運命の始動

「…………ぁ」


 ぱちっと、オレの意識は覚醒を果たす。


「え……?」


 五体満足の体。傷はおろか、痛みも感じない。

 

「…………ここは、どこだ?」


 辺り一面、荒野だけが広がっていた。

 頭上に太陽の光はなく、空はくすんだ赤色に染まっている。

 草木の一つも生えていない。生命の気配を全く感じ取れない、見ず知らずの場所にオレは立っていた。


「ああ、そうか。ここが死後の世界なのか……」


 どう考えても助かる状況じゃなかったし、あのまま死んだのだろう。

 散々死を覚悟していたおかげか、思ったよりショックは少なかった。



「残念ながら死後の世界じゃないぞ」



「っっっ!!?」


 背後からの声。

 振り返ると、白髪の男が一人立っていた。


「まあ、似たようなもんかもしれないが」


 白髪の男の身なりは酷いものだった。

 羽織っているコートはボロボロで、中に着ているシャツも薄汚れている。白髪の髪も乱雑に伸びておりボサボサ。髭の手入れもされている様子はない。

 実物を見たことはないが、浮浪者というのはこの男のような格好をしているのだろうと思った。 


「お前がここに来たってことは、そういうことなんだろう。……あまり時間はなさそうだな」


「え? あの……、オレが誰だか知っているんですか?」


「当然だろ、レアム・ロータリス」


 そう言って白髪の男は含みのある顔で笑う。

 対してオレは名前を言い当てられたことに絶句していた。


「何となくだが、向こう・・・で何が起きたか察しているつもりだ。安心しろ。このままだとお前は間違いなく死ぬが、それでも今はまだ生きてる」


「なっ!!?」


 警戒心が高まる。

 それでも男は気にせず、さらなる爆弾を落としていった。


「だから、お前のオレが代わりに死んでやる」


「は? えっ?? ……どういう意味?」


「そのままの意味だ。レアム・ロータリスの死は確定している。ならばレアム・ロータリスの死によってそれを覆すしか方法がない」


「??」


 この男が一体何を言っているのかオレにはさっぱり分からない。

 男はコートの下に隠されていた剣を手に取った。


「それって!?」


 それはとても見覚えてのある剣のデザインに白銀に輝く刃。

 男は剣を振るい、何の躊躇もなく、一瞬で自分自身の心臓部に刃を突き刺し穴を開けた。

 

「は?」


 そして何故か血の出ていない心臓部の穴に男は片手を突っ込み、そのまま心臓を取り出した。

 血は流れていないが、力強く脈を打つ心臓。

 当然だが、生で実物を見るのは初めてだ。

 

「つまりこういうことだ」


 そう言って男は、心臓を持った片手をオレの体に突き刺した。

 

「――――」


 痛みはないが、先ほどから脳の処理が驚かない。

 驚きすぎるのも疲れるな……。

 

「全てはオレの我が儘だ。それに無理やり巻き込んで、村の皆には悪いと思ってる」


 男の顔が悲し気に歪んだ。けれども、遠くを見つめる瞳に後悔の念だけは宿っていなかった。


「多少の『ズル・・』も含まれてるが、それでもオレの力の全てだ」


「――――っ……」


 いつの間にか、男の手はオレから離れていた。

 オレの体に残った傷もない。


「さて、これでオレの最終目標は達成したわけだが、オレが死ぬまで多少だが時間はある。何か質問があれば、少しぐらいは答えてやるぞ」


「お前、は……」


 言いかけて、口を紡ぐ。

 本当は最初から分かっていた。ただ、それがありえないことだからと、目を逸らして気付かない振りをしていただけだ。

 だが、ありえないことは既に起こっている。ありえない存在が、オレの家族を無慈悲に奪い取った。


「教えてくれ、オレの村を現れた『あの存在』は一体何なんだ!?」

 

