第22話 美彩都ーミサト ミドワルへ。

村では、決行日が決まり、武器の準備を始めていた。衰弱していた村人も、徐々に病状は回復し、体力をつけていった。サライは村人を集め、戦略を示した。

 

「いいか、今から、城への攻略法を話す。これは一度きりとする。あとは、各々、ベルデや自分に、聞いて欲しい。そして、あまり声を出さないように。武器の準備も、いつもの仕事をしながらやってほしい。いつ役人が来ても、いつもと違う様子を見せるな。それで、武器だが、投石器は、狩りで使っていたものを転用する。石の変わりに、目くらませの粉を入れた布袋にする。石灰や辛み成分のある粉だ。弓矢の矢は、麻酔の針をセットする。そう殺さない闘いだ。カイと、真の黒幕の男たちを捕まえる事。そこまでに辿り着くための一時的な鎮圧だ。城の様子も分かってきた。ステラ界からのメンバーの合流もある。真の王、女王だな、ミサトも来る。」

 

「ソウ達はどうするんだ。」

 

「娘を手に入れるまでは、殺しはしないだろう。そんなことはさせない。ステラ界からの合流と同時に、ミサトの護衛が始まる。良いか。気を抜くな。これに失敗すれば、この国、いや世界の窮状を救う事は出来ない。だから、絶対に勝手なことはするな。こっちの乱れは向こうにとって絶好の好機となってしまう事を忘れるな。」

 

「カイも殺さないのか?」

 

「それは、捕らえた時の、真の女王の判断だ。」

 

その日が来た。

 

珈欄では、皆が集まって来ていた。


ただ、銀青が来ていなかった。返事もまだだった。


時間まで、まだある。待ってみよう。


「やっぱり、まだ中学生だろ。本人も、家族も厳しいんじゃない?」

「俊樹、違うと思う。返事が来ないってことは、まだ迷ってるんだよ。」

「そうだな。真田さんの言う通りかもしれない。信じて待とう。では、始めよう。早めに集まってもらったのは、それぞれのメンバーに役割を与えるためだ。もうすでに、準備してもらっている者もいる。その確認と、ミドワルでの動き方を伝えるためだ。銀青くんにも役割は伝えてあるんだが。来なければ、ミドワルの村人に頼むことになるが。」

 

中新は、前もって、戦略法に関する意見等を、シャイル、ミドワル界調整員を通じて、情報共有しており、それらを踏まえて、石見るり子、神田洋一郎、相川瑆生、木下銀青にそれぞれ役割と準備を託していた。

 

「そろそろ時間だな。」

 

ドアベルの音で、皆、入口に一斉に視線を向けた。

 

銀青が一人で入ってきたのだ。


「あれ、智花は?」


「姉ちゃんは来ないよ。父が背中押してくれた。自分がどこまでできるのか、なんで、自分なのか、悩んだけど、選ばれた意味が何なのか、確かめたくて。両親は、母が納得してくれなくて。父がまだ、話している。」


「そうか、今、大まかな計画を話した。誰かを殺すことはしない。君たちに殺人をさせるわけにはいかない。人の命を奪う事ではなく、命を守るための闘いだ。命を奪う行為は、悪に侵されたもの達と同じ行為をしていることになるからな。」

 

今日子は、落ち着いていた。


「美彩都、ママは、今でも行かせたくはないわ。でも、これが、美彩都の生まれる前からの運命なのね。美彩都が一番つらくてしんどかったのにね。もっとちゃんと向き合えばよかったと後悔してる。あなたが、どこにいようと、何になろうと、私はあなたの母親だから…ずっと祈ってる。」


「ありがとう。ママ。なんか…なんか…、やっと、泣ける。」

 

 美彩都は、人目もはばからす、母の胸で号泣した。

 

俊樹も二人の肩を抱いて、涙をこらえていた。


「よし、メンバーはこれを受け取ってほしい。」

 中新はメンバーにあるものを配った。腕時計だ。

「この腕時計は、各々の身体のデーターを記憶し、薄いベールで身体を包囲する。ミドワル界への移動は身体へのリスクが大きい。身体が引き裂かれそうな感覚と移動後は衣服が裂け火傷のような皮膚の炎症が起こる。そういったリスクを回避してくれるものだ。ただし時間制限がある。装着してから、72時間、三日間だ。エネルギーの補給が向こうでは出来ない。太陽がほとんど出ないからだ。今装着して、各々のデーターを取り込んでおいてくれ。正常に取り込めたら、文字盤に自分の名前が出るのを確認してほしい。時間がきたら自動的に作動するように出来ている。」


