再会 (4)
北山区か、一度乗り継ぎが必要だな、帰りは遅くなるな、由希さんに連絡しとくか……。また俺……。
あの家に帰るのが、当然と考えている自分に、驚く。
……急ごう。
由希には一応、メールで遅くなる旨を伝えておくことにした。
電車を乗り継ぎ、目的地近くの、団地街までやって来た。日は暮れなずんでおり、視界が悪くなってきた。ここに来て、
アポもなしに来るなんて、非常識だったか……。
頭が中学生ゆえにそういったことにはいまいち、頭が回っていなかった。だが、ここまで来て引き返すわけにもいかず、目的の団地を探す。
通りかかった公園の広々としたグラウンドでは、まだ小学生くらいの子どもたちが、ボール遊びをやっていた。
「ここか……」
ようやく目的の団地を発見した。恐る恐る、階段を上がっていく。
若槻の部屋の番号を見つけると、息が乱れそうになった。
よし……。
ドアフォンを押した。
「はい」
男の声、若槻だろうか。
「あ、あの、若槻誠一さんのお宅でいら、いらっしゃいま、すか」
どもってしまう。
「そうですが」
「そ、それで、あなた、あなたに用が……」
「なんですか?」
「そ、それは、俺は、その……」
やはり西浜中出身の人間、ましてあの部の元部員仲間とは言いづらい。フォンが切れた。ドアが開く音がする。しびれを切らして直接出てみようと思ったらしい。
「あ……」
そこにいたのは、紛れもなく若槻誠一だった。あの時と顔はあまり変わっていないが、精悍さが増したように見える。この感覚はこれでもう三度目だった。
「ええっと……あなたは?」
さすがに一目見ただけで、十五年前の同級生とはわからなかったようだ。
「お、俺は、その……西浜……中、出身の者で……」
「え……?」
若槻の顔色が変わる。
「その、あなたを知っている者なんですが……」
まじまじとこちらを見てくる。なにか思い出そうとしている目。
「お、同じ……」
クラブだった、と言うのが、どうにも難しい。
いい加減、名乗ろうと思ったその時、
「早馬……?」
「え……?」
今度はこっちが、え、である。
若槻が、目を丸くする。修二も、彼が自分を覚えていたことに瞠目して無言で立ち尽くしてしまった。
「誠一くん、どうしたの?」
奥の方から女性の声、鍋をコンロの上に載せていた。
「……ごめん、みゆちゃん、俺、ちょっと話があるから」
若槻が靴を履いて出てくる。修二も一歩、後ろに下がった。ドアが閉じられる。
「早馬……早馬修二、だろ?」
「う、うん……」
沈黙、二人で棒立ちになる。元々あまり話した間柄ではないゆえになにから話すべきか、迷ってしまう。
「俺、実は……!」
「吉本先生に聞いたのか?」
「な、なにを?」
「だから、俺がここにいるって」
「そ、そう……! どうしてもお前に聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
「あ、その前に、お、俺、今、記憶がないんだ」
「え?」
二度目の、え。
「だ、だから今、十五年分の記憶がなくて、お前ともまだ最後に会ってから三ヶ月くらいしか経ってなくて……」
「……?」
わけがわからない、という顔になる若槻誠一。
「それで、なんで記憶がなくなったのか、今、調べてて……」
「……ちょっと、ここじゃまずい」
振り返ると、帰宅してきた住民が怪訝そうに見ていた。
「向こうで話そう」
若槻が、今しがた修二が通って来たグラウンドを指さす。頷いた。突然の事態にも冷静に対応できる能力は変わっていないようだった。
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