104 匈奴 ≪1≫

 


 中国古代史を学んでいると、中国大陸の北・モンゴル高原に住んでいた遊牧騎馬民族である匈奴きょうどの存在は外せません。


 古代の中国は、多くの国が興りそして滅亡していった歴史でもあるのですが、匈奴との戦いの歴史でもありました。




 その象徴があの長大な万里の長城です。


 万里の長城といえば始皇帝が建設したと思われていますが。

 実際は、始皇帝時代よりも昔からあちこちに築かれていて、始皇帝の時代にそれらがくっついて、長い長い壁となったというのが真実です。


 よく見る万里の長城の写真では、その上は馬車でさえ通れるほどに広く高く石が積み上げられ、またところどころに見張り台もある、頑丈な城壁といった感じですが、あれは一部分です。


 土を固め盛り上げた壁のようなものも多く存在します。


 先生が現地で撮られた写真では、長い年月の中で崩れてしまい、草の生えたこんもりとした人の背丈くらいのものもたくさんありました。


 壁は馬さえ通さなければよいのだと、先生は言われていましたが。

 とすると、あの頑丈な石の城壁とこんもり土壁の違いは、どこからくるのでしょうか。大きな都市が近くにあるとか、山や川などの地理も関係しているのかも。


 そうそう、これは余談ですが。

 以前の聴講生の中に、『史記』を地理で読むのが面白いという人がおられまして。その頃の私は、『史記』の物語的な部分に惹かれていて、「地理って、なんのこと?」と思ったのですが。いまでは、そういう味わい方も面白そうだなと思っています。




 ところで、農耕民族とか狩猟民族とか、その生活様式でおおざっぱに分けていますが……。私はその中に略奪民族というのもあると思っています。民族で分けるのは語弊があるとしたら、大規模な略奪集団とでもいうものでしょうか。


 収穫を終えたころの集落を襲って、農作物などを略奪します。


 狩猟民族と農耕民族、それぞれにお互いの産物を物々交換したらよいのにとは思いますが、それは理屈の世界。略奪は元手もいらず手っ取り早いし、略奪しないと生きていけない厳しい環境の地に住む人たちもいたことでしょう。現代の感覚で、善悪で単純に分けられるものではないような……。


 人間の三大欲望は、「睡眠欲」「食欲」「性欲」とか言われていますが、このなかに「物欲」も入ると、私は思うのですよ。とくに人の持っているものを、楽して手に入れたいという「物欲」は、「睡眠欲」「食欲」「性欲」と同じくらいに、本能に近いどうしようもないものとだとも思っています。


 ただし略奪されるほうも、いつまでもその状況に甘んじているわけではありません。集落は結束して国となり、兵を抱えて武器を備え、長大な壁も設けるようになる……。


 時間はかかることでしょうが、これが定住して生活する者たちの強みでしょうか。 

 略奪者は、いずれ消滅する運命です。


 国の起源は、征服欲に囚われた一人の男の欲望の結果だと思っていたのですが、国を造り税を納めることで得られる人々の安心安全もあるのですね。




 話をもとに戻しまして、あれほどに古代中国の国々を苦しめた匈奴も、漢の武帝によって力を削がれてしまいます。そして漢民族に同化して、その存在は消えてしまいました。



 匈奴≪2≫に続きます。


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