第3章 もっとゆるい絆で守ります!
第20話 なんと ベニヒメが おきあがり チャーハンを たべたそうに こちらをみている!
戌亥刑事との通話を終えた俺は、ふと、スマホに着信履歴があるのに気づいた。
今ロボコップから連絡が来るまで、スマホはずっと居間に置きっぱだったからな。もしかして心配した紅姫か玄蔵叔父さんから連絡きてたのかもしれない。
だが……。
〝【賢勇】ミカちゃん、激オコです〟
メッセージの内容に思いっきり口の端を歪める。
「……そういやミカヅキとネトゲの約束してたな」
すっかり忘れていた。
正直、昨日のあの状況では無理がないと自己弁護してみるも、スッポカした事実は変わらない。
俺は慌ててグループメッセージの方に書き込む。
〝【アオ】ミカヅキ、賢勇、昨日はゴメン〟
しばし待つ────。
〝【賢勇】おう、もしかして何かあったか?〟
賢勇はすぐに反応有り。
〝【アオ】昨日はちょっと、親父がらみで色々あったんだ〟
〝【賢勇】大丈夫か?〟
〝【アオ】ひとまずは。ただ、警察沙汰にはなってる〟
〝【賢勇】大丈夫なんだな?〟
〝【アオ】大丈夫だよ。くわしくは明日話す。だから遅刻すんな〟
〝【賢勇】昼休みにきく〟
〝【アオ】おまえなあ〟
〝【賢勇】で? ミカヅキの方はどうする? 一応、オレは今日もログインできるぜ〟
停電も復旧してるし、俺も大丈夫ではあるんだが……。
さっきから紅姫と、肝心のミカヅキが無反応だった。
〝【アオ】昨日のミカヅキはどんな様子だった?〟
〝【賢勇】だんまりモードでログアウト〟
……怒りゲージ振り切ってるパターンだな。
〝【アオ】ミカヅキ、本当悪かった。今日は大丈夫だと思うから、いつでも呼んでくれ。本当にゴメン〟
謝罪を書き込んで、ひとまず終了。
とにかく、何かしら反応してくれるのを待とう。
俺はやれやれと深い溜め息をこぼす。
「アオツグ、すまないがこれを運んでくれないか?」
「……ん、わかった」
台所のアルルに呼ばれて、土間に下りる。どうやら昼食の準備ができたようだ。
メニューは昨日の昼食兼夕食と同じくチャーハン。
「パラパラに仕上がったのか?」
「どうだろうな、昨日よりはずっと上手くできたと思うが……」
アルルは苦笑気味に小首をかしげる。
昨日はドタバタしていたせいもあり、パラパラにはほど遠いデキだったため、リベンジに張り切っていたのだ。
「見た目と匂いは普通に美味そうだ」
「ふふ、なら後は味と、肝心のパラパラだな」
微笑むアルルからふたり分の器を受け取って、居間の
アルルも調理器具を手早く片付けつつ、居間に上がって卓に着き、お茶を入れてくれる。
「お待たせした。さあ、食べようか」
互いに手を合わせ、早速実食。
残念ながらウチにはレンゲはないのでスプーンだ。
すくった感じは上々。口に含んでみると、香ばしい米粒がパラリとほどけて広がった。少なくとも、学食のチャーハンよりはずっとパラパラだ。味も格段に上だと思う。
「どう……だろうか?」
「……これは、かなりいいんじゃないか」
「そうか♪ 良かった。なら、ベニヒメにも食べてもらえるかな?」
「ぜんぜん大丈夫だろう。……というか、たぶんアイツは、アルルが作るもんなら何でも〝うまいサイコー〟しか言わないと思う」
「それは嬉しいような、寂しいような、複雑な感じだな」
くすくすと控えめな笑声をこぼすアルル。
いつも通り、優しく穏やかな笑顔。昨日の一件を経たせいか、そのいつも通りの笑顔がスゴくありがたいというか、見ていて安らぐ。
……のは、いいんだけど。
ゆるりとスプーンを口に運ぶアルル。
今朝の一件のせいか、その濡れた唇がやけにエロチックに見えてしまう。