「当然の質問だが、悪いな。今オレの口からそれを答えることは出来ない。それを今考えたところでどうしようもない。分かりようがないし、時間の無駄だぞ」


 男は真剣な表情で言葉を続ける。


「『あれ』の存在をお前は知った。『あれ・・』に関しては、それだけ知っていれば十分過ぎる」


「…………」


 何となくだが、男の言いたいことが分かった。

 だがそれは、とても辛くて残酷なことではないだろうか。

 

「……何度か口にしていた、【シュジンコウ】って何なんだ?」


 【シュジンコウ】――――『主人公』

 その言葉自体の意味は知っているが、その言葉に何の意味が込められているのかが分からない。


「それもオレの口から答えることは出来ない。まあ、近いうちに嫌でも分かるさ。……いや、本当はもう薄々と感付いているんじゃないか?」


 男は小さく笑う。


「色々と気になることや考え事はあるだろうが、オレに出来ることなどたかが知れている。お前も、それを知ったはずだ」

 

「…………ああ」


 少なくとも、オレは【シュジンコウ】ではない。

 オレに出来ること。

 それを自分の『根源』に触れることで再確認することが出来た。


「そろそろか」


 男がそう言うと、男の体が淡く光り始める。

 男の体の輪郭が薄くなっていく。


「なんだ。わざわざ来てくれたのか、アイツ。――……それにようやく、彼女も見ることが出来た」


 男の視線の先には、一つの人影があった。

 遠くて顔ははっきりと見えないが、向こうもこちらに目を向けていた。


「そういうわけだ。事後報告になるが、色々な想いが積み重なっている。諸々全部、託したぞ」


「…………勝手過ぎないか?」


「ああ、自分・・勝手だろ? だからお前には謝らないよ」


 男はオレの肩に手を置く。

 どういう理屈か、その瞬間男の身なりが変化した。

 

 ボロボロだった服装が一新される。ボロボロに伸びた髪が短く整えられ、白い髪が炎のように紅く染め上がっていく。髭も綺麗さっぱりとなくなっていた。

 浮浪者のような格好で、おじさんだった容姿はどこにもない。

 オレと年がそう離れていない、背の高い少年の姿がそこにある。 

 その顔が一体誰と似ているのか、誰よりもオレ自身がよく知っていた。 



「約束を果たせ」


 男――紅髪の少年はそう言って、こちらを見ている人影に向かって歩き出す。

 一歩二歩と、数歩歩いた所で少年の足は不意に止まり、首だけ動かしてオレを見る。


「それと、レミエルによろしく言っておいてくれ」 


 オレに背を向けたまま少年は、じゃあなと手を上げて歩く。

 彼との距離が離れるたびに、意識が遠のいていくのを感じる。

 瞼が重い。


「…………いや、レミエルって……――」




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「――――誰だよ……」


 目を開くと、また景色が変わっていた。

 空を覆い隠すものは何もない。青い風景に浮かぶ大きな雲が太陽の光を隠していた。


 仰向けに倒れたままの状態で、オレは自分の体を確認する。

 傷一つない、五体満足の体だ。心臓も、きちんと脈を打って動いている。

 

 体が震えた。

 出来ることなら、このままずっと横になっていたい。

 鼻にこべりつく嫌な臭いを無視していたかった。 


「…………っ」


 体を起こす。

 

「っ、ぅ、うう、っっっ…………!!」


 知っていた。

 『それ』は宣言していたし、こうなると何度も覚悟していた。 

 それでもやはり、この地獄を直視して冷静に受け止められるほどオレは強くないのだ。


「う、あ……、あぁ、ああああああああああ!!!」 


 トゥーリ村に暮らす64人の住民。

 老若男女問わず、沢山の骸が転がっていた。

 どれも心臓部に大きな穴を開けられて殺されている。血の海が広く広がっている。

 この場に生存者は一人しか居なかった。

 

 それだけではない。

 家が、畑が、全て焼け落ち燃え尽きていた。

 数十年と生まれ育った故郷をも、容赦なく破壊されていたのだ。



『レアム……』

 

 

