第23話 不完全なフルール・ド・リス
1月28日は美彩都十八歳になった。いよいよ決行日である。
ラノン城は川をまたぐようにアーチ状の橋の上に建造されている。川岸から小橋を渡り、小さな広場に出ると右手には塔がある。その広場からまた小橋を渡ると、城の入口に出る。所どころ石垣が崩れた3階建てらしき城の奥は、対岸と繋がるように1階のみ建造物があり、その建物は川からの侵入者を攻撃できるように整備されていた。
「さぁ、始めるぞ。ギンセイ、シュン、ルイ、映像機器の設置はOKか。」
城の現場の指揮を執るサライの声に、身軽さを誇るシュンが答えた。
「はい、川の手前に2か所と、あと、ギンセイが凄かったです。塔の裏手に回り、川の泳ぎも変わった泳ぎをしてて、人がいるように思えない動きだった。そして、何といっても、塔の裏手から橋の橋脚をくぐって、正面側の橋脚の石垣のあの高さを軽々と物音の立てずに目的の場所にセットできたから、とても自分には敵わないと思ったよ。」
「ほんと、忍者みたいだったよ。設置も完璧!」ルイも褒めた。
「嬉しいです。石垣の崩れの凹凸が多くて、足場には都合良かったんだ。自分の役目を知った時、パルクールって競技やボルダリングとか、泳ぐのも得意だったし、忍者の泳ぎも参考にしたんです。この使命は自分にしかできないと思った。だから、家族に反対されても、このメンバーに参加したいと思ったんだ。」
「頼もしいな。ギンセイ、城の様子はどうだった。」
「はい、サライさん、とても静かでした。上の方には何人か兵がいたようでした。水面に火の灯りが行ったり来たりがわかったので。雨で滑りかけましたが、この靴のおかげで助かりましたよ。自分は青い球をもらたんですが、その時から、靴が軽いんです。跳ぶのも倍は跳べる。」
「その機能を熟している君がすごいんだよ。」
他の村人たちは、目くらまし粉の入った布袋を投げる投石器、麻酔針の付いた弓矢、盾をもち、川沿いの所定の場所で待機した。光線麻酔銃はベルデが持った。
「よし、向こうは、それほど、盛り上がってないようだな。ルイ、空への投影映像の準備いいか?」
「いつでもOKです。」
「じゃあ、みんないいか。すべての命を守るため、真の王の即位のため、カイを倒す!」
サライの一声で、映像がスタートした。
橋の橋脚から映し出された、空はオレンジ色に染まり、たくさんの怪鳥が、奇声をあげながら飛び交っていた。川面に写った逆さの映像は奥行きを出し、静寂でモノクロだった城の周囲は、圧倒的な迫力ある光景とに変わっていた。
外で見張り番をしていた兵たちの騒ぎとその奇声で、城内の兵たちが、慌ててでき来た。
兵たちは、一斉に空に向かって弓矢を放ち始めた。その隙を狙って、タカの援護の元、今度は塔の上部の壁にギンセイがよじ登り、映像機器を設置した。
「さすがに、矢が飛びかって怖かったな。」
「よし、撃っても撃っても、撃ち落とせないから、混乱と体力の消耗とで、防衛力は落ちるだろう。怪鳥に気を取られているうち、弓矢組は、他の者たちは皆、橋の下で待機しろ。」
「投石開始!」
ベルデを先頭に、空を撃っている兵士に向かって、ドンドン目くらまし袋を投げつけた。袋は、城の地や壁に当たり、刺激のある粉が飛び散った。辺りは、白煙とともに、兵士たちは目を覆い、正常な動きを失った。兵同士や壁にぶつかる者、怪鳥を撃とうと必死に弓矢を構えているもの。まったく統制は取れない惨状と化していた。
「カイが出てくる。よし、映像止めてくれ。」
「何をやってるんだ!どこに化け物がいるのだ。空には何も飛んでないぞ。なんだ、眼が染みるな。この白い煙はなんだ。」
「カイ様、鳥を撃ってる時に何か飛んできたのです。そして、確かに、空が燃えて、それは大きな鳥が何羽も飛んでいたのです。」
