記憶 (2)
しばらく早馬の家で休んだのち、父に頼んで由希の家まで送ってもらった。少し話しただけだったのに、体力を相当消耗したような感覚に陥っていた。
玄関前に車がつくと、
「……」
由希が出迎えてくれた。
心配……してくれたのだろうか……。
父と由希が挨拶を交わすのを横目で見ながら、今後の事を考え始めた。
俺は、この人と、あの子と、この家で……。
父に別れをつげて、家の中に入る。
「お帰りなさい」
「……戻りました」
それで精一杯だった。
ダイニングテーブルに腰かけると、由希が紅茶を入れてくれた。
「あの……なにか、わかった……?」
遠慮がちに、そう訊ねてくる。
「いえ、具体的なことはまだなにも……。ただ……」
「うん……」
黙ってしまう。瞳に映る紅茶がさざ波でも立てているかのようにぶれて見える。
「あ、あの、無理に話さなくても……」
「すみません、まだ調べることがある、ということになりました」
「わかった……」
居間に視線を送る。昼間はバラバラに散らばっていた積木が箱に収められていた。
「ああ、明梨は今日、いないの。お泊り保育で」
「へえ……」
「ほんとは明日だったんだけど、幼稚園が明後日、臨時休園になっちゃって、それでね……」
ということは今、この家は由希と自分の二人だけ、俄然、決意が芽生えた。
立ち上がる。
「修二さん……?」
今こそ、あの記憶と対峙しなければならない、そう思い定めた。
「この後、ちょっと来てほしいところがあるんですけど」
彼女の目を見据えて、はっきりそう言った。一泊置いて、由希はうなずいてくれた。
二人で、電車で移動する。目的地は行ってきたばかりの西浜区、そこに行かなければならない。
車内では口を開くことはなかった。お喋りなんかしていては、決心が鈍ってしまうかもしれない。由希はこちらの様子を気にしつつも、それに応じてくれた。
駅を降りて、家とは逆方向に歩く。わずかに足が震えてきたが立ち止まるわけにはいかない。歩みに力を上乗せして、足取りを確かなものにする。
そして、ついにやって来た。
「ここって……」
「前も少しだけ、見ましたよね。俺の卒業したらしい中学校です」
西浜中の正門前、休日の夜で生徒は全く見えない。
「こっちです」
そのすぐ近くの、ある場所まで移動する。
「ここが……ここです」
そこはあの時とは形を変えていた。目を閉じて、唇をかんで震えと恐怖を払いのける。
「えっと……ここになにが?」
由希が辺りを見回す。
「この階段なんです。ここは、昔……十五年前は坂だったんです」
「坂……それって、工事で作り変えられたってこと?」
「そうなります……。その……」
手がわずかに震えてくるが、固く握り、とうとう口に出すことにした。
「その原因を作ったのが……西浜中サッカー部、俺たちなんです」
「……どうゆうこと?」
「話は、十五年前の冬、二月の終わりまで遡ります……」
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