「銀青くん、大丈夫?」

「大丈夫。もう聞かないで、自分、考え変わらないように必死に耐えてるんだから。」


「みんな、データーOKだな。よし、出発だ。」

 

 一行は、神生山の奥、鳥居が立っている場所まで来た。寒さと緊張で、言葉を発する者はいなかった。枯れ葉を踏みしめる音が聴こえるほど静かに、歩を進めた。灯りはなく、数台の懐中電灯がランダムに射す灯りの中に、奥へ進むほど、霧が濃くなってきたのが分かる。その先へ進むと、木々どころか草花も生えない開けた地に、三体の地蔵が並んでいた。懐中電灯に照らされた地蔵の裏には、この冷気感とは真逆の夏が漂っているのが見えた。


「この季節にカゲロウ?」


「地蔵の裏の、カゲロウから、少し外れた場所で、時計周りに、相川瑆生、自分、神田洋一郎、木下銀青、石見るり子の順で、輪を作るように並んでくれ。中央に白石美彩都。家族は、地蔵の裏へは絶対来ないように。」


「これは何の順番だ。」


「夢の中と同じ順番だ。自分の夢を解析してもらった。それぞれ、思い出してくれ。自分たちは手をつないでいたんだ。」


「そうだっけ?」


「手をつないだ時に、球が現れた。この体形で、時間になったら、カゲロウの中へ行く。時計の画面がそれぞれの色が光るから、それが合図だ。」


「あ、姉ちゃん、みんな来てくれたんだ。ありがとう。」

 

銀青は、泣きそうな顔を隠すように、うつむいた。


「美彩都!」

 それぞれの家族の叫びの中…

 

 時が来た。


「与えられた生命を生きる、すべてのもののために、立ち上がる時が来た。皆の勇気に感謝する。」

 

 中新の声明のあと、メンバーの輪は柔らかな光りに包まれ、輪の中の美彩都が宙に浮かんだ。メンバーの輪も宙を舞い回転しながら強い光を放ち、あっという間に光は消えて行った。消えた後には、何もなかったように、静かな暗闇がだけ残っていた。

 

 残った家族は皆泣き崩れていた。


「ほんとに行ってしまったの?帰ってくるの?」

「悪い夢を見ているみたい。」

 

 覚悟はしていたが、目の前で起こった超越した現象に、気持ちの整理がつかず混乱を極めていた。

 

 ミドワル界では、クロスエリアで、サライが傍らで見守る中、ベルデとコハクが、同様に腕時計を装着し待機していた。


「空が明るくなってきたぞ。」ベルデが叫んだ。


「来るぞ!」サライにも緊張が走った。

 

 暗闇の空間に現れたその大きな光は回転しながら、ゆっくりと静かに、地に降りてきた。七人を包んでいだ光の空間は溶け去り、その勇姿を現した。


「みんな、大丈夫か。」

 シンが、皆に声をかけた。


「大丈夫だけど、ここへ来るまでの記憶がない。身体が火照ってる。」

 

 ルイは自分の身体を触りながら、周りを見た。皆、同じように記憶がなく、体熱感と疲労感と闘っていた。


「クタクタだけど、服も破れてないし、皮膚も何ともない。」


 ミサトが輪を抜け、ゆっくりと歩きだした。


「白石、ここでは、苗字というものはないから、ミサトと呼ぶぞ。それぞれ、下の名前だ。」


「ミドワル界へようこそ。シンお疲れ。」

 サライがランプの灯りを照らしながら、メンバーの元へ向かって声をかけた。


「中新先生はシンなの?ダイじゃないんだ。」


「ずっとそうだから、ま、深い意味はないな。」


「あなたが真の女王なのですね。ミサト様。」

 サライがミサトに歩み寄り、挨拶をした。


「はい。でも、そんな畏まらないでください。あの、えっと、ごめんなさい。お父さんはどこ?お父さんもいるんでしょ?」


「ソウの事だね。ソウは城だ。経緯はあとで話をする。シン、ベルデとコハクはどうすればいいんだ。」


「よし、皆、ここへ来てくれ。夢の景色を再現する。さっきみたいに、輪になって。ミサトは中央に。で、コハク、ベルデは自分の隣だ。さ、手を繋いで。」

 

しばらくすると、その輪に変化が現れ始めた。


「あ、身体が浮く。また、どこか行っちゃうの?」

 

