第十一話:その機体、権天使
それに至るまで、少し時間は遡る。
「鍵が必要みたい……これじゃ、動かせないや」
「鍵、だと……?」
ヘレナの発動した〈照明〉によって照らし出されていたそこには鍵穴があったのだ。『鍵』という概念こそあるものの、この世界に『自動車』などなく魔力が燃料兼鍵みたいなものだからか、エドにはピンと来なかった様だが。
今から探すのか、そもそもそんな小さいもの〈エーテメタル〉ででも出来てない限り絶対劣化している。
そんな事を考えていたその時。
「あ、あの……!!!」
ヘレナがポケットから何かを取り出した。
「これ……さっき拾ったんです!!!」
掲げられた手には確かに鍵の様なものが握られていた。だがそれは随分と簡素なつくりのものだ。この世界にあるのかは知らないがコ○ビーフを開けるアレに似てると直感する。前世の記憶にあるそれと比べて一回り大きい気がするが。
これ、本当に動かせるのか……?
半信半疑だったが。受け取ってみる。
「────っ……!!!」
そこで気が付いた。その鍵が〈
「───これで動いたら僕、神様信じる……!!!」
どうせ動かないなら、と。ダメ元で、差し込む───入った。それを確認して。レイは鍵を右回りに捻った。
だが。
「何も起きねぇじゃねぇかッ!!?」
「ご、ごめんなさい……!!!」
何も起きなかった。それをエドが叱責し、涙ぐみ始めたヘレナ。
「───いや……」
「あ?」
「はい……?」
だが。レイだけはそれに否と応えた。
「……聞こえる」
ポンと、スイッチが青く点ったのに気付く。
下画面の影になっていたが、円形状に輝く部位がそこに出現した。
「こいつ、動くぞ……!!!」
迷わず、レイはそれを押した。
直後───。
フィィィィィン、と甲高い音が響き、同時にそれに共鳴する様に、コクピット内の画面に光が点り始めた。
一際甲高い音が響く。それに反応して後ろを振り替えると、機体の目に黄色い光が灯っていた。
「────本当に動いたッ!!?」
「────やりましたよレイさん!!!」
驚愕するエドの横でヘレナが歓声を上げていた。
その合間に、並んだ画面のうち中段の三画面が視界として機体の目の前の光景を映し出し、上段の一画面が機体の後方を映し出す。
そして機体の下段画面に浮かび上がる何らかの文字と図形。
「これは、文字、でしょうか……?」
ヘレナがそれに反応する。が、
この世界の公用語と比べ随分と簡単な造りのそれ。
「……見たことのない文字ですね……」
「─────!!!」
確認したレイの目が、驚愕と、同時にそれとは異なる感情によって開かれる。
二人は初めて見たらしいその文字を、レイは理解できていた。
「英語だ……」
それはこの世界に転生して初めて、同時に彼の時間の中では14年振りに見た文字体系。
……古代遺構……新世代……守護者……先導する、指導者……?
ブツブツと、呟くようにそれを読み上げていく。ぶつ切りの言葉を並べる様に呟かれたそれを、ヘレナが察する。
「なんて書いてあるのか、分かるんですか?」
「……うん、一応……ほとんど意訳だけど……」
『新世代を先導する守護者であり指導者の古代遺構』、かな……。
そう答えながら画面に向かい、レイはその文字をなぞる様に手を伸ばして、
■■■■■
その言葉を口にする。
「はい?」
「
「何か意味のある言葉、なのですか?」
問い返され、レイは答える。
「……『天使』だ」
「てん、し……?」
その画面に描き出された文字列。
『 Artifact of.
New Generation's.
Guardians and.
Escort.
Leader. 』
それに対して、彼が口にしたのはその頭文字の略。
神託を以て人々を守護し、先導する神の御使い。
英文の『
『新世代の民衆を先導する、守護者であり指導者の古代遺構』
その名を冠するこの機体は、まさに〈天使〉と呼ぶに相応しい存在なのだろう。
そう、レイは感じていた。
下画面はタッチパネルになっており、指で触れれば操作が可能だった。
「すごい……」
「うん……」
その様子をただ見てることしかできないヘレナが感嘆に似た感想を漏らす。エドはクロトら他の団員達に報告に行っていた為、二人っきりである。
しかし、表記が殆ど英語である。
『前世の記憶』を持つレイだからこそある程度理解できたが、それでも転生してからの14年のブランクは大きいらしい。
読みづらい……というのが本人の弁。
脳内で一度『この世界の言葉』に変換しないと意味が出てこない。それでなお意訳が限界といったところ。
操作する度にピッ、ピッ、と電子音が響く中。操作する中に『Language』の一覧を見つけるなり、レイは迷わずに開く。
「……第一言語は英語固定なのか……」
案の定、この世界の言葉はなかった。代わりに、アイスランド語・アイルランド語・アゼルバイジャン語……と元居た世界の言語がずらりと並び、「Go○gle翻訳か……」と内心で突っ込んでいた。
その中で、ある言語を見つける。
「……まだ、読めるな……」
迷わずそれを第二言語に設定した。そうすることで、第一言語の英語は一部表記を除いて新たに設定された言語の表記に書き換えられ、その上に小さく表記される様になる。
変更した言語。それはかつて前世で暮らしていた母国の言語──日本語。