 どれくらい泣いていただろう。結構泣いた。

 タイミングを見計らったように名前を呼ばれ、オレは顔を上げる。


「無事……、と言えばいいのか分からないけど、無事だったんだな」


『魔剣ちゃんは魔剣ちゃん武器だからね。殺される対象に入ってないわ』  

 

 少し離れた場所に、鞘と共に魔剣が転がっていた。

 オレは魔剣を拾い上げ、鞘に納める。


「皆死んだ。殺された」


『……そうね』 


「『あの存在』は? どこに行った?」


『分からない。村の皆を殺した後、怪物と共に消えたわ』


「……なあ」


『なに?』


「驚かないのか?」


『驚く? 何が?』


 こちらを気遣うような落ち着いた声音。

 なのに何故か、その声が癪に障った。理性では抑えられない八つ当たりに近い感情と、理性とは別の直感が突発的に湧いてくる。

 

「どうしてオレが死んでないことに驚かないんだ?」


『……『あの存在』が消えたと同時に、レアムの体が急速に回復されるのを見ていたからよ』


 オレに確認する術はないが、その話は事実かもしれない。

 だが、オレが本当に聞きたいのはそんなことじゃない。


「なら、どうして何も聞いてこない? 知ってるだろ? オレは魔力なしの欠児だ。回復魔法なんて当然使えない。言っておくが、『異能』の力だって持っていないぞ。都合良く『異能』の力に目覚めてもいない」


 仮に『異能』の力だったとしても、それが具体的にどんな力なのか、魔剣は疑問に思うはずだ。なのに魔剣はオレが生きてること、傷一つないことに驚いている様子はない。瀕死の状態から目覚めたオレを当然のように受け止めている。


『……レアムは何が言いたいの?』


「決まってるだろ! お前は何だ!? 何を隠している!?」


『………………』


 長い沈黙が返ってくる。

 このままだんまりされるのではないか、そう思っていると魔剣は口を開いた(口など付いていないが)


