第7話 痛み

「……え」

 一瞬、何を聞かれたのか分からなかった。それが質問だったのかそうじゃなかったのかさえも。

 蓮が黙って呆気にとられた表情をしていると、來斗は「ああ、知らないなら別に」と付け加えた。


 凛に好きな人はいるのか。……來斗は、そう聞いたのか。

 ようやく理解した蓮は、その言葉を反復させる。


 好きな人がいるのか。その質問は、告白をする前の常套句のようなものだ。


 ”蓮”ではなく”凛”に好きな人はいるのか。そんな言葉を、よりにも好きな人から聞くことになるなんて。



 叶うことのない片想いほど、辛いものはない。良くドラマとかで聞くワードだが、それがどんなものなのか、蓮はそれを痛みとして理解した。ひどく残酷な、胸に突き刺さる痛み。

 そして、違う人格とはいえ、もとは一つの存在なのだと何度も言い聞かせてきたはずなのに、”理解”してしまったという事実。それを自覚したとき、それが二つ目の痛みとなって突き刺さる。


 真っ白になった頭で、蓮はなんとか言葉を紡ぎ出した。

「……いるみたいね。3年に」

 そう呟いたことで、失恋という事実が現実になる3つ目の痛み。この痛みだけは、來斗も味わうこととなった。

「……そっか。じゃあ無理か」

 來斗は顔を曇らせ、反対側のホームをぼんやり見つめている。どんな顔をしていいのかわからず、蓮も顔を伏せた。


 先ほどまでとは打って変わって、重苦しい時間が流れていく。

(……失恋、か)

 こんなにも重苦しいものだとは思わなかった。”恋は上書き”なんて表現があるくらいだから、もっと軽いものだと思っていた。

 でも実際は、こんなにも重い。

 隣に來斗がいなかったなら、今にも泣きだしてしまいそうなほどに重く、冷たく、張り裂けそうなほどに痛むのだ。



「……それでも、だよな」

 突然來斗が呟き、蓮の方を見る。そして、意を決したような顔をして言った。


 その言葉は、そんな重苦しい空気を一瞬にして変えた。


「蓮が凛のことを一番に思ってるってことは知ってるつもりだし、答えも聞かなくたってわかるけど、それでも、言っておきたい。俺は――」



 蓮。お前が好きだ――……

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