紺桔梗色の空に

@may581

第1話 

 仕事が終わり、いつもの帰路に向かう。

11月に入り、赤や黄色に変わった落葉らくようも道端に多くなり、ポロシャツに羽織っているカーディガンだけだと、寒さを感じる。そろそろ冬を迎える季節になってきた。最寄りの駅に向かいながら、今日から入社してきた年上の新入社員のことをふと考えていた。


「原 アキと申します。病院の相談員としての経験は初めてになります。年齢は皆さんより上にはなりますが、まだこの分野での資格は取ったばかりで、皆さんにご迷惑おかけすることが多いかと思いますが色々と教えて頂きながら、一日も早く一人立ちして仕事ができるように頑張りたいと思います。よろしくお願い致します。」


 月並みな慣れた挨拶ではあったけど、僕より一廻り以上年上とは見えない少し幼い外見で、そのアンバランスさが強く印象的だった。僕の職業は社会人経験を得てこの仕事に就くことができる仕事のせいか、新卒採用でない人が来るのはそう珍しいことではないが、今回の新入さんは何か記憶に止まる印象がある人だった。職業的な勘というか、ただ資格取得したから仕事に就いたとかじゃなくて、何か理由があってこの仕事に就いた、という印象が僕の脳裏をかすめた。

  

「じゃぁ、原さん。飯田君の隣が君のデスクになるから。」

「はい。」

「飯田、原さんに色々と教えてあげてくれる?」

「はい、野崎主任。」


「飯田カイトです、よろしくお願いします。」

「あっ、原です。よろしくお願いします。」

「原さん、病院は初めてと伺ったのですが?」

「はい、以前はずっと施設での相談員でしたので。」

「ここの病院は、内科や整形など身体科のほうがメインなところもあって、第一配属希望から精神科というのはあまり多くはないのですが、元々この分野に興味が?」

「そうですね……。これまで認知症の方に長く関わっていた、というのもありますし、その前に企業で働いていた時にメンタル面で困難を抱えていた方と関わっていた経験もあって、以前から精神科分野に興味があったので……。」

「あぁ……、そうでしたか。いぇ、なんか急に変なこと伺ってすみません。ここの病院だと、通常は希望部署があっても身体科のある本館の相談室を経て、それからここの部署に配属される場合が多いので。」

「そうですか……。」


 自分の感じた勘の理由を探ろうと投げかけた質問だったけど、彼女の方から閉じられた。まぁ、初日からそんなにオープンな人はいないよな……。自分で投げかけておいて、踏み込み過ぎたことに気づいた。


「じゃぁ、今日は午前中野崎主任との病棟挨拶終わったら、書類関係の仕事とか、外来対応、入院対応の仕方とか説明していくので、お願いします。」

「分かりました、よろしくお願いします。」



 ───2番線に列車が参ります。黄色い線までお下がり下さい。


 今日のことを思い返しているうちに、帰りの電車がホームに入ってきた。 

 平日の夕方、いつもに比べ車内は空いていた。今日は座れそうだ、なんて言うと、同僚の本田から年寄り扱いされる。でも、今日は一人だし遠慮なく座らせてもらうよ。

 電車がガタンゴトンと動き出し、駅のホームから僕の乗る列車が離れていく。それと同時に車窓から外の景色が眼に移ってきた。ちょうど電車の車窓から夕陽が見える頃だった。 

 夕陽は雲を橙色に染めていきながら。西に沈んでいく。それを上から覆うように、紺桔梗色の空が広がっていた。暖色と寒色のグラデーションはいつ見ても綺麗で、自然の偉大さに圧倒される。僕はこの夜と昼が入れ替わる瞬間ときの空が好きだ。


 今日も夜は優しく昼を覆っていく……。

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