「下校の際、少し寄っていきたい所があるのだが」

 そう言われて、僕は先輩と一緒にクレープ屋に来ていた。僕は知らなかったのだが、新しく出来たお店らしく、学園の生徒、特に女性には人気が出ているらしい。

 何処からそんな話を仕入れてくるんだ? と思いながらも、やっぱり先輩も女の子なんだな、という安心感に、僕は小さく笑いながら、バナナクレープにかじりつく。バナナの甘みと、ホイップクリームの濃厚なコクに、僕の笑みは更に濃くなった。散らされているチョコレートも、相性抜群だ。

「ふふっ」

 声の方に振り向けば、ベンチに座った先輩が、慈愛の目で僕の事を見つめていた。クレープに喜ぶ自分が、少し子供っぽ過ぎたかと思い、僕は顔を染めながら口を尖らせる。

「な、何ですか、先輩!」

「いや、尊いと思っただけだよ、フリード」

「意味がわからないんですが……」

 何でもないと言わんばかりに、先輩は手にしたクレープを口に含む。先輩はさくらんぼクレープを選択しており、顔をほころばせながら、ゆっくりそれに口を付けている。一番最初に食べたさくらんぼの果柄は、先輩の舌先で結ばれており、これ見よがしに僕の方に向けられていた。

「……そう言えば、先輩は卒業後の進路とかって、決めてるんですか?」

「ん? どうしたんだ、急に」

「……いえ、ただ、なんとなく」

 先輩は間違いなく、将来国お抱えの魔法使いになるであろう。僕にとって、雲の上の存在だ。だから、僕と一緒に居てくれる事に、やっぱりとてつもなく、違和感を感じる。いや、もちろん先輩が傍にいてくれるのは、その、素直に嬉しいのだけれど。

 そんな僕の心中を知るはずもない先輩は、相変わらず天使の様な、女神の様な笑みを浮かべた。

「大丈夫さ。私は、キミのそばを離れるつもりはない。気兼ねなく、甘えてくれてかまわないよ」

 それが信じられないから、こいつ(フリード)は一歩、踏み出せないのだ。

 身も心も包み込んでくれそうな彼女の甘く、優しい想いを、素直に受け入れられないのだ。

 その全てを許してくれるような包容力を持つ彼女を、信じる、信じ切る事が出来ないのだ。

 それはつまり、言葉にするなら簡単で、ただ単純に、腹が決まっていないだけ。ただ、それだけだ。そしてその腹を決めるために必要なな鍵は、きっとあの違和感にある。それが明らかになれば、こいつ(フリード)は、お隣の美少女(グローリア)を、信じる事が出来るのだ。

 何故惚れているのか(Why done it)を解く鍵は、必ず人の中にある。それは、何故(why)は人の中からしか生まれないからだ。

 Who done itは犯人を探り当てる、人そのものに着目している。

 How done itは犯行のトリック、手法に着目している。

 Why done itは、犯人の気持ち、人の想いに着目している。

 そう、MDEのWhy done it担当である俺は、人の想いを探り当てるのだ。

 さぁ、前提条件を整理しよう。

 美少女(グローリア)は僕(フリード)に惚れている。それは神様が確定済みだ。そうじゃなきゃ、俺はこの異世界に転生していない。だから、誰が惚れているのか(Who done it)は既に解かれている。

 美少女(グローリア)は僕(フリード)を甘やかそうとしている。それはもうグローリアは隠しもしてやしない。この世界に転生して来て、俺も僕として経験済み。だから、どう惚れているのか(How done it)も既に明らかだ。

 ならば、残るはあと一つ。

 何だ、今までと同じじゃないか。俺が生きていた時に、散々MDEでやって来た事じゃないか。

 つまり、最後の一つ。何故惚れているのか(Why done it)を俺が解けば、これで事件は解決だ。ここで外す様なら、MDEの他の二人に笑われてしまう。

 さぁ、探れ探れ、潜れ潜れ。俺はもっと、僕(フリード)の記憶を穿り起こせ。美少女(グローリア)が僕(フリード)に惚れている事が確定しているのなら、甘やかそうとしているのなら、その動機、何故(Why)は必ず僕の中に、自分の行動の中にあるはずだ。

 人と人が交わらなければ、何故という想いは生まれない。

 だから潜れよ探れよ俺! フリードとグローリアが、一番近づいた時のことを、二人が一番強く交わった時のことを思い出せっ!

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