放たれる弾丸。
装填されていたのは〈特殊弾頭矢〉──電磁砲でそのまま使用すると
その性質から魔術的な解析が不能な特殊素材で出来ているとはいえ、逆に魔力に触れさえしなければ加工することができた。
それが目標に目掛けて飛んでいき、着弾──命中する。
そして〈対魔力弾〉と同じ爆発が──。
『…………あら』
起きなかった。代わりに、絶命した骸は断面から酸か何かで溶かされていくように段々と液状化していく。
「なんか思ってたより効果範囲少ないですね」
レイが〈プリンセス〉のセンサー類を利用してその様子を高解像化して解析しながら呟く。
この弾を初見で使用したが、正規品の〈対魔力弾〉同様の反応になると思っていた為か正直に言えば面食らっていた。
『
再度、無駄なイケボと共に放つ。
シズヤが使用するSO☆GE☆KI──もとい〈
それにより命中率が格段に向上することで、今こうして彼は一発一発で必殺を実現しているのだ。
レイもまた70.0mm砲により狙い撃っていく。
そうしていくうちに群れの残りを全滅させ、ついでに任務も達成して帰還した。
後日、昼時にて〈雪狼騎士団〉本部拠点の食堂での事だ。
「そういえばこの世界ってお米あるんですね」
レイがふと放ったその一言でとある卓の一同が凍り付いた。
「……今更かよ」
「うちパン派だったからね」
「そういえばそうですね」
相席していたシズヤに突っ込まれる。一緒に居たライラが答えた様に実家では主食はパンであり、特に拘ってなかったレイは米があるのを知らなかったのだ。
後に聞いたのだがヘレナの実家でも作っていたらしくその稼ぎで学校に通えていたという。異世界でもお米は食べられている様だ。
「食堂のメニューに堂々とあるやんけ」
「……そもそも食堂に初めて来ました」
「……マ?」
「はい……」
驚愕されてしまう。
「今まで何食って生きてた」
「購買の携帯食料です」
その横では、
「あれって非常食じゃ……」
「機体に常備しとくやつだな」
「そもそもあれ毎食食べる様な代物じゃない気が」
などと言う会話がなされていた。いつ必要になっても大丈夫な様に保存が利くことと、戦闘中など緊急時に効率良く栄養を補給できる様にすることだけを考えた様な代物である。お世辞にも良い味とは呼べず計測した訳ではないが察するにカロリーも高い筈で、常食するには向かないと言われても仕方なかった。
後に二日に一食だったと聞かされた彼らがレイをドン引きするのはまた別の話になるが。
「そんで、何で急に食堂に?」
ここである意味最もな質問を返されてしまう。
「……〈プリンセス〉の生体スキャンで、生活習慣の改善を推奨されまして……」
そう答えたら「だろうな」の一言を一同から返されてしまう。
なんか新鮮な感じ、などと思いながら箸を持ってみる。
親指・人差し指・中指を使ってうっすらと覚えているあの持ち方をどうにか再現する。
何故か静かに歓声が上がった──特に姉の微笑む視線が気になった──が。気にせずに目の前に用意した食事に向き合うことにした。
転生して初めてとなる白米を一口放り込む。
「あっ米だ……」
真っ先に出てきたその感想。ずっこけたシズヤが「リポート下手くそか」という傍らで、黙々と食事を続けた。
食べていたのは白米・謎肉の一口大焼肉が数個と付け合わせのサラダ・マッシュポテト・豆とポテトのスープ。
特に謎肉は以前から実家でも食べていたものと一緒だと思うのだが、不思議なことに鶏のササミに似た食感だがエビに似た風味を感じていた。その正体を後に知った時に驚愕することになるが、この場では特に話題にすることもなく平らげていった。
「そういえばあれってどういう原理なんですか?」
食事を終えてからというもの。
その席に居たまま、レイはふと相席していたリィエに爆裂魔術について尋ねていた。
聞かれた方のリィエもまた満足そうな笑顔を浮かべ答えてくれる。
「火属性の魔術の起動中に風属性の魔術を重ねることで、二つの属性を掛け合わせているんです」
その方法で火力を増強しているらしい。それだけじゃない気もしたがそこは彼女の素質が故なんだろうと解釈することにした。
ついでにその合わせるタイミングや分量なども説明されたり、開発経緯なども教えてもらった。
「ほへぇ……」
そんな反応になっていたが。
教えてもらった情報を反芻する様に少し考えて。
ふと思い付いた。
「……その技術、もしかして〈
「ほへ?」
それからというもの。
完成まで約一ヶ月を要したが、この技術を応用したことで先代の魔力放出式だった〈試製魔導推進器〉の三倍近い出力が出せる新型推進器の開発に成功することになった。
これにより〈魔導甲騎〉……より真っ先に〈魔導飛箒〉の改良が成された。
推進器を小型のものに換装することで全体的に小型軽量化に成功し、積載量に余裕ができたことで下部に物資輸送コンテナや小型魔術杖などの武装の搭載が可能となったのだ。
まぁ戦闘可能な程になるには一定の練度を必要とされるであろうが。
この強化は半月程で済んだが、気が付けば年度替わりの四月を過ぎ五月になろうとしていた。
そして、集まったデータを元に〈ラヌンクラレアス〉にも応用するべく纏めた設計案を元に、機体改装を試みようとした時。
レイの元に出撃任務が舞い込んできた。
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