英語同様、14年のブランクは大きかったが、それでもまだ読み取ることができるあたり、まだマシになった。
次いで、メニュー表示から発見した武装と操縦方法の
この機体の武器に関することが記されている。この世界でも使用されているメートル法の他に、一応ではあるがこの世界では使用されていないヤードポンド法への変更が可能となっていた。……前世でも詳しくないので残念ながら封印させてもらうが。
それで、ある機能を確認する。
「ヘレナはクロトさん達と避難していて」
「レイさんは……?」
「僕は……」
言いよどみながらも、レーダー機能を開き、地形データを算出・照合する。
「別のルートで避難するよ」
「は、はい……!!!」
そう返すと応じたヘレナはタラップを降り、クロト達の方へと向かった。
それを横目で見送りながら、レイは画面を頼りにそのルートを確認する。
先程まで〈魔導甲騎〉を搬入していたのだから通れる道があるだろうとは思っていたし、その唯一の道もスキャン済みである。だが、
「確実に戦場のど真ん中だよね……」
ある機能を見つけた事で、大丈夫だとは思ったが。同じくレーダーに映っていた大量の反応を前にそう呟かずにはいられなかった。
そこで、コクピットハッチを閉める。
レーダー画面にはうっすらと初期画面が背景に映っていたが、その『ANGEL』の表記の横に。二重の円で縁を作った中に、幾つかの幾何学模様で一枚の羽を象った
他に名前らしい名前が見当たらないしな……と呟きながら、『ANGEL』表記の下にさらに書かれていた表示に視線を向けた。
『
天使には階級が存在している、というのを、レイは前世の知識で知っていた。
第一位【
第二位【
第三位【
第四位【
第五位【
第六位【
そして、その次に来るのが───第七位【
それに当てられた『PRINCESS』の文字は、紋章の円縁の中にも描かれている。
「プリンセス……それが君の名前、なのか……」
問い掛ける。だが、当然ながら、機体がその問いに答えることはない。
何故女性形なのかは知り得ないが、取り敢えず呼び名には困らないだろう。
まぁ、いいか。と、彼は続ける。
「寝起きでごめんね。でも、今だけでも力を貸してほしい」
そんな断りを述べたところで、答えはない。
そこまで確認したところで――。
「行くよ────〈プリンセス〉ッ!!!」
先程確認した説明書通りに、操縦桿を操作するレイ。
彼の意志に答える様に、〈着飾り騎士〉――機械仕掛けの
そうして現在、彼の機体が三人の元へ現れた。
「何で……うそ、レイくんが……!!?」
ライラは未だに困惑している。
それもそのはずだ。
「あの子、魔力が無くて……魔術だってまともに使えないのよ……!!?」
それを一番知っているから。
その時だ。
「〈虚獣〉の様子が……」
シズヤが呟いたそれに反応するライラ。リィエもだ。
威嚇する様に腕を上げ、だが、鳴き声も上げずに身体を震わせている。
「脅えている……?」
その時だ。
〈着飾り騎士〉の方にも変化を確認した。
右腕の脇下から箱状の、例えるなら〈魔術杖〉に似た何かを抱える様に構えた。
バスッ、と鈍い音が響き、その先端から何か鈍く輝くものを射出する。
それがリィエ機に纏わりついたまま固まっていた〈竜頭蜘蛛〉に当たるや、一撃で頭をかち割り、討伐した。
「何ですか今の!!?」
リィエも驚愕していた。
一体、また一体と、音が鳴る度に射出され穿っていくそれは、短くて小さい、槍に似た飛翔体。
「あれは……いや、まさか……」
シズヤが何か心当たりがあるのか、妙な反応を見せるが。その間にも〈着飾り騎士〉はさらに変化を始める。
装甲を備えたスカートから青白い光が放たれる。それだけではない。腰部の左右と後ろの四基で構成されているらしいスカート部を、何故か翼の様に羽撃たかせ始めた。
「まさか、あの機体……飛ぼうとしてる!!?」
「……流石にないでしょう。あんな重そうな機体が飛ぶ訳……」
シズヤが言いかけたところで。
「って飛んだぁ───ぁっ!!?」
その機体は駆けだす様に向かってきた。
『
左右にあるうち右舷の副腕に懸架されていた四角い構造体を、その副腕を伸ばして機体の右脇下を潜らせる様に構える。
その構造体は二門の電磁砲を上下に連結する様に配置した武装だった。
使用したのは下部の70.0mm電磁速射砲。弾倉に装填されていたペレット弾をローレンツ力で加速し投射した。
そして、もう一つ。
それが、腰部に装備された
空間を機動する兵装──その言葉が意味するのはつまり。
「君、飛べるんだね……!!!」
このユニットは電磁
そもそも起動してからここに来るまでただ歩いて来た訳ではない。操作に慣れるのも兼ねて
それを、装甲配列を飛行に最適な状態にセッティングし盛大に吹かし、飛翔させた。
通路は大して高くない為に、地面すれすれを滑空する様に、だが足は完全に浮いた状態で機体は空間を飛んでいく。
避けた三機の〈ラヌンクラレアス〉とすれ違う。その上で──。
「ここから、出ていけェ────ッ!!!」
邪魔をする様に迫ってきた先頭の一体に、籠手を装備していた左腕を構えて突っ込み、そのまま押し出した。
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