247 雪降り積もる年越しの夜・その6
年越しの夜を過ごすために、荘家の表座敷には荘新家の主だった男たちが集まっていた。
しかしながら、仲間の犠牲もあった過ぎていく年を惜しむものは、誰もいない。
皆、盃を片手に、光輝くであろう新しい年のことだけを語り合っていた。
そろそろ、安陽中の寺院の鐘がいっせいに突かれて、あちこちの路地で爆竹が鳴り、花火が打ち上げられる時刻だ。
飲み干した盃を静かにおろした関景が、突然、英卓に問うた。
「ところで、英卓。
新しい年を迎えれば、おまえは幾つになる?」
「そうだな……。
銀山で命を落としかけて、父上のいる慶央に戻ったのが、ちょうど二十歳の時だった」
今まで賑やかに話に打ち興じていたものたちが、英卓の答えを聞き逃すまいと静かになる。慶央からついてきたものたちには郷愁を誘う懐かしい思い出、そして安陽で新しく仲間となったものたちには新しい情報だ。
「傷が癒えてより、仕事を覚えるために、父上の厳しいしごきに耐えること二年目。
その後、沈老人の誘いに応じて安陽に来た。
思い起こせば、安陽で過ごす冬もこれで三度目だ。
年が改まれば、おれも二十五歳となる」
「おお、二十五歳となるのか。
そろそろ妻を娶って、身を固めてもらわぬと困るぞ」
「急におれに歳を訊いたりして、何を考えているのかと思えば。
爺さま、またまたその話か。
おれはまだ妻帯する気はない」
「何を言うか、大馬鹿ものが。
いつまで、遊女の大きな胸に顔を埋めて喜んでいるのだ。
荘新家の宗主としてあまりにも情けない。
本来であれば、慶央に残してきたおれの孫娘を呼んでおまえに娶らしたいところだが、しかしまだあれは七歳でな。
残念でならぬ」
二人の言い合いを聞いていたものたちから、どっと遠慮のない笑い声が起きる。
言い返すことに、英卓も負けてはいない。
「おう、爺さまの孫娘とは、それはかたじけない。
さぞ可愛い娘だろうな。
十年でも二十年でも、おれは待つぞ」
「馬鹿につける薬はないとは、おまえのことだ、英卓」
その時、前触れもなく戸が開いた。
雪の混じった冷たい外気が、部屋の中に流れ込んできた。
皆の視線が戸口に集まる。
だが、寒いと不満の声をあげるものは一人もいない。
戸口には、赤い着物で着飾った美しい白麗が立っていた。
その美しさで、いずれ第五皇子の妃になるだろうとのもっぱらの噂だ。
新しい年を迎えるのに、これ以上の眼福があるだろうか。
「白麗お嬢さまが、お越しにございます」
わたしにお嬢さまをお止めすることは出来ません――と、あきらめを含んだ允陶の声。そのあとに、萬姜の申し訳なさそうな声が続く。
「英卓さま、お嬢さまとご一緒に、新年の花火をご覧になる時刻にございます」
「ああ、そうだった。そのような約束をしていたな」
これで関景との話を打ち切れると、英卓は立ち上がった。
******
承家の屋敷でも、承宇項の妻とその子どもたちが集まって、新しい年を迎えようとしていた。
屋敷の
それにいまでは炭も料理も節約しなくてよい暮しだ。
女たちの姦しいお喋りと、今夜だけは特別に夜更かしを許された子どもたちの嬌声が、雪に埋もれた屋敷の外にいつまでも漏れ響く。
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