 そう、つぶやくミサトの掌の上には、水晶がクルクルと回り浮かんでいた。やがて、その虹色の水晶は上方へ回転しながら、光とともに消えた、と同時に、メンバーの各々の目の前に小さな水晶が現れた。


「シンさん、手、離していい?なんか、目の前の球がフワフワとしてて、触りたいんだけど。」

 ギンセイが落ち着かない様子で言った。


「良いだろう。」

 シンの合図で、各々の色が入った水晶を手に取った。


「夢と全く同じだわ。違うのは、実際にこの球を手にした事ね。それにしても、きれいな水晶。」

 ルリコは、薄く紫色のマーブル模様が入った水晶を、薄明りの灯りにかざし、眺めていた。


「シン、この水晶はどんな意味があるんだ?」と、ヨウイチロウが、質問した。


「すまん、そこまでは、解析できなかった。自分の記憶の中では不明瞭な部分が多かったから、夢を映像化できる装置で、解析依頼したんだ。それで分かった事は、ミサト以外のメンバーは、それぞれ色が与えられていて、ミサトを中央に、メンバーが手を繋ぐと、ミサトの頭上後方で、エカルラートが両手を広げる姿になったんだ。白い空間の中で、最初に五人が輪になり、その後、暗い空間に変わり、ベルデとコハクが加わっていた。七人になったところで、水晶が現れた。という事だ。」


「へぇ、そんなとこまで。全然覚えてないわ。」


「そう、夢っていうものは、覚えていない事が多いんだ。でも脳の中の引き出しにはしっかり入っているんだよ。」


「あ、背中に回ったぞ。動くとついてくる。」

 ルイの姿を、側で見ていたサライは、怪訝そうな顔をしていた。


「君、それに、みんなも何やってるんだ。自分には何も見えないぞ。」


「そうなんだ、自分たちにしか見えないんだね。へぇ、おもしろいし、不思議。なんかパワーがアップするのかな。」

 緊張で硬い表情だったギンセイの表情が緩んだ。

 

 メンバーは未知の世界に踏み入れた不安の中にも、不思議な力で繋がった勇士たちと共に、次第に希望と期待感に満ちていくのを感じていた。


「みんな、いいか。ミサトを守らなくてはならない。敵に指1本触れさせてはならない。意識を強くしよう。今から、悪路だが、ミドワル界の者たちが待っている場所まで、行くぞ。何か、怪しい気配を感じたら、すぐ報告してくれ。」


 サライが先頭に立ち、ランプの灯りで照らし、道なき道を歩き始めた。


「暗いからかな。照らされた道も、草も、セピア色というか、緑もくすんでるし、花が1つも見当たらないね。」


「そうだね。モノクロの世界みたいだな。」

 

ミサトとルイは、色の無い世界を不思議そうに眺めていた。


「君たちには見慣れない景色なんだな。ずっと何年も、こんなだから、これが当たり前だよ。ずっと小さい頃に色があった瞬間があった。記憶にはあるんだが、それが、夢なのか、現実だったのかは分からない。」

 

ミサトとルイの疑問にベルデが応じた。


「ここは、敵は来ないの?」今度はルリコが、サライに質問した。


「この辺は、家屋もないし、田畑もない。蛇や、イノシシなんかもでない。食糧がないから、来ないよ。さ、着いたぞ。ここだ。」

 

 そこには空き家が一軒あった。


「あるじゃん。家。」とギンセイが指さした。


「ここは、この時のためにみんなで建てた。数日なら生活できるようになっている。」

 コハクがある箱を数個取り出し、家の四隅に設置した。


「今から、この家は見えなくなる。出入りするときは、迷わないように。目印はこの大きな木だな。」


「うそ、この大きな家が?」とルイが興味深そうに見上げていた。

「そうだ、上手くいくかどうか分からんが。開発途中だからな。」

「えっ、なにそれ。」と、ルイは驚いて、サライを見た。

「まあまあ、時間ないから始めるぞ。見ていてくれ。」


「消えないよ。」と、ルイはまた疑うように横眼でサライを見た。


「おかしいな…。」


「あ、消えてきた。下の方から、薄くなった。すごーい。」ギンセイの子供っぽい声が飛んだ。


「よし、成功だ。さ、ルイ?入ろうか。」


「えっ、どこから?」


「どこからでも。入ったら、分かるよ。」

 