「ばかな、くそ、どこから狙ってきたんだ。すべての兵を出して、もっと灯りを灯せ!」
灯りで周辺を灯し始めたと同時に、彼らの目の前に数えきれないほどの、馬に乗った騎士の軍団が、砂煙をあげ、けたたましい蹄音を立てながら、城に向かってきた。 兵たちは、のけ反り、慌てふためいて、持っていた蝋燭も放り投げ、城の方へ逃げ込んだ。
「そんな、バカな。川の上を馬が走っている!」
城内の兵たちが、次々と弓矢を放ったが、少しも緩むこともなく、馬は走り続けていた。
「どうなってるんだ。弓矢が一つも当たらない。」
「大変です。大勢の馬に乗った騎士が、乗り込んできました!敵はとてつもなく頑丈な装備なのか、一人も倒せません!」
「えーい、もっと続けろ!」
「しかし、矢が足りません。」
アントアイが声を拾っていた。
「もう矢は使い果たしたか。よし、皆、城内へ上がるぞ。」
投石組も弓矢組も、すべてのものが、小さな目くらまし玉を数十個を、腰回りに着けた布に仕込んで、防塵メガネをつけていた。馬に乗った騎士の奇襲で、城の前や橋の上には誰もいなくなっていた。
「メガネ落とすなよ。近くの敵には、目くらまし玉を投げろ。距離がある敵には、弓矢だ。敵は体力を消耗している、動きは鈍くなっているが、油断するな。」
城内で、残っていた兵に目くらまし玉と弓矢で対抗した。目くらましで、目をやられながらも襲ってくる奴には、ヨウイチロウが背負い投げなど柔道技で応戦した。剣で襲い掛かってきた敵には、ヒロが麻酔銃で動きを麻痺させた。白煙が沈んだ頃には、兵と言う兵が出尽くし、城内は、カイと仕えていた女たちだけが残っていた。
カイが、ソウとセラを、広間に引っ張て来た。両手を後ろに鎖で縛られたソウとセラを柱に縛り付け、剣を首に突き立て言った。
「ベルデか、娘はどこだ。早く出せ!」
「カイ、まだ生きてたのか。てっきりペストでやられたと思ったよ。」とベルデが銃口を向けた。
「ふん、そんなもの使ってみろ、この二人の首を刎ねるよ。私がペストなんかで、騙されると思ったのか。どんな手を使ってここまで、来たか分からないが、サッサっと、娘を連れてくるんだよ。近くに来てるんだろ?」
カイはふらついていた。
「ハナなんかには渡さないよ。ずいぶん顔色が悪いんじゃないか。汗もかいて。ハナ、ようやく症状が出てきたようだな。リヴがぐったりしただろ。それ聞いて思ったよ。セラのペスト菌、イヴが先に感染して、そこから、ハナに感染してるはずだ。だから、すぐ症状が出なかったんだ。どうだ、取引きだ。薬を飲めば、まだ間に合うぞ。リヴは、薬飲んだから、次期に良くなる。」
「ハナと呼ぶな!私はカイだ。薬なんて、私は飲まない。永遠の命だよ。薬なんてものは要らないんだよ。」
「お姉ちゃん、薬飲んで。また、あの頃のように一緒に薬草作ろうよ。永遠の命なんてないのよ。眼をさまして。ほんとは、自分と一緒に死んでしまえば、すべて終わると思った。けど、やっぱり、生きてほしい。」
「セラ、黙れ!静かにしないと、この首を刎ねるって言ってるだろ!」
「お姉ちゃん、私の首に掛かっている、この木と革の首飾り、ほんとに覚えてないの?お母さんに作ってもらったじゃない。」
「…そんなもの忘れた。どうだっていい。」
「やっぱり、ハナはもう、悪魔に心を売ってしまったのね…。」
「知るか!」
「ベルデ、ベルガを捕らえてきました!機械も持ってきました。今、ルイが操作してます。」
「タカ、良くやった。ハナ、よく聞け!サタータ大王様の正体はこいつだ。」
「何言ってるの。こんな奴のどこが。」
「ルイ、見せてやれ。」
「了解、サタータ始動!」
