第8話 気持ちに決着を

「……ごめんな、突然こんなこと言って」

 遠くの方に、こちらに近づいてくる灯りが見える。もうすぐ電車が、駅に到着するころのようだ。

「…別に……ただ、その……びっくりは、したけど」

 反対からも、同じように電車が近づく。数分遅れてやってくる、蓮が乗る電車だ。

「この気持ちに、決着つけたくなっちゃって。…ごめんな、こんな俺の我儘につき合わせちゃって」

 來斗はそういうと立ち上がり、電車の扉が来る位置まで歩く。それに釣られて蓮も立ち上がる。

 えっと、これはつまりどういうことだ?

 まだ混乱が収まらない頭で、蓮は一つ一つ、さっき起きたことを整理してみる。

 來斗は私に、凛に好きな人はいるのかと聞いて、私は來斗は凛が好きなんだと勘違いして、勝手に失恋だと思い込んで勝手に傷ついた。でも実際は、來斗は私のことが好きだってことがわかって……。

 でも実際問題、凛に好きな人がいるのは事実で、それは結局、來斗と付き合うなんて出来ないから、やっぱり失恋で……。

 起きたことは何となく整理出来てきたが、そのぶん気持ちの整理がつかなくなって、どうすればいいのか余計に分からなくなってしまった。蓮はただ茫然と、電車が来るのを待つ來斗を茫然と見ることしか出来なくなっていた。

「……えーっと、それじゃあまた、学校で」

 急に冷静になっていたたまれなくなったのか、來斗は逃げるようにそんなことを言った。


 ……その一言が、蓮を冷静にさせてくれた。というより、気に食わなかった、と表現するのが正しいかもしれない。未だ気持ちの整理は出来ていないが、確かに今沸き上がった感情の正体には気づくことが出来た。

「來斗!」

 蓮は衝動に駆られたように、來斗を呼び止めた。驚いて振り向いた來斗の表情をはっきりと捉えて、蓮は言う。


「來斗だけ、ズルイよ……!」


 言いたくても言えない、蓮の本当の気持ち。

 言ってしまいたいと心から願う、この気持ち。


 気持ちの整理はまだついていないし、何を言えばいいかもわからない。それでもこの気持ちに、私も決着をつけたいという意思はあった。じゃないともう、”私”は來斗に会えないと思うから――。




「私にも、ちゃんとフラせてよ……!!」

 電車の到着を告げるチャイムと扉を開く油圧の音が、駅の構内に鳴り響く。その音は蓮の言葉をかき消して、純粋な想いだけを、來斗に伝えてくれるようだった。

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