 皆、一斉に入った。

「あ、ほんとだ、庭だ。これなら、玄関が分かるわね。」ルリコもおそるおそる、玄関へ向かった。


「早速だが、会議を始める。」

 家の中は、広間と寝室、土でできた台所、簡単なトイレもあった。広間には、近未来的な装置もあり、アントアイが監視している城内と周囲の様子を映し出していた。サライが映像を見ながら、メンバーを集めた。


「ルネスの像の眼が金色に変わってる。さっきまで、赤く点滅していたと思うが、やはり、伝説は本当だったんだな。これで、カイは、その日が来たと焦り出すな。兵も増えているようだ。」


「ミサト、石はどうなっている?」


「先生、でなくて、シンだったね。なんか変。やっぱ、先生でいい?石ね、赤くなってるよ。それに熱い。今まで、グレーになったり、赤くなったりしてたけど、さっきから、ずっと赤くて、熱いかも。」

 

 サライは、城にソウとセラが捕らえられている事、城への攻略方法を説明した。

 

 歴史学者でもあるヨウイチロウも城の攻め方を、日本の歴代の戦も参考に意見を述べた。


「ルリコと、コハクは医療班を頼みたいが、たぶんマコトは逃げようとするかもしれん。その前に、ルリコがマコトと話をしてほしい。あと、城にいる兵らが、すべて身動きが取れないようになった時点で、何か合図をしたいが。」

 

 ヨウイチロウが手を挙げた。


「狼煙はどうだろう。煙をだして、遠くに合図をする方法だ。」

「それは、良いな。何か考えよう。」


「それと、ルイ、だったね、映像を考えてきたとか。」

「はい、このデーターに入ってます。これって取り込めますか?」

「できるよ。どんなデーターも変換できるから、大丈夫。」

 

 サライは、ルイの持ってきたUSBのデーターをシャイルの機材に取り込んだ。

 ベルデらも、その映像に見入った。


「いいねぇ。これで、兵を騙せる。」

「サライ、すごいなこれ。ほんとに魔術じゃないのか?」

「ヒロたちには、そう見えるだろうな。ステラでも、こんなの見ると何が起こってるのか理解できない者もたくさんいるからな。カイも手品師にこうやって騙されているんだ。」

「このメンバーが選ばれた意味が分かったような気がする。まるでエカルラートがすべて見ているようだな。」

 

後方で腕組をして映像を観ていたシンは、この人選に感動さえ覚えた。


「向こうの武器は何があるんだ。」

 

 普段は寡黙なヨウイチロウだが、有用な知識を生かすべく、いつになく多弁になっていた。

「この国の武器なんて、大したものはないが、弓矢、剣、銃、大型の投石器、城の上から熱した油を落とす事で、ケガを負わせるというものがある。銃は扱える奴なんてほとんどいないよ。なんせ、カイに仕えるものは、村で除け者にされたり、何かしら世の中への不満を持っている奴ばかりだから。カイは、こういう奴らの怒りを利用して士気を高める事に変換している。中には軟弱な兵もいる。ただ、洗脳されている者の行動は予想以上の力を発揮することもあるから、楽観視はできない。無茶苦茶な攻撃をしてくるかもしれん。」


「サライ、ベルガは武器は持たないのか。シャイルの者なら、先進的な武器を持ってそうだが。」


「ベルデ、シャイル界は大きな大戦を経験していないから、戦闘に関しての武器の発達は進んでいないんだ。必要はなかったからな。だた、小さな諍いはあるから、簡単な武器ぐらいはある。所持、使用については厳しい条件があって、ベルガの素行を考えると所持はないな。マコトが手に入れたと思われるステラ界と思われるピストルは持っていた。扱えるかどうかは疑問だが。」


「サライ、という事は、こっちの勝算はあるんじゃないか。あの映像見せれば、パニックになるよ。きっと。」いつも冷静なベルデが、少し興奮気味な声で言った。


「そこが、狙いでもあるんだ。あとはカイがどう出てくるかだね。それと、王冠の在処が、まだアントアイでも特定できていない。セラ達も分からないと言ってた。王冠に残りの石が組み込まれているから、何としても捜さないと。」

 

 夜が明けてきた。シンはメンバーを集めた。


「少し休もう。見張りは立たせてある。昼には準備を始める。1月28日0時、夜中0時に決行する。」

 

 寝室は大きく2つに分かれており、男女に別れて、それぞれ部屋に入った。

 3人は布団を並べて敷き、就寝準備を整えた。


「なんか、不思議な感覚。すごい疲れてるのに、眠れそうにないわ。でも、闘いに行くような空気感ではないわね。なんか静かなんだけど、もっと緊張感があるんじゃないかと思ったわ。寝ちゃっていいのかな。」