広間の中央に、大魔王のサタータが浮かび上ががり、『早く娘を!』と声が響いた。
「そんな、バカな。なんでなんだ!」
「ベルガ、サタータの低い声は、マコトか?マコトはどこだ。」
「声はそうだよ。どこ行ったかは知らねえよ。クソッ、役に立たないじゃないかよ、こんな時計。」
ベルガは、時計のベルトごと引きちぎり、床に投げつけた。引きちぎられたベルトに施された蘭の花のレリーフが、無残な状態で哀しげに果てていた。
「マコトは、今テルたちが捜してます。」
「そうか、タカ、狼煙をあげろ。もういいだろう。」
「ルネスの石像を確認して来てくれ。」ベルデが、サライに指示した。
「クソっ、即位なんか…させるか…。」
ハナはよろつき始め、付き立てていた剣は、セラの首元から離れた。その場で膝をついたハナの隙をつき、ベルデがセラとソウの身体に巻かれていた鎖を解いた。
「ハナ、薬を飲んで。」
「セラのいう事なんて聞くか。」
リヴがよろつきながらもハナの側に寄って来た。
「リヴ…。」
カイの戦闘力が衰えたのを確認した、ヨウイチロウが、ゆっくりと、ソウの方に向かって行った。
「蒼真。」
「洋兄ちゃん…。」
「蒼真なんだね。生きてて良かった。本当に良かった。」
洋一郎は涙が止まらなかった。
「ごめんなさい。何度謝っても足りないよね。みんなにどんなに心配かけたか。圭兄ちゃん、母ちゃんは?どうしてる?」
「うん…蒼真がいなくなって、何年後だったかな、病気で亡くなったよ。だいぶ気弱になってたからな。」
「そうなんだ。なんてことだ。母ちゃん、ごめん。ごめんなさい。」
洋一郎は、泣き崩れた蒼真を抱きとめた。
「もういい、もういい、生きてただけで。」
ルリコ、コハク、ミサトが、シンとともに城に着いた。
ミサトがゆっくり城内に入ってきた。そして、蒼真と洋一郎の姿が目に入った。
「お父さん?お父さんなの?」
洋一郎にそっと背中を押された蒼真は、まだ、渇かない幾すじもの涙のあとを拭くこともせず、止まらない涙が流れるまま、ミサトの方へ向かった。
「美彩都なのか?あぁ、きれいになって。ごめんな。本当にごめんな。ずっと側にいてあげれなくて。」
十七年ぶりの親子の再会を果たした美彩都は父、蒼真の胸で娘になっていた。
「あったかい。お父さんなのね。やっと会えた。やっと会えたんだね。本当に生きてた。ずっと、もう死んだかと思ってたのよ。でも、もうそんなことどうだっていいわ。こうやって生きていたんだもの。」
「ソウはね、ミサトさんの事ずっと忘れずにいたわ。この日が来ることを知ったソウは、あなたの命を脅かすハナから、あなたを、ここで守っていたの。17年間も。」
「ありがとう。セラさん。私も、この世界の事を聴いて、お父さんがいなくなったのは、私を守るためだったって事知ったわ。生きてて良かった。それと、洋一郎おじさんとも仲直りできて、嬉しい。」
ミサトはソウから離れ、ハナの元へ、ゆっくりと向かって行った。
「ミサト、側へ行くな!」
ミサトは、ソウが止めるのも聞かず、柱の側で、セラに抱えられて床に横たわるハナの元へ行き、腰を落とした。
「あなたがハナさんね。セラさんは、あなたを助けたいと願っています。生きてほしいと思ってます。だから私も、あなたを助けます。だから、この薬を飲んで欲しいのです。」
「ふん、私は、誰の指図も受けないと決めたのよ。クソッ、目の前に永遠の命があるのに、身体が動かない。」
「あなたが、信仰していたスタータは、さっき見たように、ベルガが作り上げた幻想よ。だから、私を食べても、永遠の命なんて宿らないわよ。命は永遠ではないわ。限りある命だから、尊く美しいの。あなただって、どこかで分かっているはずよ。」
ミサトは背後に気配を感じた…時には、もう遅かった。
