第19話 珈蘭会議(最終)

美彩都はソファでくつろいでいる俊樹の隣に座った。


「パパ、珈琲いかがですか?」


「気が利くねぇ。」

「ねぇ、パパ聞いてもいい?」

「なんだ。ママが同窓会に行って寂しいのか。」

「違うよ。子供じゃないんだから。夢の話よ。ほら、同じ夢を見てる人が、何人もいたでしょ。」

「そうだね。一人だけでも、ありえない事なのに。何かあるとしか思えないな。」


「夢の中には七人いたの。石見先生と中新先生、洋一郎おじさん、あと智花の弟の銀青君、あと赤毛の子と、もう二人。みんな、先生と洋一郎おじさんは私が知ってる人、でも銀青君なんて、接点全くなかったし、あとの三人は知らないし。この夢がなんか意味があるんだったら、何かしら、つながりあるんじゃないのかな。と考えても全然つながりが分かんない。パパどう思う?」


「そうだな、こういうの、ママの方が探偵もの好きだから、興味ありそうだけど…まぁ、あの感じじゃ、聞けないか。」

「だから、パパに聞いてるのに。」


「美彩都、ブーブーってお前の鳴ってるんじゃないのか?」

「あ、ホントだ、景湖さんからだ。」

 

黒川からの電話で、赤毛の子が判明した。


「パパ、すごい。家坂先生が探した赤毛の子も私の夢見たんだって。これで、五人になったよ。まだ、その子には詳しい事言ってないから、今度、珈蘭会議で話すって言ってた。」


「なんだ、その珈蘭会議って。」

「いつも珈蘭で集まる会議だからって、黒川さんが言ってた。」

「そんな名前決めたっけ。」

「黒川さんが、決めたんじゃない?たぶん、今。」

「はぁ、ま、いいんじゃない?あと二人か。」


「パパ、もう一つ聞いてもいい?」

「いいけど、今日はどうした。甘えん坊か。」


「たまにはいいじゃない。あのね、パパがママと結婚した時、抵抗なかったの?だって、他の男の人の子供育てなきゃいけないのよ。それも友達の子だよ。いくらお願いされたからって、そう割り切れるものじゃないでしょ。」


「えっ、なんだ、急に。びっくりさせるなよ。」


「急だけど、急じゃないの。前から思ってた事よ。十七年も経って、お父さんが生きているってわかったでしょ。パパって、私たち家族の事もお父さんの事も一生懸命考えてる。どこまで、人が良いのかなって。」


「そんな事思ってたのか。まぁ、最初はもちろん結婚なんて考えていなかった。美彩都を抱えて頑張ってるママを支えているうちに、ママを好きになっただけ。蒼真に頼まれなくても、結婚してたよ。それと蒼真が生きてる事が分かった時は素直に良かったと思う。この前、今日子に、もし蒼真が見つかる手掛かりが見つかったらどうする?って聞いたことがある。」


「へぇ、で、ママ、なんて言ってた?」


「帰ってこないと言う事はそれなりの理由があると思うから、今更、会いたいとも思わない。自分には今の家族が大事だって。それで、パパも同じ気持ちだと言ったよ。ただ、ママはたぶん動揺してる。あれだけ辛い思いして、十七年間不安がなかったわけではないと思うし。」

「パパ、優しいね。いつもママの事思ってる。」

「当たり前だろ。美彩都はどうなんだ。蒼真が目の前に来たら、パパなんて、ポイってされちゃうかな。」


「何言ってるの。私のパパは白石俊樹。お父さんはDNAで繋がってるだけじゃん。そんなにDNAが大事だと思わないし。ママとパパ、そした私が家族でいる事の方はずっと大事だよ。」


「ありがとな。」


「パパ、泣かないでよ。」


「頑張るよ。もう遅いから、おやすみ。寒くなってきたから風邪ひくなよ。」

「はあい。おやすみ、パパ。」

 

 

「珈蘭会議へようこそ」


「白石、なんだ、そのネーミング。」

「黒川さんが付けたのよ。いいでしょ。」

「中新先生、勝手にごめんなさい。なんか名前ないと、都合悪くて。」

「そうか、わかった。みんな、それで、良いか。」

「みんな良いってよ。」美沙都は、上機嫌である。


「白石、お母さんはどうした?」


「ママはね、また、みんなに迷惑かかるかもしれないからって、来なかった。」


「そうか、そうだな。じゃ、始めよう。まず、最初に、今日は二名メンバーが増えている。紹介する。えっと、白石頼むよ。」

 