「男性陣は緊張してると思うけど。それより、ミサトは眠らないと。明日は大変よ。」


「石見先生、じゃなくてルリコだった。ルリコだってお兄さんと対峙することになるのよ。」


「もう、あの親不孝者、言いたいこといっぱいあるわ。考えると眠れなくなる。」

 ミサトらは、疲労した身体とは裏腹に、布団の中で、まだ眠ろうとしない頭の中を色々と巡らせていた。


「あ、そうだ、コハクさんて、シャイル界ではドクターなの?」


「ルリコも医療関係だったわね。ステラではドクターと他に役割があるみたいだけど。シャイルではすべて医療は同じ。すべての知識と技術を持っているものが、資格を与えられる。薬も製造だってできるが、そこは専門に任せているの。」


「すごいわ。私なんて、注射も今は出来ないわ。シャイルに注射なんてあるの?」


「貼付薬で、蚊の原理で、ミクロな針で血管に薬液を注入するから、簡単だけどね。」


「おもしろい会話ね…。なんか…眠くなってきたわ。」

 ミサトは寝息を立て始めた。


「ミサトらの部屋の前では、ベルデが座っていた。」

「ベルデ、変わるよ、少しでも休んで。」

「タカ、ありがと。そうするよ。」

 

「ミサト、起きるよ。」

「おはよう。コハク。みんな、もう起きてるの。」

「なんか、村の方が騒がしくなって、ベルデたちが見に行ってる。石像の眼変わったでしょ。たぶん、ミサトを兵たちが捜しにきているのだと思う。」


「サライさん、私、そうすればいいの?」


「カイたちは少し焦ってるよ。即位される前にミサトを捕らえないと、カイの王位は終わりだからな。ここに居れば安全だ。勝手に動くなよ。」


「でも、村の人達が…。」


「ミサト、そのためにベルデたちがいるんだ。ベルデが言ってたよ。ミサトから緑の球もらってから、力が出るって。」


「サライ、私の力なんかじゃないよ。なんか、不安になってきた。」


「まだ、自覚足りないな。ま、仕方ないか。でも、いろんな現象がミサトを真の王だと言っている。私たちには無い力持ってるんだよ。たぶんこれから、自覚することになると思うよ。」

 

 タカが、息を切らしながら帰ってきた。


「大丈夫だ。ペストが大流行りだって言ったら、早々と帰って行った。こっちの様子を観に来たのだと思う。普通を装ったよ。不意をつく作戦だからな。何でも、ステラ界の昔の王様は、騒ぎまくって、油断させて、攻めたって言うじゃないか。なあ、ヨウイチロウ?」


「そう、ここでは、騒ぐことはできないが、普通の生活で、戦闘モードを感じさせないことで、相手も警戒を緩める。」


「そうなんだよな。なかなか、血の気の多いやつらばかりだから、どうなることかと思ったが、みんな、落ち着いてよくやっている。」


「そうだった。サライさん、ペストって、今は大丈夫なの?」


「ミサト、安心して。今はもう大丈夫だ。コハクや、村人、セラが頑張ってくれたよ。」


「だが、そのセラが感染した。その身体で城へ行ってしまったんだ。どうなってるのか。あとをソウが追いかけて行ったんだ。持って行った薬飲んでくれていると良いが。」


「それで、お父さんは城に行ったって言ってたんだ。大丈夫かな。カイって人、怖いんでしょ?」


「ミサトが行くまでは、何もしないよ。ソウがいれば必ずミサトが来る事分かってるからね。大事な人質だね。」


「なんか、私がまだ動けないのが、じれったい。」


「ミサト、逸る気持ちはわかるが、制限時間内での1回きりの作戦だ。絶対、失敗は出来ないから、落ち着くんだ。」


「ごめんなさい。シン、分かってはいるんだけど。そうよね。もっと冷静になる。でもセラはなんで、そんな身体で、城へ行ったの?自殺行為じゃない。」


「そう、自分の命を懸けて、カイにペストを移すために行ったんだ。カイに接触できたかどうかも分からないが。カイのことだ、妹が仕掛けてきた事と、こっちも普通の生活を見せていることで、動きが読めずに苛ついているだろうな。そうなると、冷静な判断ができなくなる奴だからこっちには有利になる。」

 

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