柱の陰から出てきた男に背後から腕を回され、その手が伸びた喉元には、突き立てた剣が光っていた。
「自分に矢や銃口を向けた時点で、この娘の首を掻っ切る。わかったか。」
「レイ、良くやった。これで、やっと、永遠の命が私ものものになる。早く、その娘の魂を、私に、早く私にくれ!」
荒い息づかいをさせながら、カイは取りつかれたように懇願した。
「カイ様、分かりました。ただいま、礼拝室で準備いたします。カイ様は、この扉の前でお待ちください。魂を入れる者は、魂を取り出す儀式を決して見てはならないのです。そして、カイ様が魂を入れる儀式を、私たちは誰も見てはならないのです。それを破ると、永遠の命はサタータにすべて持っていかれてしまいます。」
「そんなこと、初めて聞いたぞ。」
「私は、サタータ様の夢を見たのです。夢の中で、サタータ様が申していた事です。ベルガが作り上げた幻想なんかではありません。そんなことがあるはずがありません。私も見たのですから。」
「わかった。どうでもいいから早くしろ、私には時間が無いんだ。」
「では、ここで、お待ちください。」
レイは、ミサトの喉元に剣を突き立てたまま、礼拝室へと引きずり込んだ。誰も、手が出せなかった。閉まった重厚な扉は頑丈に施錠され、銃やハンマーなどでもビクともしなかった。礼拝堂には2か所扉があり、もう一方の小さな扉にも、皆一斉に飛びかかったが、同じように施錠されており、歯が立たなかった。
カイはレイの言葉を信じ、礼拝室の扉の前で呪文を唱え始めた。
そうこうしていると、礼拝堂から、女性の悲鳴が響いた。
その場の空気が一瞬で凍り付いた。
「嘘でしょ。どういう事なの?ミサト!」
「ここまで、来て、何で…。」
「もう、どうにもならないのか。」
「側近が、残っていたなんて。もうカイ以外は制圧でいたと思っていたが。」
皆、口々に悲観的な声を上げ、叫び、広場は絶望、失望感に包まれていた。
ルネスの像を確認してきた、サライが戻ってきた。
「どうしたんだ、何があった。」
「ミサトが…。あぁ、こんなことになるんて。酷い。」
「いや…待て、あの声は違うかもしれない。ミサトの声には聞こえなかった。それに礼拝堂へ連れ込まれるとき、ミサトの眼が何か訴えてたんだ。」
何か違和感に気が付いたシンが、ささやくような小声でそう言った。
「そう、私も、あの声は違うと思った。」ルリコも息を吐くような声でささやいた。
「でも、剣を突き立てながら連れていかれた。レイはカイへの忠誠心はそれはすごかった。何を言われても指示されたことは必ず実行する奴だ。それじゃ、あの声は誰なんだよ?レイが裏切ったということか?そんなことあるのか。ありえない。」
「ソウ、今は祈るしかない。今ほど、神を信じたい時はないよ。きっと、エカルラートがが守ってくれる。」
いくらかの時間が経ち、レイが、血だらけの衣で現れた。
「カイ様、用意ができました。礼拝堂へ入ってください。」
カイは残った力を振り絞り、四つん這いになりながらも礼拝堂へ入って行った。
「カイ様、私たちは、魂を入れる儀式を見ることはできませんので、広場で待っています。」
レイはカイが礼拝堂に入った事を確認し、扉を外から施錠した。
レイの生々しく血で染まった衣は、悲劇を想像するには十分であった。
「ねえ、ミサトはどうなったの!どうしたのよ!」
セラが悲鳴にも似た声で無き叫んだ。
「声をあげないでください。ルカ、もう、連れてきていいよ。」
レイの言葉で、礼拝堂とは別の扉から、ミサトが一人の女性に連れられて姿を現した。
「ミサト!あぁ、生きてたのね。もう、地獄から天国に一気に来たみたい。頭がどうかなりそうよ。でも、ミサト、腕、ケガしてるのじゃない。」