美彩都は二人の背後に回り、紹介を始めた。

「了解。まず、この子、一番最年少になるわね。14歳の木下銀青君。パルクールが得意なの。私のクラスメートでもあり、友人の智花の弟さん。例の私の夢を見たんだって。それと、この赤毛の子、相川瑆生さん。前回言ってた家坂先生が捜した、双子のエカルラートの片割れの子孫です。この子も同じ夢を見たことが分かって。黒川さんと同じ東華大学で、映像の勉強中だったわね。」

「美彩都、お姉さんになった気分なんだろ。なんか嬉しそうだな。」

「パパ、そりゃそうよ。弟がいるみたいだもん。」


「それでは、これまでの経緯を話そう。」

 

中新の説明に、銀青と相川はただ呆然とした。その様子を見た黒川は2人の肩に手を乗せて言った。

 

「最初はみんな、こうなるのよ。なかなか理解するのに時間かかると思うけど。夢を見たメンバーは選ばれし者なんだから、しっかりついてきてね。」

「おい、おい、黒川さん、選ばれし者って、あんまり、プレッシャーかけるなよ。」

「良いじゃない、夢の中では、選ばれているんだから。」

「なんだか、頭が変になりそう。」

「大丈夫よ、瑆生くん。そこの真田さんも、理解するのに、みんなの倍以上かかったから。」

「倍どころか、未だに、自信はないよ。」

 

中新は話を進めた。

「追々、少しずつ分かってくると思うが、分からない事はその場で聞いてくれ。では、前回の話から。石見先生のお兄さんの件は、やはり可能性が高い。もう一人の男、シャイル界のベルガと言う男なんだが、その男が、魔術師をマコトと呼んでいたらしい。宝石も隠し持っていた事も確認された。その2人の男がカイの行動を心理的にコントロールしているとみている。」

「宝石持ってたって、城は入れたのか?」

「俊樹さん、そうなんだ。村の娘が男に連れ去られて、救い出した時に、監禁された部屋にあったらしい。」


「娘さん、大丈夫だったの?もしかして兄が?」


「抵抗した時の傷はあるが、元気だと言っていた。実行犯はお兄さんでなくて、ベルガの方だ。でもその部屋にはマコトもいたから、加担はしているだろうな。」

「そうなんだ、兄が関わっているなんて。」

「お兄さんは、お兄さんだよ。石見先生が責任感じることはないよ。」


「でも…。先生、娘さんを連れ去ったのは何故なの?」


「白石の身代わりだ。」

 

中新は、サライから聞いたマコトとベルガとのやり取りの話をした。

「私の身代わりなんて。そんな、ひどすぎる。私が、カイの前に行けば、こんな事にはならないのね。」

「ダメだ、今は危険すぎる。」


「白石の十八歳の誕生日は来年の1月28日だな。その日以降3日の間に即位する事ができる。」


「私の即位って3日間しかないの?」


「そうだ、カイは真の王に即位されたら、手出しが出せなくなることはわかっているから、十八歳になる前から白石を狙っている。石像の眼が赤く光っているから、即位が近い事は把握しているが、日までは知られていない。ただ、その時が来た時の石像に何等かの変化の可能性もあるので、分かっているものとして行動しなければならない。白石が十八歳になる直前にミドワルへ行く。ミドワル界に、シャイル、ステラ、ミドワルのそれぞれのメンバーが集まり、最終的な会議をする。」


「そんなことしたら、皆が危険だろ。」


「真田さん、そうなんだ。それでだ、周囲の景色と同化して、周りから見えなくする空間をつくる事ができる。シャイル界内では可能だが、界間の安全な移動と別界で作動を可能とするために開発中だ。ただし、制限がある。24時間だ。1月27日0時に会議開始、1月28日0時に作戦決行とする。」


