4話 言語を理解出来る女性

「Excuse me.Could you tell me the way to the nearby station?」

明らかに日本人でない青年が一人の女性に声をかけた。どうやら最寄り駅を探しているようだ。


「You will see it when you go straight」

女性は真っ直ぐ行けば見えて来ると流暢な英語で答えた。


すると青年は「Thank you」とお礼の言葉を述べて去って行った。


『あ!言音さんだ!何してるの?』

そう言ってまた別の人が女性に話し掛けて来た。


『これから買い物に行く所よ』

そう言ながら女性は膝を曲げてしゃがみこんだ。すると、そこに居たのは一匹のだった。つまりこのネコが女性に話し掛けてきたのだ。


だがそれはこのネコが頑張って人間の言葉を覚えたとかではない。端から見れば「ニャーニャー」としか鳴かないただのネコである。では何故この女性にはネコが人間の言葉を話しているように聞こえるのか。それはこの女性がネコの言葉を理解しているからである。つまり、この女性もまた普通ならざる力を持っているからである。どんな国の言葉でも、どんな動物の言葉でも理解し話す事ができる。これがこの女性の能力である。


『言音さん。僕も付いて行って良い?』


『ふふ。お腹が減っているんでしょ?』

女性はネコの質問に質問で返しているが、ネコは確かに買い物と聞いて食べ物欲しさに付いて行こうとしているのだ。だからなのか、ネコは女性と目を合わせようとしない。


『冗談よ。さぁ行きましょう』

女性はネコがこっち振り向いたのを確認すると立ち上がってスタスタと歩きだした。


『待ってよー』

そう言いながらネコは女性を追いかけるように走りだした。


◆ ◆ ◆


『言音さんありがとう』

そう言ったネコの足元には生魚が一匹丸々と置いてあった。


『ふふ、どういたしまして。

それより他の子達にもそのお魚さん分けてあげてね。』


『うん。分かった。

またね、言音さん』


『ええ、またね』

そう言ってネコが魚を咥えて帰るのを手を振りながら見送った。


『さて、私も帰ろうかしら』

ネコが見えなくなるのを確認すると女性はさっき買った食材の入ったカバンを背負い直して帰路に付いた。

女性はふと空を見上げると空は少し赤みがかっていて現在がそろそろ夕方であることを表していた。



女性の名前は記伊きい 言音ことね。記伊家の妻にして『言語理解能力者』だ。

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