第21話 セラの決意

「セラ、大丈夫か。」


「ごめんね。ソウ。ちょっと横になったら、大丈夫。熱はないし。」

「セラ、この前の子に付きっ切りだったからな。疲れたのか。」

「だって、甘える両親が亡くなって、辛くて、悲しくて、寂しかったのよ。まだ5歳だもの。」


「無理するなよ。ベルデのところ行ってくる。」


「ありがと。」

 

「サライ、あれから、動きはないか。」


「あぁ、ベルデ、ソウも来たのか、ちょうど良かった。アントアイの画像を見てくれ。あれからアントアイには、ずっと働いてもらってるよ。風に弱いから、城に入ったついでに頑張ってもらっている。ここ礼拝堂があるだろ、そこで、何やら儀式らしいものやってたよ。で、これ、カイが宝石を供えると、悪魔なのか、黒い大きな化け物が現れる。宝石は消え、低い声で、娘はまだかって言っているのか聞こえたよ。宝石はこうやって手に入れてたんだな。」


「魔女は悪魔と契約とか崇拝するって言うけど、こんな化け物が本当にいるのか。」

「ベルデ、これは、悪魔ではないよ。人間が作った映像だ。このアントアイの映像もそうだが、立体的に空中に映し出せるものなんだ。」


「魔術師の魔術か?」


「違う、違う。機械でできるんだ。ベルデには中々理解し難い事だと思うが。」


「なんか、よくわからないが、そう、恐れないでもいいんだな。」


「それを信じているカイの方が、危険という事だ。」


「ソウ、ステラ界の調査員のシンから、伝言頼まれた。シンの同僚で、石見るり子とう女性がいる。ソウがいた頃は美崎るり子か。この前、その女性のところに行っただろ。その時は分からなかったが、女性の兄がカイを裏で操っている男の一人、マコトという男らしい。マコトについて何か知っているかと。」


「そうなのか。そういえば、兄貴がいたと言ってたな。宝石の話に食いついてたと、そう言ってたのは覚えている。この世界では、マコトが魔術と称して、何やらやってるのは知っていた。スタータもそうだろうと思っていたよ。」


「その化け物作りを指示してるのが、狂気のベルガだ。二人はお互い利になる事で、カイを操り、この悲惨な国を作ってると考えていいだろう。ソウ、食糧の方はどうだ。」


「食糧は、サライのお陰で、足りているとは言えないが、飢え死には免れそうだ。」

 タカが慌てて飛び込んできた。


「ベルデ!セラがいなくなった!」


「連れ去られたのか?」

「いや、ベルデ、違うと思う。馬で駆けていく女の姿を、近所の子供が見てる。それに、城からは誰も来ていない。」


「自分から行ったってことか。なんで。ソウ、変わった様子はなかったのか。」


「変わったことで言えば、この前まで、女の子の看病で疲れてたようだった。横になってたよ。」

「まさか、感染した?コハク何か聴いてるか?」

「何も。でも自分で薬持ってるはずだし、もし感染したなら飲んでると思うけど。」


「自分にわざと感染させたんだ。そして、カイに移すつもりなんじゃ。」


「セラなら、ありうる。姉の事を自分にも責任があるって悩んでたから。きっとそうだ。」

 ベルデの言葉にソウも同じ見解を示した。


「なんてことを。私がもう少し、側についていれば。セラなら大丈夫だと思って、任せていました。」


「コハクが側についていても、セラは隙を見て行動してたと思う。自分を責めるな。どうする、ソウ、行くのか。止めても行くんだろうけどな。」

「あぁ、ベルデ。行くよ。行って早く薬を飲ませないと。」

「光線銃は持って行かないのか。」

「サライすまない。この銃で撃っても、また復活するんだろ。カイにダメージは与えられない。この弓矢持っていくよ。」

「わかった、射るとしても、足を狙え。」


「そんなに上手くないから、確約は出来ないよ。誰もついてくるな。感染者を増やしたくない。」

 

 セラが護衛兵によって、カイの元に連れてこられた。


「離しておやり。セラ、懲りずに良く来たね。また傷だらけになりたいのか。」


「ハナ、もうこんな事はやめて、昔のハナに戻って。」


「ふん、セラ、せっかく情けをかけて、命を取らずにいてやったのに、恩を仇で返すのかい。」

 

 セラは懐に忍ばせていた紙の袋を、いくつもカイに向かって投げつけた。カイは持っていた短刀で、飛んできたその袋を次々と切り付けた。袋の中身は飛び散り、カイの顔面にも付着した。


「なんだ、これは。臭い。こんな子供だましで、私を脅そうと言うのかい。」


「これは、毒よ。ハナ、もうあなたは死ぬのよ。」


「バカにして。そんなことで騙せると思ったのかい。」

 

