25 殉葬



 カルチャセンターの『史記』の先生は、現地主義というのかフィールド調査を大切にする人でした。史記に出てくる場所にはほとんど訪れ、始皇帝の巡幸を辿り、司馬遷が歩いたであろう道も歩いたそうです。

 そして今でも、しょっちゅう中国に渡り、古墳発掘の現場に立ち会っているとか。


 それで、たくさんの写真を見せてくださいました。




 その写真の中で、驚愕を持って覚えているのは、最近発掘されたという古墳の写真の中の1枚です。


 一つの棺のまわりをきれいな輪を描いて取り囲む、10体くらいの人骨。

 そうです、殉葬です。

 なんという皇帝の墓であったかは忘れましたが、周りを取り囲む人骨は、全部、十代の女の子たちだそうです。あの世での皇帝のお世話をするために選ばれた、女の子たちなのでしょう。


 いろいろな殉葬の写真は、ネットで調べれば見られますし、そういう本にも掲載されていることだと思いますが、実際に写した人の説明を聞きながら見るというのは、感じ方がぜんぜん違いました。


 写真を見ていて、人間というものは、その時の価値観で正しいと思えば、こういうことも平気でやってしまう生き物なんだなあと、思ったことです。

 そして、現代に宗教的独裁者が出現して、殉葬が死者のための正しい行いであると説けば、いまの私たちも疑うことなくやってしまうかも知れません。


 司馬遷の時代には、この殉葬はあったりなかったりの過度期のようでした。

『史記』の中にも、「あの皇帝は、治世においては偉大だが、殉葬を認めたので悪い皇帝だ」とかいう記述があるとか、聞いたように覚えています。





 ところで、先生が見せてくださったこの殉葬の写真は、まだ学術的には公開してはならないものだそうです。


 少人数の素人の集まりでのみ、見せてもよいというものでした。

 中国側のすべての調査が終えてからでないと、公にしてはならないとか。

 そして、その調査が終わるのに5年はかかるだろうと、先生は言われていました。


 いま中国では、古墳や古代の遺跡が次々と発見されて、発掘調査されています。


 兵馬俑で有名な始皇帝のお墓も、まだ周囲の一部分だけの発掘です。

 始皇帝の棺が公開される頃は、もう、私は生きていないのだろうなと思うと残念です。





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