第2話
新しい職場での初日を終え、アパートに帰ってきたときにはぐったり疲れていた。相変わらずこの歳になっても、新しい環境や人に気疲れしてしまう。それでも、今日このスタートを切るために、この仕事をするためにここまで頑張ってきたんだから、と根拠はない自己肯定するアファメーションを自分に投げかける。初日の入社挨拶も上手くやれたし、大丈夫、その調子でやっていけば問題ない……。
そう思いながらも、隣のデスクになった飯田カイトから投げかけられた言葉が、脳裏からなかなか離れてくれない。
「──第一配属希望から精神科というのはあまり多くはないのですが、元々この分野に興味が?」
「──なんか急に変なこと伺ってすみません。ここの病院、通常は希望部署があっても身体科のある本館の相談室を経て、それからここの部署に配属される場合が多いので。」
自然な会話の流れではあったけれど、私には敢えて彼がその言葉を選んで、私が一番聞かれたくない急所を突き刺すように感じられたのだが、気のせいだろうか……。
彼から発せられた言葉に、私は隠してきた本当の自分をこんなにも容易く見抜かれた…と判断し、恐怖の感情を瞬時に抱いていた。
そして、考えるよりも先に私の脳は過去の経験から危険を察知し、反射的に何とかこの場を凌ぐことに思考は集中していた。選択された手段は、過去の場面で良く上手くいった「差し障りの無い曖昧な返答をする」という判断が出てきて、すぐに行動に移していた。
結果、私の脳が瞬時に判断して取った手段通り、相手はそれ以上の追求を止めてくれ、その場を凌ぐことができた。
しかし、多少そういう風に自分に対して、返答に窮することを尋ねる人もいるだろう…と想定はしていたけれど、初日からこういう展開があるとは──。
希望が叶い、この仕事に就いた喜びもつかの間、先が思いやられる……。
でも、それでもこの仕事に就いてこれからやりたい事を成すために、これまで努力してきたことを思い返せば、こんなことくらいで先に進むことを躊躇しているわけにはいかない──。
諦めるにはまだ早過ぎる──。
「私、上手くやれてるかな。やっていけるのかな、これから……。」
ベッドに仰向けになり、狭い部屋の天井を仰ぐ。
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