 セラは兵に押さえつけられながら、

「ハナ、私はペストにかかってるのよ。ぶつけたのはペスト菌。今、村は飢えとペストで何人も死んでるのよ。」


「ウソ言うんじゃないよ。そうしたらセラだって死ぬでだろ。そんな脅しにのらないわよ。」

「ウソなんかじゃないわ。ハナを倒せるなら、私の死なんてどうってことない。ずっと思ってた。城に来た時から。」


「あんた忘れたの?あの時の女王に父がどんな目にあったか、魔女だからと言って、村人にどんな嫌がらせ受けたか。魔女狩りの歴史を繰り返してはならないのよ。」


「もう、魔女狩りなんてないでしょ。これだけ、何人も傷つけて、やりたい放題。もう満足でしょ。」

「まだ、まだ足りないわ。私たちが受けた仕打ちは、どんな事をしても癒えるわけない。」


「だから、母も殺したの?」


「あの人はね、私を産むんじゃなかったって言ったのよ。そして私を刺そうとしたの。なんにも役にも立たないくせに、母親面してお説教なんて要らない。城で生かせてあげたのに。もう必要無くなったからよ。」


「ハナ、あんたは、鬼よ。この世のすべてを殺しても、人の心を失ったあんたの心が癒える事はないのよ。ハナはすべてを敵に回しても、自分を守りたいだけ。自分だけなのよ。」


「ふん、永遠の命が得られたら、太陽も昇るわ。飢えも無くなる。国のためじゃないの。必要のないものは消え、必要なものは残る。人が少なくなれば、食糧を争わなくても良くなる。そのための犠牲なのよ。自然の摂理に従っているだけ。私は間違ってない。」


「そんなの、都合の良い論理よ。それに永遠の命なんて、あるわけがない。スタータなんて、人間が作ったものよ。騙されてるのが分からないの?」


「今に分かるわ。なんでも言っていればいいわ。」

それは、こっちのセリフよ。」

 と言いながら、セラの身体は崩れ落ちた。


「牢にでも押し込んでおけ!」


「セラ!」

 ソウが飛び込んできた。


「あら、ソウ、あなたの方から帰って来てくれたのね。リヴも待っていたわ。」


「セラはどこだ。」


「色々、ほざいたから、牢に放り込んだわよ。こんな臭い紙袋で、私が傷つくとでも思ったのかしらね。」


「セラはペストにかかってる。あんたに移して、差し違える覚悟できたんだよ。セラがぶつけたのは、おそらくペスト菌だ。あんたは、もうすぐ死ぬ。死にたくないだろ。どうだ、この薬を飲めば、助かるぞ。しかし、王の座と引き換えにだ。」

「その手には乗らないよ。私にはね、永遠の命が待っているんだ。あんたの娘なんだろ、分かってるんだよ。早く私の前に連れてきておくれ。それまでは、あんたは殺さない。どいつもこいつも、バカにして。気が変わるまで、仲良くセラと牢に入ってろ。」

 

 リヴがカイの姿を見て、そばに寄ってきた。床に飛び散った、液体を舐めていた。


「リヴ、そんな汚いもの舐めちゃダメよ。」

 

 カイは、リヴを抱き上げ、サタータからのお告げを思い出していた。『臓を蝕む…。』不安になり、慌てて着替えと身を清めた。

 

「ソウ、なんで来たのよ。」


「近いうちに、計画を決行する。セラがやらなくても、絶対、カイを倒すことは出来たんだぞ。」

「ソウはハナの怖さ知らないのよ。昔、魔女という事で、いじめられて、近所の男の子が亡くなったのよ。ハナが疑われたけど、上手く逃れたわ、でもあれ、本当はハナがやったの。自分を守るためになんでもやるわ。どんな悪事も正当化する。怖い人よ。」

「ハナに、菌をぶつけたんだろ、やる事はやったんだ。薬飲むんだ。」


「私はもう生きてても…ハナを止められなかった。」

  

 途切れ途切れの涙声で話すセラに、ソウは畳みかけた。


「何言ってるんだ。村の人をたくさん救った。村人にはセラが必要なんだ。」


「でも…。」


「セラがいなくなったら、自分も生きてる意味がなくなる。」


「ソウこそ、何言ってるのよ。娘さんがいるのよ。」

「確かに、娘を守るためにここにいた。でも、もう、自分の友人が父親として、家族を守ってくれている。今の自分は、娘を即位させ、セラを守る事が、自分が生きる意味なんだ。だから、死ぬな。」


「私、生きてていいのかな。でも、もうダメかも。」セラは徐々に生気を失っていった。


「セラ、生きるんだ。絶対、助かるんだ。」

 

 ソウは、セラに薬を口移しで飲ませた。

 

 

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