プロローグ
そして俺の異世界転生は、もう少し、いや、まだまだ続くらしい
気が付くと俺は、この場所に居た。
ひたすら、何もない空間。目の前一面真っ白なペンキをぶちまけた様な、遠近感が狂ってしまうような場所だった。いや、もう既に狂っているのかもしれない。自分の手を目の前に持ってきても、本来なら見えるはずの俺の手が、今は見えないのだ。
「戸惑っておるようじゃな、夕城竜兵」
「……ああ、またこの場所か、神様」
俺は見えない体で、かなりオーバーに肩をすくめた。そして神様に問いかける。
「どうだ? 結構俺、いい仕事してるんじゃないか?」
「確かに。ワシが求めていた通り、いや、それ以上の結果を残しておるよ。流石はMDEの一人。面目躍如とは、この事よのぅ」
快活に笑う神様へ、俺は少しの嘲りも込めてこう返す。
「そうかい。だったらそろそろ、俺も報酬を貰いたいんだけどな」
「ならん」
静かな言葉だが、有無を言わせぬ迫力と、そしてそう行動せざるを得ない絶対的な何かが、俺の中の反抗心を極小化させる。
「……曲がりなりにも、神様の力ってやつか?」
「曲がりも何も、真っ直ぐ神(ワシ)の力じゃよ」
「そう言われても、結構な数の異世界カップルを生み出してきたぞ? 俺」
「そうじゃのう。流石ワシの見込んだ通りの男じゃ」
「俺を殺したかいがあったか?」
「何度も転生し、男女の背中を押してきても、その軽口は治らんかのぅ」
そう言いながら、神様が笑う。
本当に、俺は一体どれだけ異世界を転生してきたのだろう? 十を超えたあたりから、数えるのが馬鹿らしくなってやめたのだ。
正直、数を数えている方が、精神的にきつくなる。自分自身が他人と同化する感覚。そしてそこから引き剥がされる感覚は、やはりいつまで経っても、慣れるものではない。
「安心せい。報酬の件、約束を違えるつもりはないからのう」
「……本当に、嘘だったら承知しねぇからな」
そう軽口を叩いてみるが、俺がこの神様の言う事を信じて働き続けなくてはならないという、圧倒的に不利な状況を覆す事は出来ない。
俺に出来る事は、ただ一つ。
今日もまた違う異世界で目覚めて、隣の美少女が何故俺に惚れているのか、Why done itを推理するだけだ。
ああ、そう思っている傍から、どんどんとまた意識が薄れていく。
その中で俺は、僅かながらの、そして心の底からの祈りを捧げていた。
次の異世界転生は、簡単な事件でありますように。
そして転生先で同化した男が、その後惚れてくれた女と、いつまでも幸せに暮らせますように。
さて、今日もまた違う異世界で目覚めて、隣の美少女が何故俺に惚れているのか推理するとしますか メグリくくる @megurikukuru
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