第十二話:痛みの中、祝福にて目を醒ます
地下遺跡と繋がる洞窟の外でも、激しい戦闘は続けられていた。
「数が多い!!! 多さが爆発し過ぎてるッ!!!」
「なんたってこんな数……!!!」
消耗して息を切らしつつも、まだ愚痴で収まる程度だが悲鳴を上げつつあった。
ほとんどが比較的弱い〈竜頭蜘蛛〉なのが幸いだったが、その量はまるでこの辺一帯の〈虚獣〉の群れ全てが一斉に集まって来たかの様だ。この場にいる〈ラヌンクラレアス〉十三機=三小隊で倒した総数は既に一〇〇体を超えていた。それでもようやく半数かという状況にすり潰されそうな勢いである。
それだけではない。普段は縄張りや巣に籠る〈女王個体〉すら、最後列とはいえ前線に出張っているという事態だ。
だが、その時は突然であった。
「────は……?」
突然、〈女王個体〉を含んだ後列の群れが転進していった。
それにより群れが次から次へと、ついには半数にまで減っていった。反面、残り半数──総勢約五十体が相変わらず戦闘を続行する様であり未だにこちらに突撃を仕掛けてくる。
「なんだ、急に……」
誰もがそう思ったことを、誰かが口に出した。直後。
洞窟の中から轟音が響いたのを、そこに一番近い小隊員が聞き。何事かと振り返ってみたそこから。
物凄い勢いで何かが飛び出したのを確認し、驚愕の声を上げることになった。
坑道内で襲われていた小隊をその場の勢いで助けるがまま〈プリンセス〉は飛翔しながら一本道を駆け、突き当たった角を曲がると、洞窟に出た。そのまま洞窟から射出される様な勢いで飛翔していく〈プリンセス〉。
「──なんだ!!?」
「あれは……〈着飾り騎士〉!!?」
「空、飛んでるんだが……現実か!!? 現実なのか!!? それとも、幻術か……何なんだアレは……!!!」
突然現れたそれに、前衛部隊が驚愕の声を上げていた。
そんなことを気にしている余裕もなく、少し跳んだ位置に着地した──瞬間。ズキンッ、と激痛がレイの脇腹を襲った。
「──こふっ……!!?」
同時に突然、急な悪寒に襲われ、レイは堪らず咳き込む。操縦桿を放す間もなく、口から零れ出した紅い液体。
その際に、下画面に警告として出ていた表示を確認して、レイは唖然とすることになった。
『肋骨損傷・右八番九番骨折
破片が一部右肺に到達
脾臓・右腎臓に損傷あり』
右脇腹、特に背面側。その部位で、思い当たることといえば。
「やっぱり……
冷静に考えれば怪我どころか重傷ではあるが。
何故今頃になって……。考えても仕方がない。
四方八方から凄まじい勢いで無数の巨大蜘蛛が襲ってくるのだから。
「ぐぅっ……!!!」
回避挙動を取る。その度に身体を衝撃が揺さぶった。
「だけど──これで!!!」
そして、そこで電磁砲を構え直すなり、レイはすかさずその
ライラ達が洞窟から出てきた頃。
やはりというか〈着飾り騎士〉は、空中を舞いながらあの魔術杖型の武器から何かを射出していた。
それでいて。先に出ていった個体達も、他の魔導甲騎部隊をまるで眼中にないとばかりに無視し、自身らは飛べないにも関わらず上空に居る〈着飾り騎士〉の方へと向かっていく。まるで憎悪か怨讐にでも取り憑かれた様だ。それ故に〈着飾り騎士〉は一方的に穿っていく。
「あの武器は……まさか、〈
その様子に対して、誰かが反応していた。
「カホウ……!!? 何だそれは……」
「知っているのか、ライデン!!!」
その主、ライデン・フロストが答えた。
「大昔の兵器だ……『
「……ということは〈
「あぁ……!!! 例の〈神裁戦〉とやらの……下手すりゃ300年以上も前の機体ってことになる!!!」
その問答の最中にも、あちらの戦況は瞬く間に変化していった。
それも、悪い意味で。
この機体に何の恨みがあるのか、凄まじい憎悪を感じながらもレイは下に向けて射撃していく。
装填した弾種はペレット弾──鉄製の弾丸だ。70.0mm砲用の弾倉が〈セイレーン〉の内側に格納されていた。というか、それしかなかった。あるだけマシではあったが。
「……落ち着け、レイ・サザーランド……この機体は飛べるんだ……いくら物量で押されようが、飛び道具がない相手なら───」
言い聞かす様に、呟く。が、
「───なっ……!!?」
突然、
直後、バチン、と嫌な音が鳴り、四基あった〈セイレーン〉の一基から白煙が発生した。
そこからさらに一基、また一基と同じ状態に陥る。
「───ヒューズ損傷……揚力・推力共に低下!!?」
ポップアップを読み上げたその時の表情は、恐らく『絶望』という言葉が一番近かったか。
