14話 前兆

「グアァァ」

夜の山に狼の呻き声が響く。


薄暗い山の一角、そこには3体の狼とそれに襲われ掛けている人間が3人いた。先程までは。

しかし、為す術が無いと思われていた人間達だが事態は逆転して襲っていた筈の狼が今は襲われているのだ。



「取り敢えず一匹」

私は筋骨隆々の男の前に立ち、襲ってきた狼を一発殴って絶命させた。

だが他の狼達は怯む事無く左右から私に向かって襲いかかってきた。


だが狼達が二匹揃って飛び上がってきた所を見計らい急接近して二匹の腹を殴った。

その衝撃で〝ドォン〟と破裂音が響き狼達は絶命した。


「逃げるんでしょ?早くしないと仲間が駆けつけてくるわよ」

私は2人の男の方に振り向き声をかける。


私の声で我に帰ったのか2人は荷物をまとめ始める。


結局、私達はさっきのブラックウルフ以外の敵とは出会さず無事下山する事が出来た。



◆ ◆ ◆



「き・・・ん」


「・いさ・・」


「・・・さん」


私の耳に誰かの声が聞こえる。

一体誰の声だろうか?


「記伊さん!!」


「はいぃ!!」

いきなりの大きな声に驚き思わず飛び起きてしまった。


周りを見渡すと私と同年代の男女が椅子に腰掛け、机には教科書やノートが開かれている。

そう、ここは授業中の教室だった。そして、私は授業中に居眠りをしていたようだ。


「記伊さん、この問題分かりますか?」

教室の前では黒板に何やら数字の羅列が書かれており数学の先生が私に問題の答えを問うてくる。だか私は理系科目が苦手でこの問題も良く分からない。


「えぇと、・・・分かりません」


「そう。じゃあ本江さん」

私が分からなかった事で奈々が指名された。

さっきまで居眠りしていた事もありその恥ずかしさと奈々が当てられた申し訳なさで萎縮しながら座った。

周りではクスクスと小さな笑い声も聞こえたので余計に恥ずかしくなってしまった。


はぁ。最近寝不足多いし深夜の依頼減らした方が良いのかな?

そんなことを考えていると隣から声が聞こえてきた。


「記伊さん、大丈夫?」


「え?あぁ、うん。大丈夫だよ賢二けんじ君」

声をかけられると思っていなかったから動揺したように答えてしまった。

賢二君はよく私の事気に掛けてくれるけど、こればかりは答えられないのよね。



◆ ◆ ◆



「なるほど、ブラックウルフですか」


「はい。昨日遭遇したのは三匹ですが奴らは十数匹程の群れで活動する魔物です。近くに仲間がいるのは確かな筈です」


「そう。何にしても貴方達が無事で何よりです」


「と言っても彼女のお陰なんですが。

それにしても良く雇えましたね、『暗闇の何でも屋』なんて」


「まぁ。・・・とにかく、引き続き調査を頼みますよ」


「はい。それではそろそろ失礼します、協会長」


そう言って筋骨隆々の男は部屋を後にした。

ここは魔術師達が集う魔術協会。その協会長室では何やら不穏な会話がなされていた。

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