92 №4‐2『史記』に登場する人物<竇嬰・田蚡・灌夫>



 前回にお互いの足を引っ張り合って最後は死罪とか謎の病死をしてしまった竇嬰とうえい田蚡でんふん灌夫かんぷですが。宰相や将軍にまで昇りつめたということは、それぞれに能力も人間的魅力もあったはずと思われます。


 ……ということで、今回は、『史記』の描写より3人の具体的逸話について紹介します。

 

 古代中国での賞賛されたかっこいい男の言動や政治的駆け引きを味わってみてください。彼らの言動をちょっとアレンジして、書いておられる中華小説に取り込むとリアリティがぐっと増すかも知れません。




 最初は竇嬰とうえい


 その竇という名前が示すように、彼は竇太后の親戚です。それにしても外戚(皇帝の母方の親族)の権力というのは、現代では考えられない凄まじいものがあります。


 彼が大将軍に任命された時の逸話。

 支度金として皇帝から賜った金千斤を家の中には入れず廊下に並べて、訊ねてくる軍吏に持たせては軍資金にさせた。金銭には潔白な人として、名声が高まったようです。




 二番目の登場の田蚡でんふんは、景帝皇后の同母弟です。


 彼もまた外戚の一員として権力を欲しいままにしました。 彼の具体的な逸話としては、まだ若い武帝をないがしろにして勝手に多数の官吏任命を決めてしまい、武帝が「君の官吏任命はもう終わったのか。私もまた官吏を任命したいのだが」と言ったという逸話があります。


 また、田蚡が考工(機器を製造する役所)の土地に邸宅を増築した時に、若い武帝は「君は武庫が欲しいと、(直接的に)、なぜ言わないのか」と怒りを露わにしたという逸話もあります。


 田蚡が若い武帝をいかにないがしろしていたかという2つの具体的な例です。それにしても、宮中内の政治の駆け引きを、そこに居て見て聞いていたかのように具体的な逸話で紹介してしまう技は、司馬遷の巧い書き方です。


 そういう逸話をどういう方法で知ったのか、そしてどういう基準でチョイスして『史記』に書き残したのか。ほんと、知ることが出来るのであれば、ものすごく知りたいものです。




 話はもとに戻しまして、竇太后をバッグに権勢を誇っていた竇嬰は、竇太后が死んだこともあってだんだんと落ちぶれて、その権勢は田蚡へと移ります。


 そこに現れたのが、任侠の大親分である灌夫かんぷです。


 彼は義侠心に富み、威張るものに逆らい、弱いものの味方をするために市井の人たちに大人気でした。ただし、短絡的な考え方をして、酒の席での争いごとが絶えないという困った面も。


 この灌夫と落ち目の竇嬰がまるで父と子のように気が合って、自分たちを見下す田蚡にいろいろと悪さをしかけます。それが酒席での大喧嘩に発展して、ついに三人は武帝の裁きを受けることになります。


 その結果(複雑な経緯はいろいろとありますが)、竇嬰と灌夫は死罪、なぜか田蚡も間をおかずに病死。


 まるで、歌舞伎の演目を観ているような、手に汗を握る面白さ!

 もしかしたら、酒席での揉め事を利用して、武帝は朝廷にはびこる外戚を排除したとも想像できる展開です。




 これを読まれている皆さんは、竇嬰・田蚡・灌夫という聞き慣れない名前が出てきたところで、ギブアップだったと思いますが。いやあ、私は、こうして講座をおさらいしながら書きまとめて、本当によかったと思いました。


 あらためて司馬遷の歴史家・記述家としての手法に感服し、そしてまた書き残しておきたいという彼の気概に触れたような気がして、ちょっと心が震えています。




(注意としてのお願いです。この『史記』に登場するいい男たちシリーズは、いろいろな媒体から得た知識をもとに、私の頭の中で渦巻く妄想・偏見・独断で味付けしたものです。史実とは異なっていることがあります)



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