「石見先生ありがとう。大丈夫よ。ちょっとした擦り傷だから。」
「静かにお願いします。カイに聴こえます。」
「レイ、どういうことか説明してもらおうか。」
「ソウ、すまない。ミサトさんには悪いことをしたと思っている。ケガをさせてしまった。その女性は、ルカと言って私の妻です。カイには、姉と言っておりました。私は妹を殺された怒りと恨みだけで、カイに仕えてきました。それが正しいと思ってた。でも関係のない村人まで酷い目に合わせたんだ。自分の友人も。だんだんと、これは違うと思うようになってきて。スタータの存在もどういう仕組みか分からないが、疑問に感じてた。でもカイは信じきってて。それを利用しようと思ったんだ。ずっと計画を考えていたんだ。」
「あの声は、奥さんの声か?」
「そうだ。怯えていた娘さんには、大きな声はとても出せないと思った。」
「その血はなんだ。」
「家畜の血だ。礼拝堂には、羊の内臓を皿に盛っておいたよ。」
「そうだったのか。騙されてたという事だな。でも、ありがとう、レイ。娘の命を救ってくれて。早く言ってくれれば、協力できたのに。」
「そんなことして、カイにバレたら、取り返しのつかないことになりかねない。」
「カイは、もう出てこれないのか?」
「あぁ、たぶん、もう命尽きる。内臓を食えてるかどうかも、微妙だな。」
「よし、サライ、ルネスの像はどうだった。」
ルネスの石像は、城の全体を見据えるように、川沿いに立っていた。石像の裏の扉はすでに、何者かが開けたあとがあった。サライとベルデは茫然とし、城へ戻ってきたのだった。
「そうだ。大変なことになってた!水晶と銀の櫛もなかったんだ。フルール・ド・リスは、王冠があれば成り立つが。王冠もまだ見つからないんだ。」
それを聞いた、レイが何かを思い出した。
「王冠か。確かカイがスタータに献上してた。スタータがこれがあれば、娘の魂を自分のものに出来ると言ってたらしい。」
「ほんとか。マコトが持って行ったってことだな。しかし、まずいな。いつ開けられたんだろ。ここを開けてから、3時間以内に三種の神器を揃えないと、石像の眼の光は消える。」
「ほんとうか、ソウ。」
「あぁ、ここへきて調査をとことんしたよ。ここでの記録には残ってないが、年寄りの話、一人だけでなく、何人も聞いた話だ。あと、アカルラートが残した、写真の裏にも、その事が書いてあった。」
「マコトだ。マコトを探せ!」サライが叫んだ。
タカが報告に来た。
「城中探してもいません、もう城から出てると思います。」
「あの山だ。ステラ界と繋がっているあの山だ。」シンが閃いた。
「サライ、閉鎖できないのか?」
「ベルデ、それは無理だ、ただ、クロスエリア出現にはタイミングがある。間に合うかもしれん。」
「タカ、馬を!ルリコも乗れ、行くぞ!」ベルデとルリコは、クロスエリアに向かって、馬を走らせた。
サライも馬で、あとを追いかけた。
マコトが馬から降り、自分の腰丈ほどもある荷物を引きずりながら、カゲロウの中へ入って行こうとしたいた。
「眞!」
「えっ、ルリ!なんでいるんだ!」
「あんたね、なんてことしてくれてるのよ!王冠と、銀の櫛返しなさい。水晶も!」
「水晶なんて知らないよ。王冠はいやだよ。これは金になるんだ。ここで、頑張ったんだから、もらってもいいだろ。」
「人騙して盗ったものでしょ。何が頑張ったよ。あんたね、母さんあれから、あんたの借金返すのに働きづめで、病気になって死んだんだから!」
カゲロウのゆらぎはだんだん強くなっていた。
「ほんとか、それ。」
「もっと、全うな仕事してたら、借金なんて作らないで済んだでしょうよ。」
「すまん、るり子、時間ないわ。じゃあな。」
