第31話 たこ焼きハプニング
新しいクラスになり一ヵ月が過ぎ、カレンダー通りの休みの人間にとっては長期連休となるゴールデンウイークがやってきた。
当然、俺達のように部活もしていない学生にとっては、基本的には有意義な休みの期間だ。それなりに宿題はあるものの、俺も穂香も前半でサクサク片付た。その後は、基本的に二人でイチャイチャして過ごすのが、基本パターンになっていた。
そんな長期休暇も残り二日となった。今日の天気予報では、最高気温が三十度近くなるいうことだ。日中は半袖で十分なほどで汗ばむ陽気になるだろう。
今日は浩介が家からたこ焼き機を持ってくる。みんなでたこ焼きパーティーをするのだ。メンバーはいつもの四人に、新学期になってから仲良くなった、玲と
守は元々浩介の友人で、今回一緒のクラスになった。身長は男子の中でも低い方で、まだ160センチに届いていない。更に線が細くて華奢な体型だ。かなり童顔で子供っぽい感じだが、女性陣から言わせると可愛らしい顔らしい。
ばっちりメイクして女装をさせれば映えるんじゃないかとか、クラスの女子が盛り上がっていたのを聞いたことがある。頑張れ、守。
特に玲に関しては、可愛いもの好きセンサーにヒットしたのか、よく守の方を見ている。ただ、男なので気軽に撫でたり抱きしめたりはできないのだろう。
時々、悶々としていることがあるようだ。まぁ、玲の好みはわかった気がする。
「あ、みんな来たみたいだね」
玄関のチャイムが鳴ったのを聞いて穂香が立ち上がった。俺も続いて玄関に行く。
玄関を開けると四人とも揃っていた。守と玲に関しては、わかっていても驚いているようだ。
「オッス、たこ焼き機、二台持ってきたぜ~」
「こんにちは。穂香さんは相変わらずの新妻感がいいですね」
「こんにちは。わっ、ほんとに一ノ瀬さんがいる。なんかすごいね」
「おいおい、穂香が私服でエプロンとか眼福にも程があるだろう。ちょっと写真撮っていいかい?」
なんかみんな言いたいこと言って入ってくるが、まともなのは男だけだな。特に最後の玲、こいつを家に入れて大丈夫なのか心配になってきた。
「はいはい、みんな中に入ってね。玲、写真はダメよ。あなた何に使うつもりなの?」
同感だ。そして、ここは俺の部屋のはずだが、仕切っているのは穂香だ。こういう時の俺の立場は、段々弱くなっているのを肌で感じる。
「そりゃあ、コレクションに加えるのさ。お~ここが二人の愛の巣か」
「ダメに決まってるでしょ。あと、変な事言ってないで早く入って」
穂香が玲の背中を押して、リビングの方へ連れて行った。賑やかになるのは間違いないが、いつもより疲れそうだな。
さて、たこ焼きパーティーと言っても、焼く数に対してたこの割合は二割しか用意していない。穂香と菜摘で、変わり種を色々用意してあるらしい。チーズ、ツナマヨ、コーン、えび、ウインナー、お餅など、種類が揃えてあるそうだ。
「さあ、始めましょ。みんな好きなの焼いていってね」
たこ焼き以外にも唐揚げやサラダがあるから、結構頑張らないと食べきれないかもしれないな。作ってくれた穂香と菜摘に感謝だ。ちなみに、玲は料理苦手らしい。
俺は自分でたこ焼き焼くなんて初めてしたが、なかなか面白いものだ。最初はボロボロだったが、慣れてきたら意外と綺麗に丸く焼けるんだな。みんな思い思いに焼いては食べを繰り返していた。
ふと菜摘を見ると、自分用にミニトマトみたいなものを投入していた。
ん?ミニトマトなんてあったか?