ヒューズとは電子機器に過剰な負荷が掛かるのを防ぐために回路に設けられる部品であり、一定以上の負荷が掛かると内部が切れる仕組みをしている。それは逆に言えば、これが切れると電力が供給されなくなるということだ。
ふらっと、急激な揺れと浮遊感を感じた。
高度が維持できず、落下を始めたのだ。
「調子に乗って吹かし過ぎたか……録に整備されてない機体で……!!!」
辛うじて
墜落。着地と同時に凄まじい衝撃がコクピットを揺さぶった。
「────があぁぁ……っ!!?」
げほぉっ、と激しく咳き込み、吐血する。
吐きこぼれた血が画面を汚す。失神しそうな激痛に耐えながらも、制服の袖で慌てて拭った。
その瞬間を待っていたとばかりに、敵意の怒涛が襲いかかる。
「何だあいつ、急に降りて……」
「墜落してんだよ!!! 推進装置の故障か!!?」
言い合ってる間にも、〈虚獣〉達が迫ってゆく。
「レイくんっ!!?」
「待ってください小隊長」
ライラが一人でも助けに向かおうとするが、シズヤに止められる。
「でも、このままだとレイくんが……!!!」
「せめて回復しないと!!!」
疲弊しているのもあったが、あまりに急展開の連続の事態に見ているだけだった部隊の元に、一声が響いた。
「現時点で戦闘行動可能な者に通達する────総員、〈
凛と張った女性の声──ナターリア・フランシェスカ・エアリーズ 総室長だった。
技術部と地下から脱出していた筈だが、いつの間にかこちらに来ていた。
「動かせる手段が見つかったのならば、ただの木偶でないことは確定的に明らか。ここで喪失する訳にもいくまい」
そう発された彼女の言葉に、数名が立ち上がる。
そこに、次いでとばかりに彼女は言った。
「何より、仲間に一人で戦わせろと教わったか?」
その言葉に一同の目が据わる。本当に損耗が激しかった一部を除いて。
「機体の損傷並びに魔力消耗が激しい者は下がってくれて構わない。無駄死にされるのは堪らんからな。だが、動ける者だけでいい。彼を援護してやってくれ」
「────了解……!!!」
そう答えたメンバーの中にはライラと、シズヤも加わっていた。
弾が切れた。替えの弾倉はまだあったが装填している暇もない。
死ぬのかな。これ。
そう思ってしまうぐらい、凄まじい。
「……イヤ、だ……」
〈アンヘルヘイロウ〉の副腕から電磁砲のユニットを
一番先頭に来た個体に、その銃身部を持ち手にして銃床部で殴りかかる。
機体と同じ〈エーテメタル〉製なだけあり頑丈だ。十分に鈍器として機能し、一撃で一体を叩き潰した。
「……まだ、死ねない……!!!」
脳裏には、この世界に
理不尽な理由で虐められていた
好きなことにずっと打ち込んでいられたこと。
取るに足らなくて忘れてたこともあったけど。
それ以前の記憶も流れてきた。
自分が不自由だったことに嫌気が指していた。
夢も希望もなく、自ら死のうとしてたこともあった。
今の自分には夢がある。『生まれ持った素質に関係なく、誰もが乗れる機体の開発』
「……死ね、ない……」
再度、今度は横凪ぎに振るう。
飛び掛かってきたやつらを数体纏めて吹っ飛ばした。
だが、続けてやってきた一体が飛び付いた。
「──ぐっ……!!!」
その衝撃で息が詰まった。その隙に、電磁砲を弾き飛ばされる。
手持ちの武器が無くなった。咄嗟に四肢の推進器で後退し距離を取るが、
絶対絶命の状況になる。
「……たく、ない……」
言葉が、漏れる。弱々しく儚げな声だ。
だが、それは。
「……死にたく、ない……」
弱みからではない。
重なったが故の叫びだった。
「……死にたくない……っ!!!────」
激痛に目が眩むのも気にせず、左手の操縦桿を操作する。
機体の左腕に装備された籠手の装甲が競り上がり、中から板のようなものをスライドして取り出し、再度接続される。
そして、レイの操縦通りに〈プリンセス〉は左腕を引いた。
────だからさ。
「────お前が死ねェェェェェェェェェェッ!!!」
絶叫するレイ。その気迫と共に
同時に、その籠手からはみ出す様に出現した板──対物
甲高い唸り声を上げながら高速で回転する連鎖型の黒い刃が〈竜頭蜘蛛〉の腹を引き裂き、血肉も臓物も滅茶滅茶に掻き回しながら突き破る。
同時に、機体の瞳から光が消えた。
『契約が成立しました』
『錬金術整備ナノマシン管理制御システム〈
〈ANGEL〉との同期確認』
『レイ・サザーランドを本機■■■■■の
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