第34話 たまには男だけで

 夏休みも終わりに近付いてきた頃、今年に関しては浩介も課題を全て終わらせ、余裕のある日々を過ごしていた。

 最近は六人で遊ぶことの多い俺達だが、今日に限っては珍しい面子になっていた。俺と浩介と守の三人だ。

 どうやら、守に悩みがあるらしく、男だけで話をしようということになった。そんなわけで、近所のファミレスに来ている。


「いや~なんつぅか、俺達だけでこうやって集まるのって初めてだよな?」

「うん、そうだね」

「確かにな」

「ナツがいないと何喋っても怒られないからな~」


 おい、浩介。気持ちはわからんでもないが、菜摘に聞かれたら怒られるぞ。


「わかった。後で言っておいてやるから安心しろ」

「おい、優希。それは勘弁してくれ」

「でも、浩介君っていつも清浦さんに色々言われてるけど、よく大丈夫……というか耐えられるね?僕だったら精神的にもたないと思う……」


 俺もそれには激しく同意する。


「まぁ、俺はナツの事を愛してるからな」


 ニカッと笑って言い切った浩介は、何と言うか非常に男らしく見える。イケメンだ。


「ほぇ~、凄いね。じゃあ、それでも言われてキツかった言葉ベスト3教えてよ」


 お、それは俺も気になるな。

 だが、それを聞いた浩介の様子がおかしい。


「……キツかったと言うより、俺が言われてヤバかったのは一つだけだな」


 その時の事を思い出しているのか、なんか泣きそうだ。さっきのイケメンどこ行った?


「それはな………………もう終わりですか?……だ」

「「え?」」


 浩介が絞り出すようにして言った言葉に対し、俺達は揃って意味がわからなかった。


「それって……そんな酷い言葉じゃないよな?」

「うん、普通に使ったりするよね?」

「いや、待て待て」


 俺達が話すのを手で制して浩介が言った。


「それはな、あるタイミングでだけ、とてつもないダメージを与えてくるんだ……ってか優希、お前わからないってことは、一ノ瀬さんに言われたことないのか?」


 言われて記憶を辿るが、その言葉自体言われたことない気がするな。


「あ~、うん、多分ないな」

「マジか、この裏切り者」

「あの……僕にもわかるように説明してほしいんだけど……」


 それを聞いた浩介が、守の方に向き直った。


「守……お前も俺や優希みたいに彼女出来たら、仲良くなってすることするだろ?それが終わった時にだな……言われるんだ…………もう終わりですか?…………と」


 浩介が悲壮な表情で語る。なるほど、何の事かわかった。女性優位で男が早く果てるカップルにありがちなことだ。

 そして、これは浩介にとってはかなりデリケートな問題である。

 俺は言われたことないが……確かにこれはキツイな。

 菜摘はそういう時もドSなのは聞いているが……


「浩介、その後は菜摘に搾り取られる感じか?」

「あぁ……そうだ。よくわかったな」


 そりゃあ、わかる。いつも近くでお前らの事見てるからな。


「なるほど……浩介、それは考え方を変えよう。お前が悪いんじゃない……菜摘が凄いんだ。あいつはラスボスみたいなもんだから、勝てなくて当然だ」 

「……はっ!そうか、ナツが凄すぎて俺が早く終わるのか……それなら納得だ。ありがとう、親友。少し気が楽になったぜ」

 

 浩介が単純で良かった。浩介が勝てる日は来ないかもしれない。普通ラスボスなんて時間たっても強さは変わらないが、菜摘の場合は当然成長するからな。

 レベル1の浩介がレベル99の菜摘に勝てるはずもない。そして、浩介が修行積んでレベル99になった頃には、菜摘はレベル2000とかかもしれない。勝てないだろうが頑張ってくれ。