「でも、元々のこの伝説が間違っていたら、美彩都の即位が叶ったとしても、やられてしまうのではないのか。」


「そう、あくまでも伝説だ。確証はない。伝説頼りでなく、カイを無力化する作戦だ。但し、殺すことはしない。」


「じゃ、兄とベルガを捕まえるということ?」


「そうだ。マコトは、石見先生、直接、説得してくれ。おそらく、ベルガの指示で動いているだけだ。問題は、そのベルガだ。シャイルでの言動、行動を考えれば、かなり思考は偏向的で、人間の狂気となる過程を楽しむ欲求があったようだ。ステラ界の過去の残虐な事件などの書物に傾倒していたとの証言もある。シャイル界の人間だ。色々ツールを備えていてもおかしくない。こっちの戦略も読まれてしまう蓋然性も高い。この2人を押さえれば、カイはパニックにはなるだろうが、冷静な判断は出来なくなる。そのタイミングで捕らえる作戦だ。その上で、記憶をコントロールする。」


「記憶をコントロール?そんな事もできるのか。もっと早くすれば、こんな大がかりな事をしなくても良かったのではないか?」


「俊樹さん、気持ちは分かりますが、むやみに、対象者を捕えようとすると、犠牲者を出すだけで、また、重要な人物である場合、無計画に記憶をコントロールしてしまうと、その支配下においては、無秩序に混乱を招くだけなので、慎重な処置なのだ。シャイル界では、重罪者に諸々の条件下で課すことができる処置で、即位のタイミングという事で、特別に許可は下りている。」


「シャイル界は、文明が進んでいるとはいえ、やはり、ルールはあるということか。で、ミドワルへは、誰が行くんだ。ここのメンバーがみんな行けるわけないんだろ。」


「もちろん。それでだ、白石美彩都、自分、マコトの対応のため石見るり子。この3人はで共通しているのは、夢だ。そこで夢の中のメンバーで考えた。エカルラートの幻影の下で、白石が私に力を下さいと託されたメンバーにも、何か目に見えない意図を感じる。だから、その他のメンバーとして、神田洋一郎、木下銀青、相川瑆生この三人で考えている。夢の中では、白石の他に七名であるから、あと二人となるが、シャイル界で一人、ミドワル界で一人判明した。このメンバーは良く考えてほしい。承諾してくれた者は、私たちと共に闘ってくれる事を承諾するか否かの返事を1週間後までに頼む。メンバーは1月26日15時にここに集まって、神生山から、ミドワルへ移動する。随時詳細な情報を入れるので、確認しておいてほしい。適宜、このメンバーで作戦を立てる。だいたい2か月後の事になる。」


「帰って来れるんですか?」


 相川は不安そうに、中新に聞いた。

「もちろん、それは保証する。界間での移動は、かなり身体への負担は大きい。行って帰ってくる。その1度切りだ。ミドワルでは、電気もガスも無い。食料も乏しい。絶対的に、その環境に慣れているミドワル界での兵の方が有利かもしれない。だが、村人やシャイル界の他のスタッフで全力でサポートする。それと、向こうでは、ぺストの流行が確認されたが、今は沈静化しつつある。このタイミングではいい情報だ。」


「姉ちゃんたちに、どう説明すればいいんだよ。」


「銀青くん、智花とご両親には、中新先生と、私から説明するわ。ね、先生。」


「どこまで、理解してくれるか不明だが、話すしかないな。」


「話すなら、自分の父の方に最初に話した方がいいかも。異世界云々関係は、興味あるみたいだから。映画や小説の世界だけでなくて、科学者の本も読んでたし。」


「わかった、そうしよう。瑆生は大丈夫か?」


「家出同然で出てきたし。誰も心配するもんなんかいないし。言わなくてもいいよ。」

「そんな。直接が嫌なら、手紙書くとかは?」


「本当にいいって。なんなら、向こうにずっといてもいい。テツっていう人も住み着いてるじゃないか。」


「そんなわけにはいかないでしょ。やっぱり、何かの形でもいいから、伝えておかないと。」

 黒川が、少し怒り気味で相川にそう言った。

「はぁ、分かったよ。適当に手紙でも書くよ。」


「いよいよ、なのね。なんか怖いわ。」

 

今まで、前向きに明るく振舞っていた美彩都だが、その時が近づいている事を徐々に感じていた。

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