3.イルカショーのひととき
そこから突き出した
名物は、さらにもうひとつ加わった。人間によって知能を高められた『知的イルカ』のユウキくん……ぼくがそうだ。
その日ぼくは、イルカショーに出演していた。
博物館には、屋外プールが
強化アクリルの透明な壁面を持つ巨大な水槽だ。ぼくがすいすい泳ぐかっこいい姿がどこからでも見える。屋外プールを取り囲む、ひな
ぼくは水中から高くジャンプして宙返りする。きらめく太陽に向かって飛ぶ、水色のブーメランのように。
トレーナーの谷川さんが、ビーチボールをパスしてくる。ぼくは
観客席から、子供たちの歓声と拍手が届いてくる。
谷川さんが、観客席の子供たちに話しかける。
「はぁい、とっても上手にボールで遊んでくれた、イルカのユウキくんでした。みんなユウキくんに拍手ー!」
ぼくはすかさずさえぎる。
「ちょ、ちょっと待ってよお姉さん、ぼくはもっと遊びたいよー!」
子供たちは驚く。ぼくの声は、口笛と子供の
「あれぇ、今どこからか声がしたぞぉ……」
「お姉さん、ぼくはここだよー!」
子供たちは大はしゃぎだ。プールのぼくを指差し、谷川さんに教えてあげようとしている。
「わぁ、驚いた。ユウキくんがしゃべった!」
「海の底の小学校で、日本語を習ったんだ。
「まあ! よくお口の回ること!」
「ぼくは早口言葉なら、誰にも負けないよ?」
谷川さんはいかにも、困ったような顔をしてみせる。
「うーん、お姉さんでは、勝ち目がなさそう。誰か、ユウキくんと、早口競争したいー?」
はーい!
子供たちは争うように手を挙げ、声を上げた。
イルカショーは、大好評のうちに終わった。
子供たちは満足そうだ。にこにこ笑いながら、両親に手を引かれて帰ってゆく。人間の父親は子育てをする。ぼくはいつも、感心して見ている。
谷川さんがぼくを呼んだ。ぼくはプールサイドに
彼女は笑顔で、ぼくの頭を撫でた。
「ご苦労さん! 今日もいい演技ね!」
「ありがとう! まゆさんもね!」
ぼくは元気よく返事した。谷川まゆりさん、というのが彼女の名前の全部だ。
ぼくは
ぼくがイルカショーで働いているのは、知的イルカの評判を上げるためだ。
ぼくは今、評判のよさを、とても必要としているのだ。なぜ? それは、これから分かる。
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