第35話 女神様と屋上
去年も同じような感じだった気がするが、今年も九月の後半でも暑い日が続いている。これから先の未来、平均気温が上がり続けるのかと考えるとやるせない気持ちになる。
秋の学校の行事として、文化祭が来月に行われる。そこで、各クラス毎に何かしないといけないのだ。それについては決まっていることなので仕方がない。そこで、俺達のクラスは話し合いの結果、コスプレカフェをすることとなった。
「なぁ、穂香。文化祭の衣装とかってどうするんだ?」
二人で手を繋ぎながら帰宅中に聞いてみた。
「既製品を元にして、自作するみたいよ。全員分」
「マジか?間に合うとか以前に、できるのか?」
「うん、多分大丈夫じゃないかな~。女子は基本的にみんな同じだしね」
女子はメイド服が基本で、アレンジしたかったら各自好きなようにしていいってことだったな。
「穂香は何かアレンジとかするのか?」
「ううん、私はしないけど……スカートは短めにしてって言われてるくらいかな~」
なんだと!それは素晴らしい……いや、短いのは嬉しい反面、けしからんな。うん。
「ちょっと、ユウ君?……今、ゴクリって音が聞こえたよ?……そんなに気になるんだ……」
「ああ、それはもちろん……気になる……」
「心配しなくても出来上がったら見せてあげる」
「楽しみに待ってるよ」
そんな会話をしながら、気が付けばマンションまで帰ってきた。
「ねぇ……ちょっとだけ寄り道しない?」
「え?いいけど……もう帰ってきたぞ?」
もう帰ってきたのにどこに寄り道?と思ってたら、屋上だった。何気に屋上に行くのは初めてだ。
屋上に出ると少し風があって、太陽が雲に隠れているので涼しい。俺たち以外には誰もいないようだ。
「あ~風が気持ちいい……ユウ君、今日って何の日かわかる?」
「何の日って……」
今日は何もない平日のはずだが……わざわざ何のために屋上に……あ、そうか、去年の今日、穂香がここから。
屋上の淵の手すりは完全に修復されている。更に、フェンスが増築されているので、今はここから飛び降りることは難しい。
「わかった。穂香が落ちた日だな」
「む~正解だけど、わざわざそんな言い方しなくても……せめて、運命が変わった日とか、そんな風にいってくれてもいいじゃない?」
「ははは、すまんすまん、わざとだ。そうか……あれからもう一年たったのか……」
穂香は俺の言い方にちょっと不満そうにするも、すぐに柔らかい表情になった。
「うん……もし、あの時、屋上に行ってなかったら、どんな学校生活を送ってたかなって……やっぱり勉強ばっかりしてたのかな……」
「俺は……そうだな、学校では浩介と菜摘に振り回されて、あとは目立たないように勉強と筋トレばかりして過ごしてたかもな」
「その場合、部屋の掃除とかはどうなの?溜まりすぎて私の部屋にも影響出てたかな?」
「いや、そうならないように、母さんが来る回数が増えてたんじゃないか?」
俺がうんうん頷きながら考えてると、穂香が呆れたような表情になった。
「え~っ、自分で掃除してた可能性はないの?」
「うん、ないだろうな。コンビニ弁当も、もれなく全種類制覇してただろうし」
「あの状況からなら想像できるけどね……」
「だから……穂香には感謝してる……ありがとう」
そう言って穂香の頭を撫でると、そのまま抱き着いてきた。それと同時に穂香からいい匂いがふわっとやってくる。穂香は以前、俺の匂いが落ち着くと言っていたが、俺は穂香の匂いが落ち着く。
「あの時は……ううん、あの時から私はユウ君に恋してたんだと思う。あの部屋を最初見た時は、マジありえない、とか思ったりもしたけど……今思うとね、あの頃は何とかしてユウ君に好きになってもらおう
、って考えてたんだと思う。お腹の傷の事もあったし、それさえも受け入れてもらえるくらい、好きになってもらえたら……って。そして、ユウ君は私の心も身体も救ってくれた……私の方こそ、ユウ君にはいくら感謝してもしきれないよ……」
「穂香……」
俺は穂香の顔を自分の方に向けて、そっと唇を合わせた。そのまま舌で入り口をツンツンとつついてあげると、穂香も遠慮がちに返してくる。いつもならそんなことないのだが、場所が場所だけに恥ずかしいのだろう。
だが、それも次第に解れていき、お互いに激しく絡め合う。段々穂香の身体から力が抜けていき、俺の方へもたれ掛かるように身体を預けてきた。とろんとした表情になって、少し息が荒くなってきているが、ここではこれ以上はいけない。
名残惜しそうに唇を離すと、どちらのとも言えない透明な糸が一本繋がっていた。
「もう……こんなところで……誰かに見られたら恥ずかしいよ」
「大丈夫だ。俺しか見ていない」
「屋上はね……よくおばあちゃんが日向ぼっこにくるから危ないんだよ?覚えておいてね」
「えっ?マジか?」
それは知らなかった。覚えておこう。
「うん。部屋の中でなら好きなだけしていいから……帰ろうっか」
「ああ、そうだな」
「また……来年の今日も一緒にここに来ようね」
そんな約束をして、俺達は部屋までの短い距離も手を繋いで帰っていった。
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