翌日。つまり、ショコラとFPSをプレイして、そのまま寝て、次の日の朝目覚めた、その日。

 俺が高校生になって六日目に、転校生がやって来た。と、そんな噂を、俺の幼馴染である神野 愛(かんの あい)がそのポニーテールを揺らしながら、教えてくれたのだった。

「想太はん、想太はんっ!」

「また慌てて方言が飛び出てるぞ、愛」

「あ、ごめん、宮風くん……」

 顔を真っ赤に染め愛は顔を俯かせる。彼女は俺が引きこもりになっても、そこからeスポーツのプロプレイヤーとして学校に戻ってきた時も、少しも俺に対する反応を変えなかった、なんというか、変な奴で、ありがたい奴だ。びっくりすると、ありとあらゆる方言? が飛び出てくるのだけが、玉に瑕だが。

「でも、転校生だよ? 宮風くん。珍しくない?」

「そうだな。入学式が終わって、まだ一週間だろ? 普通、入学式に合わせるだろ?」

「だから、不思議なんだよねぇ。わたしたちのクラスと、隣のクラス、二人来るんでしょ?」

「二人?」

 二と言う数字は、最近あまりいい思い出がない。というか、現在進行形であまりいい記憶がない。そう言えば今日は小埜寺姉妹にゲームを教え始めて六日目、偶数で、今日は姉の柚乃の方にゲームを教えるんだったなと思っていたら、教室の中に、柚乃が入ってきた。

 HAHAHAHAHA! おおっと、これは参った。余りにも仕事熱心な俺の脳が、とうとう教え子の姿を幻視する様になったとはっ! しかもあいつ、うちの学校の制服着てるぞ。ギャルのブレザーもいいなぁ。あれ? ちょっと最近、ゲームのやり過ぎかな? そろそろ本格的に病院に行った方がいいみたいだっ!

「だ、大丈夫? 宮風くん。似非外国人みたいな無理のある笑い方をしてるよ?」

「そーたじゃーん! やっほーっ!」

「だ、だいじゃしかあたは(誰ですかあなたは)!」

「え? 薩摩弁? マジエモいんですけどーぉ!」

「お前ら、カオスさのエンゲル係数を朝から引き上げるのはやめろっ!」

 ちょっとどうすればいいか、俺、本気でわからない!

 愛が薩摩弁喋り始めたのも、柚乃が薩摩弁わかったのも、ツッコミが追い付かないからっ!

「み、宮風くん、この人と知り合いなの?」

「ヒミツの関係? みたいなぁ?」

「ヒミツん関係(ヒミツの関係)っ!」

「わかった! 会話量を落とせば、必然的に情報量が下がる! そしてカオス度が下がるっ! つまり柚乃、ちょっと黙っててっ!」

「もーぅ! またそうやってマウントとろうとするんだからぁ。マジ亭主関白だしぃ!」

「だからだ・ま・れっ!」

 完全に状況を理解しており、こちらをからかう気満々の柚乃をどうにか黙らせて、俺は愛に柚乃との関係を説明する。

「つまり、俺がゲームを教えている相手の一人が、柚乃なんだ」

「つ、つまり、宮風くんとは、お金の関係?」

「言い方に悪意があり過ぎないか? 愛っ!」

「あーしはそれでもいいよぉ? あーし、そーたにもっと、色々教えてもらいたいしぃ」

「性に関すっ教育(性教育)……」

「そんな単語一つも出てないぞ、愛っ!」

「あ、お、お姉ちゃんっ! ま、まだ先生の、先生の説明、終わってないのに……っ!」

「新たに女性が増えたぜよっ!」

「ど、どうして、土佐弁?」

「さっきは薩摩弁だったよー、しの」

「い、意味がわからないよ、お姉ちゃん……」

「姉と妹なんやか(姉妹なんですか)?」

「愛。悪いが今度はお前が黙ろう、頼む……」

 後、小埜寺姉妹が愛の方言理解力が高すぎる。それぐらいのレベルでTBGも上達して欲しい。

「ともかく、この二人はゲームの教え子だ。それ以上でもそれ以下の関係でもない」

「そーそー」

「た、ただ放課後と休日はずっと付きっ切りで、ゲームを教えてもらってるだけの関係ですぅ」

「何奈无天寸加? 曽乃関係波(何なんですか? その関係は)……」

「……しの?」

「ま、万葉仮名、かな?」

「さっすがー、しのっ!」

 確かに。詩乃の愛に対する適応力が強すぎる。

「そ、それよりずるいよ、お姉ちゃん! か、勝手に想太くんのクラスにしちゃうなんて……」

「その言い方だと、詩乃は別のクラスになるのか?」

「は、はい。さ、流石に一クラスに二人も同時に編入出来ない、と」

 まぁ、確かにそうなるわな。それが許されるなら、体育大会や球技大会の勝負の公平性(ゲームバランス)が悪すぎる。

「あ、ここにいたのか!」

「げっ! 見つかったしぃ……」

 その後すぐに説明も聞かず飛び出してきた柚乃が、職員室に連行された。詩乃はちらちらと俺の方をうかがっていたが、柚乃程無茶な行動をするつもりはないのか、大人しく自分のクラスに移動していく。

 その結果残ったのは、クラスメイト全員から向けられる、俺に対しての痛い人を見るような目。

 その中の一人に愛が入っていたのは、結構俺もショックだった。

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