5話 影の力を持つ男性

「はぁはぁ」

一人の男が息を切らしながら走っていた。

時折後ろを見ながら。まるで誰かに追われているように。


「はぁはぁ、ははは。どうやら巻いたみたいだな」

男は誰も追って来ていない事を確認すると立ち止まりそんな事を言う。

もう日も沈み空は暗い。更に、日中でも薄暗い路地裏は夜だと尚更暗く感じる。


男はそんな場所にいた。だが男もいつまでもそこに立ち尽くしている訳でない。その場所を立ち去ろうと後ろに振り向いた


「ぁ」


時には男は既に意識から手を離し倒れていた。


「全く、手間取らせやがって」

男性は倒れた男を見ながら吐き捨てるようにそう言った。


突如、男性の影が伸び倒れた男に被さった。すると今度は、男が地面に沈んでいった。まるで影に呑み込まれるように。


「よし、さっさとこれ片付けて来るか」

そう呟くと、男性もまた地面に否、影に沈んでいった。


路地裏には今起きた事を証明出来る物も人もなかった。



◆ ◆ ◆



カッカッ

地下に誰かが歩く音が聞こえてくる。

その足音はある檻の前で止まった。


「ここです。影也かげや様」


「分かった」

そう言うと男性は自分の影をその檻の中まで伸ばした。すると今度は、影から男が出てきた。


その男は先ほど男性の影に沈んでいった男だった。

まだ男は気絶しているのか、ぴくりとも動かない。


「さて、依頼は果たしたし報酬だ!」

そう意気込んでいた男性だが


「報酬でしたら既に口座に振り込まれていますが?」


「えっ」

その場で報酬を手に出来ると思っていた男性は素っ頓狂な声を出してしまった。


「ってことは、憶斗のやつぅー」

何かをぶつぶつと呟いたと思えば「はぁ」とため息をついて影に沈んで行った。


男性と居たもう一人の方はその光景を黙って見ていた。


さて、影を操ったり、影に潜り移動する。明らかに普通ではないが、これが男性の持つ能力、『影』の能力である。



男性の名前は記伊きい 影也かげや。記伊家の夫にして『影能力者』である。

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