『魔剣ちゃんには目的があるの。絶対に果たしたい目的が。その目的を果たす為に必要な知識が多いから、その分物知りなの。だからレアムの再生には驚かなかった』


「まず一つ……。魔剣。お前の目的は何だ?」


『答えられない。けれど、レアムの目的と一致しているはずよ』


「は? オレの目的?」


 何だそれ。

 オレに目的なんてないぞ。


「……なら二つ目だ。お前の言う目的を果たす為の必要な知識……、お前の知ってることを教えろ」


『それも答えられない。答えることが出来ない。答えてしまったら、何が起こるか分からない。最悪、そこで終わって・・・・しまう』


「っ」


 一瞬、背筋に冷たいものが走った。

 魔剣の真剣味を帯びた声に、軽い鳥肌が立つ。


「……結局、大したことは聞けないってことか」


『レアム。私は見ての通り、ただの剣よ。誰かが使ってくれない限り自分じゃ何も出来ない。ただの置物になってしまう』


「…………」


『レアム。あなたが私を使ってくれるなら、私はあなたの力になってあげられる。どこまでも、いつまでも』


「――そうか……」


 魔剣に顔など付いていない。だから言葉と声音でしか、魔剣のことを判断することが出来ない。

 真剣味を帯びた言葉の裏で、悪人顔でほくそ笑んでる可能性だって決してゼロではない。だが、それならそれで仕方がないと諦めた。いや、腹を括った。


「よしっ」


 オレは魔剣の言葉を信じることに決めた。

 謎は多いものの、理屈ではなく直感的に魔剣を信じられると思ったのだ。


『それとボッチなレアムの話し相手にもなってあげられる!』


「…………その一言はいらなくない?」


 オレは魔剣を腰に下げる。

 すると『ありがとう』と、小さい声が聞こえた。 



「ん」


 視界の隅で何かが動いた気がした。

 一瞬生存者の存在を信じたが、誰も微動だにしない。

 気のせいだったと、そう思った矢先に水温が鳴った。


 誰も動いていないのに、血の海が波紋を立て始める。

 そして血の海の中から飛び出して、幾つもの微小の何かが空中へと集まり出した。


「なっ!?」


 塵も積もれば何とやら。

 無数に集まった何かが、一つの心臓を作り出す。

 そして瞬く間に、黒い渦が心臓を包み込み、人一人分の大きさまで膨れ上がった。


「そん、な……」


 そこから現れた、一人の少女。 

 一糸纏わぬ白い肌には傷一つ見当たらない。

 そこからまた黒い渦が少女の体を包み、一瞬で黒いコートを生成した。


「キミカ、さん……?」


 僅だが成長している体。顔立ちも少し変わっている。

 けれど、その程度の変化で見間違えたりはしない。透き通った長い銀色の髪も、鮮やかな紫色の瞳も、オレの知るキミカさんの物だ。

  

「その……、えと……」


 突然のこと過ぎて、何を言うべきか分からない。


「………………」 


 オレが口ごもっていると、キミカさんは唐突に横を向いて歩き出した。


「ちょ!? 待ってください、キミカさん! どこに行くつもりですか!?」


 呼び止めるとキミカさんは足を止め、無言でオレの方を向く。

 一体何を考えているのか、表情からはあまり読み取れないところは変わらない。しかし、彼女の纏う雰囲気は今までとは明らかに違っていた。

 オレの知るキミカさんは、物静かだが、穏やかで温かい優しさのようなものが感じられた。

 でも今は、氷のような冷たい眼差しで他者を拒絶するような空気を発している。


「もしかして、記憶が戻ったんですか?」


「いえ、記憶は戻っていないわ」


 声にも冷気を宿し、気の強さを増していた。 


「けれど、使命は思い出した」 


「使命……?」


「【シュジンコウ】を見つけ出す。それが私の使命よ」


 そう言って、キミカさんは再び歩き出そうとする。


「ま、待ってください! まだ話は終わってません! その【シュジンコウ】というのを一人で探すつもりですか!? 何か当てはあるんですか!?」


「……ないわ。それでも必ず見つけ出す」


 使命と言うだけあって、キミカさんの瞳から強い意志が感じられる。

 彼女の言う使命を止める気はないが、仮に止めようとしても無駄だろうと思った。


 少しだけ考える。


 家族を殺され、村を焼き尽くされ、当てがないのはオレも同じだ。

 今後どうやって生きていくか……。

 

 オレはキミカさんと違って使命なんて大それたものはない。

 魔剣のように果たしたい目的も持っていない。


 だが、ないなら、作ればいい。

 オレは生き残ったのだから。

 目的なんて高尚なものではないかもしれないが、やるべきことはある。


 一つは当然、復讐だ。

 理不尽に全てを奪っていった『あの存在』を許せるはずがない。殺された皆の為に、必ず仇は取る。そして同時に『あの存在』が何なのか、オレは知りたい。

 『あの存在』はどんな理由でこんなことをしたのか、オレには知る権利があるはずだ。

 

 二つ目は、【シュジンコウ】とは何なのか。

 【シュジンコウ】とは誰のことを言っているのか、知りたいと、知らなければならないと思う。


 そして三つ目は、まあ、魔剣の目的だ。

 教えてくれる気はないようだが、魔剣の目的を手伝うのも良いかなと思っている。勿論、内容次第ではあるが。

 

 やるべきことが決まった。

 では、どれから手をつけていくか。


 三つ目の目的は魔剣が話してくれない限り、オレにどうすることも出来ない。しかし、魔剣は答えられないと言っている。恐らく今は、何を言っても絶対に聞き出すことは出来ないだろう。


 次に一つ目の目的だが『あの存在』がどこにいるのか当然分からない。

 仮に出会えたところで、オレに勝ち目はない。拾った命を再び散らすだけで終わる。強くなってどうにか出来る存在なのかは大きな疑問を抱くところだが、少なくとも今の状態では、色々とどうすることも出来ないのは間違いないだろう。

 

 残ったのは一つだけ。

 人探しなら、すぐに始められることが出来る。



「キミカさん。オレも手伝いますよ。【シュジンコウ】を探します。人手は一人でも多いほうが良いでしょう?」


「…………そうね」


 間を開けながら、キミカさんは頷いてくれた。

 