マコトが言ったとたん、カゲロウが消えた。
サライが、銃をマコトに向け撃ったのだ。
「この銃はこんな作用もあったんだ。」
ベルデは、サライが撃った銃で、マコトの視力と動きが制されている隙に、王冠と銀の櫛を奪った
「急がないと。でも水晶はどうなるの?」
「水晶は、たぶん、七人の球だ。ベルデ、ルリコと王冠と銀の櫛を持って早く行け。マコトは私が、連れていく。」
「そうか、そうね。でないと、夢の意味がないものね。」
城では、皆が礼拝堂の扉の奥に意識を集中させていた。時折、カイの叫び声が聞こえていたが、いつしか何も聞こえなくなっていた。
主人の命が尽きるのを感じているのか、扉の前ではリヴの哀し気な鳴き声が響いていた。
「ソウ、私は生きてていいなのかな。ハナを止められなかった。私も同罪よ。」
「セラ、そう思うなら、傷ついた人たちを救う事。亡くなった人たちに祈りを捧げる事。辛いかもしれないけど、それが、セラが生きて、罪を償うことだと思うよ。」
「そうね、今はそんなこと考えている余裕なんてなかったわね。」
城へベルデとルリコが戻ってきた。
「ミサト!水晶は、七人の球よ!」
走る馬上からルリコが叫んだ。
「とにかく、ミサトの前に私たち並びましょ。ほら、夢の中の順番。手を繋いで輪になろう。」
ミサトを中に皆、ルイ(赤)シン(橙)コハク(黄)ベルデ(緑)ヨウイチロウ(水色)ギンセイ(青)ルリコ(紫)の順に並んだ。
「なんか、虹みたいね。」
ミサトがそう言ったと同時に、光が周囲を包み始めた。そして、それぞれのメンバーの周りの球が、竜巻のように回転しながら、ミサトの頭上に集まり、強い光とともに、ミサトの目の前に降りてきた。
ミサトは、それを救うように、両手を差し出した。
ミサトの顔は柔らかい光に満ち、掌の上に虹色の水晶が現れた。
「きれい。これが、七色の水晶…。」
ソウの指示ものと、ミサトは急いだ。
手に取ったその水晶を、ルネスの石像の胎内の右側にある、金の台座に慎重に収めた。
銀の櫛は、ミサトの髪を3度とかしたものを左側に収めた。
ミサトは、最後に、何か心に引っ掛かりを感じながらも、指示に従い、フルール・ド・リス左右の部分を、胎内に設置してあった型に左右にはめた。
そして王冠から外した中央の剣の形の部分を中央に置いた。
すると、3つに割れた赤い石は、自ら、その形を整え、黄金に光るフルール・ド・リスに姿を変えた。
その光輝く黄金の紋章を、胎内の中央に配置した。
胎内にすべて収め終わり、扉を閉じた。石像の眼はそのまま、黄金に光を放ち続けていた。
「お父さん、ちょっと聞いていい?フルール・ド・リスは、割れた3つの欠片が一つになったけど、形は不完全のままなのね。これでいいの?欠けた部分は他にあるのかと、思ってた。」
「これが、フルール・ド・リスが本物である証拠だ。」
「どういう事?」
「実は、エカルラートが残した、写真裏には、フルール・ド・リスは左右非対称、不完全な形とあった。古代のころの物なのか、精巧なものではない。これまでも、偽物は幾度となく現れたが、左右対称で、赤く色が変わることももちろんなかった。不完全でいいんだよ…。何でも、完璧ほど怪しいものはないってことだ。でも…ありがとうな。お父さんって呼んでくれて。」
「だって、お父さんなんだもの。」
ルネスの石像の眼は黄金の光をより強め、城の姿を照らし始めた。朽ちていた城は、蘇り、花は咲き、木々は鮮やかな緑を帯び、水は澄みわたった。景色は色彩を1世紀ぶりに取り戻し、まだ、誰も見たことのない世界を、人々の瞳に映し出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます