第26話 女神様と年越し
「明けましておめでとう」
「明けましておめでとうございます」
新年一月一日。
年越しそばも食べ終え、テレビでやってる年越しカウントダウンが0になると、俺たちは新年恒例のあいさつを交わした。
その後はスマホでのあいさつ返しだ。俺の場合はすぐ終わるが、穂香は返す相手も多いのか、なかなか終わらなかった。この辺りに昨年一年間の交流関係の差が出てくる。
しかし、それが終わってしまえば正直することもない。正月なので朝までテレビ見て起きていても構わない。
穂香に心配されるかもしれないが、いきなり筋トレを始めても大丈夫だ。
当然の事だが、新年になったからといって、日常のルーティンがそれほど変わるわけでもない。俺はいつも通りに、隣に寄り添うように座っている愛しい人の頭を撫でていた。
一緒に住むようになってわかったのだが、穂香が肌や髪の手入れに、あんなに時間をかけてやっているなんて知らなかった。
髪の毛にしても、俺みたいにシャンプーしてタオルで拭いてドライヤーで乾かして終了――ではなく、俺が初めて見る道具とか使って色々やっていた。
邪魔をするのも良くないと思ってあまり詳しくは聞いていない。多分、聞いてもわからないしな。
そんな風にしっかり手入れされているからなのだろうか、いや、元々綺麗なのもあるだろう。穂香の髪は極上の手触りで、触っている手すら気持ちいい。
ただ、比較対象として他の女性の髪の毛をこうやって触ったことはないし、いつでも触れる自分の髪くらいしかないのだが。
たまに出来心でワシャワシャすると怒られる。
本気で怒ってるわけではなくて、「むー」って感じでちょっと拗ねたような感じになる。それが可愛くて見てみたい時にするが、決まって俺の髪の毛もワシャワシャと仕返しされる。
「こうやってこたつに入ってると眠たくなってくるな」
「ユウ君はこたつで寝たらダメだよ。私はいいけど」
「何で?」
俺がダメで穂香がいい理由なんてあるのか?風邪ひくからとか言わないよな?
「だって……ユウ君がここで寝ちゃったら、私じゃベッドまで運べないもの。私が寝ちゃった場合は、抱っこして運んでくれるでしょ?」
そういうことか、それならわからんでもない。
「それはそうだが……俺を起こすという選択肢はないのか?」
「うん、ユウ君の可愛い寝顔見てると、起こすのもったいないような気がして」
俺の寝顔なんか見ても面白くないだろうに。たまにうたた寝してると、目が覚めた時は穂香が見てることが多かった気がするが。
「いや、そこは起こしてくれていいから」
「え~っ……じゃあ、しばらく見てても起きなかったら起こすようにする」
「しばらくって何分くらい?」
「ん~……もちろん、私が飽きるまで」
「……それって、起こす気ないだろ?」
「そうとも言うかも」
これは、間違いなく起こす気がないやつだ。そのうち顔に落書きされたりしてな。
そんな他愛もない会話をしながら、こたつの上にあったみかんを剥く。寝る前に食べるのもな~とは思ったが、食べたい欲求の方が強かった。一個だけ食べることにしよう。
剥き終わって食べ始めると、くいくいっと袖を引っ張られた。そっちを見ると、「ひとつ頂戴」みたいな表情をしていたので、食べさせてあげる。
何となく動物に餌をあげてるような感じだ。
「甘~い」と言いながら食べ終わると、次のを欲しそうに見つめてくる。期待に応えて口元に持っていくと、パクっと食いついた。
う~ん、可愛い。これは楽しい。
そこで、ちょっとした悪戯を思いついたので実行することにした。三つ目を口元に持っていき、くわえようとしたところで、ひょいと遠ざける。
もう一度持っていくと、先ほどより速い速度でくわえようとしてくるが、これも逃げる。
「む~っ、ユウ君が意地悪だよ~」
「そんなことはないぞ、ほら」
わざとやっているのだから、そんなことはあるのだが、こういう子供っぽいところもいい。
もう一度食べさせようとするが、今度は口を閉じて開いてくれない。ちょっと拗ねてしまったようだ。
じゃあ次はどうしようかなと思って思案する。たまたまテレビの方に視線を向けた瞬間、手首をガシッとつかまれて食べられてしまった。
「えへへ……油断したね」
三つ目が食べられて満足そうだ。
「やられた……みかんも次が最後だな。食べるか?」
「半分こしよ?」
どうやって半分にするんだ?と思っていたら、みかんを半分ほどくわえて、俺の首に両手をまわしてきた。
そのまま、みかんごと唇を合わせてくる。
ふわっと髪からいい匂いがするのと同時に、穂香の瑞々しくて優しい唇の感触と甘いみかんの味を感じられた。
さっきまでのみかんよりも甘い気がする。
新年最初のキスは甘い甘いみかん味だ。
みかんがなくなってからは下唇を含んだり、舌を絡めたりしていると、次第に穂香の表情がとろんとしてきた。
こうなるともう抵抗しなくなるので、額や頬、首筋にも唇でソフトな刺激を与えていく。
「ねぇ、このまま連れて行って」
「かしこまりました……お姫様」
わざとらしくそう言って抱きかかえると、俺たちは寝室に消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます