月夜、硝子の筆先

葉月空野

ペーパームーン

 透明な筆先に、月夜色のインクが滴る。今夜の月は、ほとんど虫に食われたみたいにか細く、寂しげに夜空を浮遊していた。そんな月を今、硝子造りの筆は描いた。縁の濡れたグラスの反射は、部屋の壁を月光に染めていった。その光景のことも、静謐な色のインクが描いた。A4の紙の上に、今宵の光景が描かれ、重なり合っていく。物語の輪郭が、浮かび上がってくる。

 僕は、小説を書いていた。この夜の片隅で、誰の目にも触れない空想しょうせつを。

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