「行きましょう」


「まだ待ってください」


「?」


「っ」


 首を傾げてオレを見る。

 使命を果たしたい一心で急いているのは分かるが、この状況でも何も思わないのか。勝手かもしれないが、軽く怒りを覚えた。 


「皆のお墓を作らないと……。お願いします。キミカさんのも手伝ってください」


「………………」 


 ただの押し付けなのかもしれない。でも、記憶喪失でいく宛のないキミカさんを受け入れた村で、両親は衣食住を提供したのだ。亡くなった皆の為に、それぐらいの恩は返してもいいだろう。


 

 小さな村とはいえ、60に近い遺体の数を二人だけで対処するのには時間がかかった。

 全ての遺体を一ヵ所に集め、一気に火葬する。その際の火はキミカさんの魔法によるものだ。


 来る日も来る日も、ずっと剣ばかり振っていた。だから村の殆どの人と交流したことはないし、同年代の子供達とだって遊んだことはない。言うならば、同じ村に住んでるだけの、ただの他人だった。


 それでもどうしてか、村の皆の顔が次々と浮かんでくる。

 オレではない誰かの想いが、オレの知る由もない光景が走馬灯のように過ぎ去っていく。

 

 燃え盛る炎を見ながら、また少し泣いた。


 ◇


 遺骨と灰を集めて、村で一番見晴らしの良い場所に埋葬してお墓を立てる。お墓といっても、形の良い石を積み上げただけ。今はまだ無理でも、必ずきちんとしたお墓を立てると誓った。

 

 焼け落ちた家から使えそう物を頑張って回収し、川で衣類を洗ったりと色々と準備を終えた頃には、日が沈む時間帯だった。

  

 正直、途中で勝手に行ってしまうんじゃないかと思っていたが、キミカさんは最後まで手伝ってくれた。むしろオレと違って魔法が使える分、オレよりも働いていた。

 オレとしては夜が明けてから動くべきだと思ったが、それを言うと本当にどこかへ行ってしまうと思ったので何も言わないことにした。沢山手伝って貰った手前、言い辛いのもある。



「それじゃあ行ってくるよ、父さん、母さん、ライネ。村の皆も」


『ええ、行きましょう、レアム』


 最後にもう一度だけお墓に寄ってから、キミカさんの元まで歩き出す。

 

「【シュジンコウ】を探すに当たって、最初はどこに行くだとか何か決めてるんですか?」  


「決めてないわ」


「そ、そうですか……。あー……、なら王都に行きますか? 人が沢山いるから【シュジンコウ】もいるかもしれませんし、いなくても何か手掛かりとか掴めるかも」


「なら、そうしましょう」


 キミカさんはそう言い、立ち止まったままオレを見る。


「あの、どうかしましたか?」


「王都はどこにあるか分からないわ」


「…………そうですね」


 思い出せたのは使命だけで、記憶喪失のままだからな。知らなくて当然だった。

 だが残念なことに、オレも王都への道を知らない。ずっと剣を振ってたから、ライネと違って村の外に出たことがないのである。


『魔導バスが走る道。街道を進んでいけば王都に着けるわよ……』


「確かにその通りだ……。えっと、街道を歩けば王都に着くそうです」


「分かった。行きましょう」


『……いつかはね』


「んん?」


 いつの日だったか、バスでも王都まで片道7時間ぐらいかかるか疲れると、ライネが愚痴っていたのを思い出す。

 あれ、じゃあ徒歩ならどれくらいの時間がかかるんだ?

 剣ばかり振っていたから、計算とかは得意じゃないし勉強も出来ない。


「ま、いっか」 


 キミカさんは既に道を進んでいる。

 オレも進もう。自分の足で、一歩ずつ。


(頑張るからさ、ちゃんと見ていてくれよ)

 

 最後の最後にもう一度だけ一礼して、オレは故郷から旅立った。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ボクがかんがえたさいきょうのシュジンコウ 宿火理 @yadokariN

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