「ただ、ナツが満足してくれてるかどうかが気になるな。なぁ、優希はどうだ?一ノ瀬さんを満足させられてるか?」


 俺は浩介の問いにすぐに答えが出せなかった。俺自身はこれ以上ないくらいに満足してる。だが、穂香はどうか?そんなこと考えた事もなかった。

 思えばいつも俺の都合ご優先で、穂香は俺に合わせてくれている。そんな感じさえもする。穂香が嫌だと言わない事をいいことに、穂香の気持ちを考えてなかったな。


「……わからない。お互いにそんな話もしたことなかったし……俺は満足してるが、穂香がどうか?ってのは考えてなかったな」

「そっか……お前達は見るからに大丈夫そうだけどな。なぁ、一ノ瀬さんとそういう話をすることがあったら、ナツがどうなのか聞いてもらってくれないか?」

「あ、ああ、それは構わないが、直接菜摘に聞けばいいんじゃないか?」

「いや、ナツの場合、俺が聞いたら……機嫌がいい時は満足してる、悪い時は満足してないって言われるな。そういうことは素直に言ってくれないんだよ……そんなところも可愛いんだけどな」

「なるほど、お前が言うんならそうなんだろうな。穂香にはそれとなく話してみるが、期待はしないでくれ」


 浩介とそんな話をしていて、置いてけぼりになっている守に気が付いた。理解できることとできない事が混ざって、よくわからないみたいな表情をしている。


「守、すまん。元々お前の話を聞くために集まったのに、別の話で盛り上がってしまった」

「ううん、いいよ。先の話だけど勉強になった気がするし……あの……改めて、僕の相談なんだけど……実はさ……玲さんの事なんだけど……好きなんだ……」

「え?ああ、知ってるけど?なぁ、優希?」

「そうだな。何を今更そんなことを?」


 守が照れながら話すが、それに対する俺達の返事は守には予想外だったようだ。 


「……え?え?なんで知ってるの?僕、今初めて言ったんだけど?」

「そんなの見てたらわかるって!ってか、お前ら付き合ってるんじゃないのか?」

「いやいや、そんな……付き合ってなんかないよ……なんか最近さ、玲さんに避けられてると言うか、逃げられていると言うか……そんな感じがするんだ……」


 守のその言葉の後、俺と浩介の目が合った。お互いにそんなことないだろうといった感じで、同時に首をひねる。


「……そんな感じはしなかったけどな~」

「そうだな。俺達は付き合ってると思ってたくらいだからな」

「え?そうなの?」


 俺達が六人で遊んでる時も、主に玲からだが、肩組んだり後ろから守の頭を抱きしめたりとかしてたからな。普通に手を繋いで歩くし、周りから見たら付き合ってるようにしか見えない。


「二人だけで遊んだりしてないのか?」

「してるけど……玲さんはその時もなんかそわそわして、落ち着きがないみたいな感じかな……前みたいに抱き着いてきたりとかもしないし……」

「……それって、玲が守を意識して、照れて恥ずかしがってるだけじゃないのか?」


 浩介の意見に俺も大きく頷く。


「俺達は二人が付き合ってるものだと思ってたからな……ただ、この場で俺達が話し合っても解決しないことはわかる。守は玲に告白しないのか?」

「えっ?そりゃあ、するなら僕からした方がいいのかもしれないけど……恥ずかしくて……玲さんの好意はわかるし感じるから、多分OKしてもらえるとは思ってるよ?」

「お前ら二人とも意識し出してから、恥ずかしくてお互いに言えないだけか?」

「……玲さんはわからないけど、僕はそうかも……二人で会うと緊張しちゃって……」


 いや、玲もそうだろ。恥ずかしがって言うこと言えない玲なんて、なかなか想像しがたいな。


「よし、それならアレを使えばいいじゃないか。文章考えてメッセージで告白しろよ。最近流行ってるみたいだし、クラスでも何組かそれで上手くいったって話だ」

「あ~、それならまだ大丈夫かも……メールとかでなら普通に話せるし……」



 家に帰ってから穂香に聞いたのだが、この日、穂香達も三人で会ってたらしい。メインは玲の事で、内容は似たようなものだ。ただ、主に菜摘の話は、他人に聞かせられるようなものではないくらい激しかったそうだ。

 結局、守と玲は無事付き合うことになった。いいことだ。


 ちなみにもっと後の話だが、守が玲に「もう終わりなのかい?」と言われたらしく、浩介と守がガッチリ握手するという出来事があった。

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