②
翌日。つまり、ショコラとFPSをプレイして、そのまま寝て、次の日の朝目覚めた、その日。
俺が高校生になって六日目に、転校生がやって来た。と、そんな噂を、俺の幼馴染である神野 愛(かんの あい)がそのポニーテールを揺らしながら、教えてくれたのだった。
「想太はん、想太はんっ!」
「また慌てて方言が飛び出てるぞ、愛」
「あ、ごめん、宮風くん……」
顔を真っ赤に染め愛は顔を俯かせる。彼女は俺が引きこもりになっても、そこからeスポーツのプロプレイヤーとして学校に戻ってきた時も、少しも俺に対する反応を変えなかった、なんというか、変な奴で、ありがたい奴だ。びっくりすると、ありとあらゆる方言? が飛び出てくるのだけが、玉に瑕だが。
「でも、転校生だよ? 宮風くん。珍しくない?」
「そうだな。入学式が終わって、まだ一週間だろ? 普通、入学式に合わせるだろ?」
「だから、不思議なんだよねぇ。わたしたちのクラスと、隣のクラス、二人来るんでしょ?」
「二人?」
二と言う数字は、最近あまりいい思い出がない。というか、現在進行形であまりいい記憶がない。そう言えば今日は小埜寺姉妹にゲームを教え始めて六日目、偶数で、今日は姉の柚乃の方にゲームを教えるんだったなと思っていたら、教室の中に、柚乃が入ってきた。
HAHAHAHAHA! おおっと、これは参った。余りにも仕事熱心な俺の脳が、とうとう教え子の姿を幻視する様になったとはっ! しかもあいつ、うちの学校の制服着てるぞ。ギャルのブレザーもいいなぁ。あれ? ちょっと最近、ゲームのやり過ぎかな? そろそろ本格的に病院に行った方がいいみたいだっ!
「だ、大丈夫? 宮風くん。似非外国人みたいな無理のある笑い方をしてるよ?」
「そーたじゃーん! やっほーっ!」
「だ、だいじゃしかあたは(誰ですかあなたは)!」
「え? 薩摩弁? マジエモいんですけどーぉ!」
「お前ら、カオスさのエンゲル係数を朝から引き上げるのはやめろっ!」
ちょっとどうすればいいか、俺、本気でわからない!
愛が薩摩弁喋り始めたのも、柚乃が薩摩弁わかったのも、ツッコミが追い付かないからっ!
「み、宮風くん、この人と知り合いなの?」
「ヒミツの関係? みたいなぁ?」
「ヒミツん関係(ヒミツの関係)っ!」
「わかった! 会話量を落とせば、必然的に情報量が下がる! そしてカオス度が下がるっ! つまり柚乃、ちょっと黙っててっ!」
「もーぅ! またそうやってマウントとろうとするんだからぁ。マジ亭主関白だしぃ!」
「だからだ・ま・れっ!」
完全に状況を理解しており、こちらをからかう気満々の柚乃をどうにか黙らせて、俺は愛に柚乃との関係を説明する。
「つまり、俺がゲームを教えている相手の一人が、柚乃なんだ」
「つ、つまり、宮風くんとは、お金の関係?」
「言い方に悪意があり過ぎないか? 愛っ!」
「あーしはそれでもいいよぉ? あーし、そーたにもっと、色々教えてもらいたいしぃ」
「性に関すっ教育(性教育)……」
「そんな単語一つも出てないぞ、愛っ!」
「あ、お、お姉ちゃんっ! ま、まだ先生の、先生の説明、終わってないのに……っ!」
「新たに女性が増えたぜよっ!」
「ど、どうして、土佐弁?」
「さっきは薩摩弁だったよー、しの」
「い、意味がわからないよ、お姉ちゃん……」
「姉と妹なんやか(姉妹なんですか)?」
「愛。悪いが今度はお前が黙ろう、頼む……」
後、小埜寺姉妹が愛の方言理解力が高すぎる。それぐらいのレベルでTBGも上達して欲しい。
「ともかく、この二人はゲームの教え子だ。それ以上でもそれ以下の関係でもない」
「そーそー」
「た、ただ放課後と休日はずっと付きっ切りで、ゲームを教えてもらってるだけの関係ですぅ」
「何奈无天寸加? 曽乃関係波(何なんですか? その関係は)……」
「……しの?」
「ま、万葉仮名、かな?」
「さっすがー、しのっ!」
確かに。詩乃の愛に対する適応力が強すぎる。
「そ、それよりずるいよ、お姉ちゃん! か、勝手に想太くんのクラスにしちゃうなんて……」
「その言い方だと、詩乃は別のクラスになるのか?」
「は、はい。さ、流石に一クラスに二人も同時に編入出来ない、と」
まぁ、確かにそうなるわな。それが許されるなら、体育大会や球技大会の勝負の公平性(ゲームバランス)が悪すぎる。
「あ、ここにいたのか!」
「げっ! 見つかったしぃ……」
その後すぐに説明も聞かず飛び出してきた柚乃が、職員室に連行された。詩乃はちらちらと俺の方をうかがっていたが、柚乃程無茶な行動をするつもりはないのか、大人しく自分のクラスに移動していく。
その結果残ったのは、クラスメイト全員から向けられる、俺に対しての痛い人を見るような目。
その中の一人に愛が入っていたのは、結構俺もショックだった。
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