第25話 女神様のオムライス

 結局、昨夜は穂香のばあちゃんの話しかできず、今日は穂香の服やら生活に必要なものを色々運ぶこととなった。と言っても、引っ越しをするわけではなく、今必要なものだけを運ぶだけなので大したことはない。

 ベッドとかはそのまま置いておくし、部屋の契約もそのままにするらしい。


 俺の部屋には元々あまり物がない。特に掃除されてからは散らかすこともなくなったので、場所は十分ある。

 だが、穂香の服や身の回りのものは、使ってない方の部屋にとりあえず置いておこう、となった。浩介達が遊びに来た時、穂香の服や下着が俺の部屋にあるのは、ちょっと具合悪いからだ。

 ただ、洗面所には二人分のコップや歯ブラシがあるので、誤魔化せないかもだが。


 それらの事も終わってしまえば今日は暇な一日になる。掃除も終わってるし、おせちは穂香が作ってるし、冬休みの課題は穂香と二人でクリスマスまでに一気に終わらせた。多分、年明けに浩介が泣きついてくる気がするが、まあそれはいいだろう。


「今日って何かしておかないといけない事ってあるか?」


 キッチンで昼食の準備している穂香に声をかける。毎日見てるから当たり前になってきてるが、同級生の美人の恋人が、エプロン付けて俺のためにご飯作ってくれている。

 この状況は、浩介みたいなリア中イケメンからでも「羨ましすぎるぞ、コノヤロー」って事らしい。


「ううん、特にないかな~。あ、でも、明日ゆっくり過ごすなら、年越しそばとかそういうのを今日買っておいた方がいいかも?」

「じゃあ、後で買い物行くか」

「うん、一緒に行こうね」

「ああ」


 穂香と結ばれて以降は、買い物も毎回一緒に行くようにしている。同じ学校の生徒に見られているかもしれないが、一度も声をかけられたことはない。割り切ってしまえば意外と気にもならないものだ。


「はい、お昼はオムライスよ。ユウ君、オムライス好きよね」

「ああ、穂香の作るオムライスは最高に美味いからな」


 穂香の作るオムライスは、玉子の半熟具合が俺好みで文句のつけようがない。一つ問題があるとすれば、ケチャップで毎回ろくでもないことを書かれることくらいか。

 それもこれもオムライスの時は、いわゆるラッキースケベが多発している気がする。だが、今回は何もない。菜摘の入れ知恵で、穂香が変な言葉を学んでいなければ、予想の上を行くことはないだろう。


 そして、その時がやってきた。


「今回も私が書いてあげるね」


 そう言って、俺に見えないようにして書いていく。

 ちなみに俺が書かせてもらえたことは……まだない。というよりも、ずっとない気がする。


 出来上がった文字は「大好き」


 予想と違う文字に、思わず口をぽかんと開けて呆けてしまった。その隙に頬に優しく口付けされる。

「大好きだよ、ユウ君。愛してる」


 少しはにかみながら、続けて紡がれた言葉にも追い打ちされ、見事にKOされた。

 大好きな女神様からの不意打ち連続コンボは強力すぎる。それに対して、俺は照れ隠しに抱きしめて頭を撫でるくらいしかできなかった。


「えへへ……私の勝ちだね。さっきのユウ君可愛かった~」

「ああ、完全に俺の負けだ。不意打ちであんなに可愛いのは反則だろ……」


 特に何か勝負しているわけでもないが、たまにこういう風になる。もちろん、毎回こんな風にされたら、俺は全敗する自信がある。

 穂香には自分の可愛さをもっと自覚してほしいものだ。いや、俺に対してはわかっててやってるのかもしれないが。


「はやく、温かいうちに食べよう?」

「ああ、ありがとう」

「「いただきます」」


 穂香のオムライスにはケチャップで、はなまるが描いてある。綺麗にできましたということみたいだ。


「うん、美味しいよ穂香。いつもありがとな」


 やはり穂香の作る食事は美味しい。もう、前みたいなコンビニ弁当やカップ麺生活はできないかもな。食事は完全に穂香に依存してるからなぁ。


 不意に穂香の視線を感じた。食べる手を止めて、俺をじーっと見つめている。


「どうかしたのか?」

「ううん、いつも美味しそうに食べてくれるから見てたの」

「まぁ、実際にこれ以上ないくらい美味いからな」

「ありがと……そう言ってもらえると嬉しい。もっと美味しく作れるように頑張るから」


 そんなに美味しくなったら俺は穂香の作るご飯しか食べられなくなるかもしれない。


「はい……あ~ん」


 目の前にオムライスが乗った穂香のスプーンが差し出された。これは、食べてということなのだろ

う。

 穂香がニコニコしながら俺を見ているので、一口でパクっと食べた。


「美味しい?」

「うん、美味しいよ」


 俺も同じように穂香にスプーンを差し出すと、俺とスプーンを交互に見てから、パクっと食べた。


「美味しい?」

「うん、でも、ちょっと恥ずかしい」


 そのやり取りはオムライスがなくなるまでやり続けた。

 でも、こういうことは二人きりの時だけにしておこう。

 周りに人がいる状況でできるほど俺のメンタルは強くないからな。


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