「……どうした? アオツグ」
当然、ガン見してたら気づかれる。
俺は内心の動揺を自慢のポーカーフェイスでステルスしつつ食事を再開。
「別に、いつも通り、オマエが綺麗だから見とれてただけだ」
「……ふふ、母をからかうものではないと言ったろう?」
相変わらずの余裕の笑顔。
こっちはその細められた眼差しにもドキリとしてしまう。
……何か、負けた気分だ。
いや、もちろんこれが恵まれた状況なのはわかってる。
ついこないだまでの孤独な食事と比べれば天と地、雲と泥、光と闇だ。
「……ん? アオツグ、何だか顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」
そう言って、アルルは卓袱台の上に身を乗り出してくると、そのまま俺の額に手を当ててきた。
「……っ、おい!」
「やっぱり熱い気がするな……少しジッとしてくれ」
逃れようとする俺の頬に手を添え、顔を近づけてくる。
額を押しつけて熱を測ろうとしているのか、間近に迫るアルルの双眸。
……けど、これって端から見たらキスしようとしてるみたいだよな?
そんなフラグっぽいことを考えたせいだろう。この時を狙い澄ましたかのように玄関戸が開け放たれた。
雑なポニーテールを揺らして乱入してきたのは我が妹、紅姫。
「おいアオ兄! 警察沙汰って何のこ……何してんだゴルァッ!?」
心配そうな悲鳴が半ばから怒声に変わる。
紅姫は血相を変えてこちらに詰め寄ると、ビッと指差してきた。
「何でふたりでチャーハン食ってんだよ! オレも呼べよぉ!」
悲痛な顔で嘆きを張り上げる。
……うん、相変わらずで何よりだ。
俺は無言のままにスプーンでチャーハンをひとすくい。
紅姫の口許に差し出せば、当たり前のようにかぶりついてくる。
「んーッ!? むぐ、んぐ……。すげえ! パラパラだぁ♪」
感激に笑顔を輝かせた。
今度は器ごと差し出してやれば、紅姫は姿勢良く正座し、ビシッと背筋を伸ばしてこちらを見つめてくる。
「…………」
期待に瞳をキラキラさせてる紅姫に、俺はコクリと頷いた。
「やった♪ ありがとうアオ兄! いただきまーす♪」
赦しを得た紅姫はスプーンを手に嬉しそうにチャーハンを掻き込む。
自分でやっといて何だが、丸っきり犬の調教してる気分だな。
チャーハンを味わう紅姫は本当に幸せそうで、見ているこっちまで和むほど。
……本当に、子犬の食事風景とかこんな感じだと思う。
「ふあぁ……ごちそうさまぁ♪」
「お粗末様だ」
アッと言う間に平らげて吐息をもらす紅姫に、アルルがお茶を入れて渡してやる。
「ありがとうアル姉。このチャーハン、アル姉が作ったのか?」
「ああ、そうだよ。どうだった?」
「うん、サイコーにうまかった! 何て言うか、その……とにかくうまくてサイコーだったぞ!」
……けど、まあ、満足したんなら何よりだ。
俺はしみじみと自分のお茶を啜っていたのだが、ふと、アルルがこちらを見て微笑んでいる。
「どうした?」
「……いや、本当に〝うまいサイコー〟しか言ってもらえなかったから」
溜め息まじりのアルル。
だが、それは残念そうでも寂しそうでもない、むしろ楽しそうな様子。
「貴方の言う通りだったよ。やっぱり、妹のことは良く理解しているのだな……アオ兄?」
「……まあな」
笑声を堪えているアルルの表情、相変わらず穏やかで和やかなその微笑みが、何だか妙にくすぐったくて……。
俺はそっぽを向きつつ、お茶の残りを一気に飲み干したのだった。
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