俺とキリウスと蔓延る噂
いつもの中庭へ赴くも、ミリアさんの姿が見当たらない。
今日で三日目だ。ミリアさん不足で発狂しそう。ううっ、ミリアさん、どこ……?
この頃、よくない話が飛び交っている。
何でも、ミリアさんが家の貴金属を盗んで、手当たり次第に売ってはお金に換えているとかなんとか。
つまり世間を騒がせていた盗品は、サンブラノ家のものだとか。
あのミリアさんが、そんなことするわけないだろ!?
なのに周りは、揃いも揃って「やっぱりか」とか「ついに」などと言っている。その光景が不気味で仕方ない。
何でみんな、ミリアさんのどこを見てそう判断しているんだ!?
ミリアさんが貴金属にまみれてた日があったか?
陰湿に誰かをいじめてたか?
すきな食べものでさえ、「特にありません」と答える子だぞ?
人見知りで、ほんのちょっと感情表現が苦手なだけの女の子じゃないか! 何でみんな、寄ってたかってミリアさんのこといじめるんだよ!!
俺の元にも、「サンブラノさんに騙されて可哀想に」と来る人がいた。結構いた。
ついでに言うと、今も目の前にいる。
わざわざ俺の肩を抱いて、さも訳知り顔みたいに、知りもしないミリアさんの悪口を言ってくる。
むしるぞ、その頭髪。
「ニア、君が髪を切るくらいだ。相当つらい目に遭ったんだね」
「顔面をグーで殴られたくなかったら、今すぐ手を離せ」
「おいおい、そう怒るなよ。俺は君の味方だって」
「うるっせーわ。はげ散らかすぞ」
「お転婆なところも魅力的だよ」
待って、言葉が通じない!!
利き手をグーに握り締めて、腹に力を込めた。いや、殴っちゃだめなんだけど!
特待生得点があるから、暴力事件起こしちゃいけないんだよな! くそ、殴りたい!!
懸命に手を払って距離を取るも、相手もしつこい。
聞きたくもないミリアさんの悪口を連ねるのだから、足を踏んでやろうと思った。
誰かの声が介入したのは、そのときだった。
「おい、そいつに用がある」
「キリウス!」
「何だよ。サンブラノから乗り換える気か?」
こちらに声をかけたのは、キリウスだった。しかめっ面で眼鏡越しに相手の生徒を睨み、怯ませる。
……俺にはわかる。今キリウスは、特に睨んでいるつもりがないことを。
ただ純粋に、人見知りの心で、「こいつ何言ってんだ?」と思っているだけだということを!
「お、おい、そんな顔すんなよ。はは、冗談の通じねーやつ」
俺の肩を解放した男子生徒が、冷や汗をかきながらそそくさと退散する。
キリウスへ顔を向けると、彼は心なしかふるふる震えていた。
「もういやだ。僕がどんな顔をしたというんだ……」
「人見知りの顔だな」
「5年顔を合わせて、ようやく知人だろう!」
「長い長い」
今日も人見知りが大爆発してるな、こいつ。
心の幼女を泣かせているキリウスの背を叩き、助かった礼を伝える。落ち込んでいた彼が、目尻を拭ってこちらを見下ろした。
「これからサンブラノの家に行こうと思っている。……伝言があれば、聞いてやろう」
「まじで!? お前、そんなことできるの!?」
「ば、馬鹿にするな!!」
真っ赤になって目尻をつり上げるキリウスに、言葉足らずが誤解を与えたのだと察した。
いや違うって! 確かにキリウスが他人の家に行くなんて、明日槍どころか麒麟とか幻獣が降ってきそうだけど……。
「えっと、お前も貴族だったんだなって、再認識したというか……」
「うるさい! ささっと伝達事項を言え!」
「ええええっと……! ミリアさん、お加減いかがですか? 体調崩されたんでしょうか? ミリアさんに何かあったんじゃないかと不安です。もしも俺に手伝えることがあれば、遠慮なく言ってください! 俺、ミリアさんに会えなくて寂しいです。また会えますよね? ううっ、ミリアさああああんっ!! ミリアさんに会えないのつらすぎるよおぉぉぉッ……!!!」
「泣くな!! あと長い! うるさい!!」
両手で顔を覆って、べそべそする。
キリウスが怒鳴っているが、お前もさっき泣いてただろ! おあいこだわ!!
「うるっせーわ! 字数制限かかってなかったもん!!」
「お前っ、要約して伝えるからな!!」
「それでも伝えてくれるキリウスが優し過ぎる!!!」
「う、うるさい!! お前にまで落ち込まれると、僕まで暗くなるだけだ!!」
キリウスが、真っ赤な顔で怒鳴る。
良い子ちゃんかよ!!!
刺したい人間第一位とか思っててごめんな! 俺、もっとお前に優しくなるわ!!
顔を背けて、キリウスが「失礼する!!」と教室を飛び出す。
のらりくらりとかわしてる、お前との再戦、ちゃんと受けることにする!
でも分子レベルのふんちゃかはやめてくれ。俺、死んじゃうじゃん……。
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