第30話 新学期と新しい友人
例年に比べ、今年は平均気温が低く桜の開花が遅れていた。普段は葉桜になっている、新学期が始まる日でも満開の状態。今日に関しては天気も良く、朝晩は肌寒いが日中は過ごしやすい気候だ。
学年が変わる新学期、生徒全員の意識はクラス替えに向いていた。先に見ていた生徒たちは喜んだり、落ち込んだりしている者など様々だ。
俺達も四人でクラス替え発表の掲示板を見る。五十音順に並んでるから、俺の名前は発見しやすい。
一組から順番に見ていく……三組だ。そして、俺の名前の下に一ノ瀬穂香の名前。その瞬間、繋いでいた手をギュッと握る。同時に、同じように握り返してくれる優しい手があった。
そのまま順番に見ていくと、浩介と菜摘の名前もあった。みんな同じクラスだ。
「やったぁ!ユウ君と同じクラス。良かった~。なっちゃんも一緒だね」
「ああ、みんな一緒とは運がいいな」
「そうだな、今年はナツと一緒だぜ~」
「みんな一緒ですから、お昼とかは楽ですね」
「ああ、今年も一緒じゃないか、よろしく頼むよ」
最後に聞きなれない声がしたので振り向くと、穂香と菜摘の肩に手を置く一人の女子生徒がいた。
身長は穂香より高い、160台後半くらいありそうだ。何かスポーツをやっているのだろう、全体的に引き締まった感じがする体型だ。整った顔のパーツにベリーショートの髪型も相まって、穂香より大人っぽい印象を受ける。
美人、可愛い女の子というより、綺麗でカッコいいというのが俺の感想だ。
「誰かと思ったら玲じゃない。あなたも三組?」
穂香が振り返って言った。どうやら、友達のようだな。
「つれないなぁ、私の名前のところまで確認してくれないなんて。どうせ君たちの事だから、あ行と、か行だけ見て終了したんだろう?」
「あはは……ごめん」
玲と呼ばれた子がわざとわしく言った。怒ってるとかじゃなくて、友達同士の冗談みたいな感じだ。
それに対する穂香も軽い感じで謝っている。
「で、そちらの男前二人が君達の旦那様かい?」
「ちょ……旦那様って……」
「だん……な……」
突然飛び出した意外な言葉に、二人が固まる。そんな穂香と菜摘を制してこちらに向き直った。
この子、二人の扱いに慣れているな。
「これから一年間同じクラスなんだ。私とも是非仲良くしてほしい。私は
そう言うと、菜摘を後ろから抱きしめ、片方の手で頭を撫で始めた。菜摘はちょっと表情を変化させるが、されるがままになっている。菜摘に言ったら怒られるだろうが、姉と妹みたいだ。
「俺は相沢優希だ、よろしく頼む」
「俺は風間浩介だ。よろしくな」
「ありがとう。去年は君達のおかげで、クラスの二大美女が昼休みにいなくなってしまって寂しかったからね。今年は楽しくなりそうだ。じゃあ、またあとで」
それだけ言うと玲は去っていった。何というか、ちょっと変わってそうだが悪いやつではないだろう。
「もう、相変わらずなんだから。二大美女って何の事よ~」
穂香が遠くに行ってしまった玲の方を見ながら言った。そりゃあ、穂香と菜摘のことだろう。
「ふぅ、やっと解放されました」
「珍しいな~ナツが何も抵抗しないなんて」
「抵抗しても逃げても捕まって長引くので……早々に身代わりを見つけないと、休み時間に休めなくなります。玲さんは悪い人ではないのですが、私をぬいぐるみみたいに触ってくるので……」
「なっちゃんは玲のお気に入りだからね。風間君が間に入っていけば大丈夫なんじゃない?」
「いや~、俺としてはナツの可愛い姿は見てて飽きないからなぁ。どちらかと言うと見たい派だ。さっきの姿は良かった」
「……こんなに近くに裏切り者がいましたか……」
うんうんと満足そうに頷く浩介を、菜摘がジト目で睨んでいる。あとで怒られても俺は知らんからな。
穂香の方を見ると、微妙な表情を浮かべたままだ。多分、俺と同じようなことを考えているのではないだろうか?
「多分、考えてること同じだよ。風間君ってわざとなのか学習してないのかどっちなんだろうね?」
「どっちもじゃないか?ところで、さっきの玲って子、穂香は菜摘みたいにされないのか?」
「ん~私とか他の子は抱き着かれたり、色々触られたり揉まれたりとか?なっちゃんみたいに小さくて可愛い子はあんな感じかな~女の子同士のスキンシップとしても、玲のはちょっとやりすぎというか……女の子が好きなんじゃないかって噂はあるよ」
マジか。女の子女の子してるやつより、性格的にも友人としての付き合いはしやすそうだが。
「私もなっちゃんも彼氏がすぐ側にいるから、そんなに無茶はしないと思う。玲はあれ以外は真面目だしいい子だからユウ君も仲良くしてあげてね。もちろん浮気とかしたらダメだからね」
「ああ、わかったよ。穂香は俺が浮気するように見えるのか?」
穂香みたいな可愛いくて尽くしてくれる彼女がいて、浮気するとか正直考えられないけどな。そもそも、浮気なんてしたら絶対バレるだろ。
いつも一緒にいるのに、急に「先に帰っててくれ」とか「ちょっと出かけてくる」とかやりだしたら、怪しさ以外何もないしな。
「見えないよ。絶対大丈夫だって信じてるから。私を見捨てたりしないでね」
穂香が少し屈んで上目遣いで見つめてくる。わかっていても可愛くてドキッとしてしまう。
俺としてもこれに対する防御を何か考えないといけないな。こうやってお願いされたら何でも聞いてしまいそうで怖い。
「そんなことあるわけないだろ?心配しなくても見捨てたりなんかしないよ」
どっちかというと、俺の方が愛想をつかされる可能性があるわけだしな。そうならないように色々努力していかないといけないだろう。
「さあ、浩介さん、教室へ行きましょう。あまり近付くと火傷しますよ」
「ああ、そうだな」
「あ、なっちゃん待ってよ~ほら、ユウ君も行こっ」
そう言って差し出された手を取って、菜摘たちの後を追いかけて行く。
そんな俺達の門出を祝うかのように満開の桜が祝福してくれていた。
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