第20話 女神様にクリスマスプレゼント

「ユウ君、今、冗談言う時なの?」


 穂香がちょっとムッとした感じの反応を見せた。まぁ、あれだけの話の後にいきなりこんなこと言いだしたら、そりゃあ怒られても仕方ない。


「いや、俺は真面目だ。あのさ、俺たちがこういう関係になるきっかけ……穂香が屋上から落ちた時の事は覚えてるか?」

「え?それはもちろん……落ちた私をユウ君が受け止めてくれた……」

「それを……冷静に、今一度考えてみてほしい。何かおかしなことはないか?」


 俺の問いかけに、目を瞑って考える穂香。しばらくして、あっ、と考えに至ったようだ。


「あの時は……落ちた恐怖や助かった安心感であまり考えなかったけど、私……20メートルくらいの高さから落ちた……それなのに、何で私を軽々と受け止められたの?怪我もしてないし、衝撃もほとんどなかった……物理的に考えてもありえない……よね」

「ああ、そうだ。それに気付かれないように、あの場では手短に、逃げるように帰ったわけだ」

「そっか……そうなのね……」

「穂香は、異世界転生物のライトノベルとかって読んだことはあるか?」

「ん~買ってまでは読んだことないけど、友達に借りて読んだことはあるよ?」

「それなら話が早いな。俺は、少しだけだけど前世の記憶があるんだ。幼少の頃の記憶だけではっきりしたものはないけど、魔法を使っていたのは覚えてる。それで少しだけ魔法が使える。ただ、天変地異レベルとかそんなのは無理だ。それと、現代は元々こういう力は存在しないからなんだろうが、使える量は有限だ。消費した力はほとんど回復しない。ただ……そうだな、そこのコーヒーカップを見ててくれるか?」


 そう言って俺はテーブルの上のコーヒーカップに手をかざす。


――水よ――


 一瞬で水が満タンまで注がれる。更に、


――凍れ――


 その水がカチカチに凍り付いた。


「うそ……」


 穂香が恐る恐るコーヒーカップを手に取り、触ったりひっくり返したりしている。


「このくらいならほとんど消耗しない。少しは信じてもらえたか?」


 俺の問いに穂香はコクンコクンと首を上下させた。


「じゃあ、私を助けてくれた時も?」

「ああ、あの時は肉体自体を強化したんだ」

「そっか……そうなんだね……でも……このことって、別に言わなくても……黙っててもいいことじゃなかったの?」

「そうだな、俺はこの力が何かの拍子でバレるのが怖くて、目立たないように過ごしてきたんだ。

普段から注目を浴びるようなことがなければ、もし、使うことがあってもバレにくいからな」

「だから、ユウ君は目立ちたくないっていつも言ってたんだね」

「ああ……穂香、頼みがあるんだ。このことは誰にも言わないでもらえるか?」

「うん……もちろん言わないよ。言ったりしたらどうなるか……それは、私が一番よくわかってるつもりだから」


 そう言って、穂香は俺の腕を抱く力を強めた。 


「ありがとう……あと、少しの間でいい。穂香の身体を俺が好きなようにしていいか?」


 そう言うと、穂香の身体がビクッと震えた。かなり緊張しているようにも見える。


「え?え?……あの……それって……そんな……」


 穂香が顔を真っ赤に染めてそわそわしだした。


「ダメか?」

「ダメじゃない……いい……けど……私、初めてだから……優しくしてほしい」

「大丈夫だ、心配いらない。昔やったことあるが、痛くはないし、むしろ気持ちいいと思う」


 俺の言葉に何かショックを受けているような感じがするが……


「そっか……ユウ君は経験あるんだ……」

「ああ、じゃあ、今から始めるぞ。少し目を閉じていてくれるか?」

「え?ここで?ここリビングよ?……いや、でも……明るいし……恥ずかしい……あ~でも、ユウ君がそういうのがいいなら……いいよ」


 あれ?何か俺と穂香の話してる内容が、微妙にかみ合ってないような気がするぞ?


 さあ、ここからは俺の時間だ。今回で使えなくなってしまってもい。全部の力を使ってでも、穂香の傷を癒す。頼む……上手くいってくれ。穂香のお腹の大きな傷に手を添え、俺は全力で魔法を行使する。


――癒しを――


「ん……なに?これ……ユウ君の身体が光ってる……お腹が暖かい……んっ……あっ……くすぐったいけど、気持ちいい……んんっ……んんんんっ」


 穂香から艶のあるなまめかしい声が聞こえてくる。これは予想外だ。

 俺の精神を凄まじい勢いで削っていく。俺は残りの力を振り絞って注ぎ込むと、一際大きな光が俺達を包み込んだ。


「はぁ、はぁ……ふぅ……これは、疲れた……だが、上手くいったようだな」


 身体が重い。こんなに全力を出したのは初めてだ。今は何も使うことはできないだろう。とりあえず、しばらく何もせずに身体を休めたい感じだ。


「んん……ユウ君、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ。穂香……これが、俺からのクリスマスプレゼントだ」


 そう言って、俺が穂香のお腹から手を退ける。そこには滑らかな磁器のようなキメの細かい肌が……傷一つない肌色が広がっていた。


「うそ……傷が……ない……ううっ、うっ……ユウ君……ありがと……私……私……」

「今まで辛かったな……もう大丈夫だ」


 穂香が泣き止むまでしばらく時間がかかったが、いつもの調子に戻ってからは自分のお腹をペタペタ触っていた。


「えへへ……」

「そういえば、俺が治そうとした時、何か違うことと勘違いしてたか?微妙に話がかみ合ってなかった気がするが?」


 そう言うと、穂香の動きがピタッと止まり、その後、顔だけでなく、首や耳まで真っ赤になった。頭からは湯気が出そうな勢いだ。


「あ……あはは……ははははは…………ねぇ、ユウ君、十分前に戻る魔法ってないの?」

「いや、いくらなんでもそんなものはないぞ。あったらどうしたんだ?」

「あったら十分前の自分を殴り飛ばしに行きたいの。一人で盛大に勘違いして……あ~恥ずかしすぎるよ~それもこれもユウ君が紛らわしい言い方するから……もう……バカバカ」


 俺の方を向いて、両手で胸をポカポカ叩いてくる。

 恥ずかしさを紛らわそうとしているのだろうが、髪の毛ガードがなくなっているので色々と丸見えだ。正直、我慢できそうにない。


 今一度、先ほどの穂香とのやり取りを思い出してみる。


 あ~、俺が身体を好きなように(魔法を使って治療)してもいいか?って言わなかったから、穂香があっちと勘違いしたわけか。


「言葉が足らなかったな。穂香……その勘違いはまだ有効か?」

「えっ……それは……有効に……決まってるじゃない……バカ……」


 その後、俺たちは浩介達からのプレゼントを使って二人で大人の階段を上った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る