そんな風に思って別に気にしていなかったのだが、焼き上がる頃それは起こった。
「お、ナツ。そのまん丸のやつ一個もらうぜ~」
全部丸いぞ、浩介。今、菜摘が作っていたものは、確かに綺麗な球体だったが。
浩介がそう言いながら一個取って、口の中に入れて噛むと、いきなり浩介の顔が歪んだ。
「ウッ……アガッ……」
「あっ、浩介さん!それは無理です!」
菜摘が珍しく大きな声を出して、隣に座っていた浩介の頭を抱きかかえると、
「もらいますから、吐いてください」
そう言って俺達が見ている目の前で口付けをした。
正確には、口移しで浩介が口に含んだ物を受け取った。と、言うべきか。
ただ、いきなり目の前でキスシーンを見せられた俺達は、思わず手に持っていたものを落とし固まっていた。
穂香は「なっちゃん大胆……」と呟きながらも、視線は二人をしっかりとらえている。
守は両手で顔を覆い、指の隙間からこっそり見ていた。恥ずかしがり屋の女子みたいだなお前。
玲は守とは逆に、「おおおお!」みたいな感じで食い入るように見入っていた。
反応的に守と玲の性別が逆じゃないのか?とも思ってしまう。
「ふぅ……浩介さん、これはハバネロですから無理です。次からは確認してから食べてください」
あのプチトマトみたいなやつはハバネロだったのか。そりゃ、菜摘以外には無理だ。
ハバネロ丸ごと食べてケロッとしている菜摘もすごいが。どんな味覚してるんだ?
一息ついた菜摘がこちらを向くと、今したことを思い出したのか、ポッと頬を赤く染めて俯いた。
菜摘がこういう風に照れてるのは初めて見る。
「あっ……すいません。見苦しいものをお見せしました」
菜摘はそう言うが、周りはそうは思っていない。
横で辛さに悶えている浩介はカッコ悪いけどな。
「なっちゃんの風間くんへの愛を感じたよ」
「私は菜摘のデレ顔でお腹いっぱいだよ。な、守?」
「ぼ、僕はキスシーンなんて初めて見たから、ドキドキするよ」
玲が守の首に腕を回して抱きかかえるようにしている。あの二人あんなに仲良かったのか?
それとも今のに興奮した勢いか?
まぁ、仲良いのはいいことだ。
「ところで、浩介は大丈夫か?」
余程辛かったのか、まだ復活していない。
「あ、ああ、何とか……辛すぎると痛いんだな。ナツ、助かったぜ、ありがとな」
「元はと言えば、浩介さんが横取りするからいけないんですよ?」
「う……すまん……俺が悪かった……あ~まだ辛い」
浩介は菜摘に謝りながら麦茶を飲み干した。一杯では足らずに二杯目も一気に飲んだ。
「まぁ、浩介。お前のお陰で俺達は良いものを見せてもらったわけだし、ナイスファイトだ」
「むぅ、私だけ微妙に納得いきません……ところで、守さんと玲さんは、いつの間にそんなに仲良くなったのですか?」
菜摘の言葉に全員が守と玲を見る。
二人は先ほどと同じ姿勢だ。
「え?ああ、これは……先ほどの菜摘のキスシーンに興奮してつい……」
「ぼ、僕は……玲さんに捕まえられて動けなかっただけだよ」
一応事実なのだろうが、菜摘に言われて二人とも顔が赤い。
その後、二人は俺たち全員に帰る時間までからかわれていた。
特に菜摘は普段から玲にやられている分、多くの言葉が刺さっていたな。
その日の夜、
「あの二人、良い雰囲気だったね」
「ああ、そうだな」
「なっちゃんも凄かったね。私たちもあんな感じなのかな~」
穂香が俺にもたれ掛かったまま、天井を見つめて言った。
「どうだろうな。人がしてる場面なんて初めて見たし、自分がしてるのは見た事ないしな」
自分のキスシーンなんて鏡に映すか、ビデオで撮らないと見られないからな。俺は見たくない派だ。
「自分のはなんか恥ずかしいから見たくないかも」
そんな会話してると、自然とキスしたくなるわけで……俺達はお互いの口を塞ぎながら、いつものように夜を過ごしていった。
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