第43話連合軍圧勝

 その日の夜、パプティ・アーズ辺境伯は声高に宣戦布告をする。

「異世界から来た勇者と共に、人外達に占領された【ロウキ】を奪い返す。今こそわれわれ人間に自由を取り戻す時だ。」

 国中に響き渡ったパプティ・アーズの声に人形も兵士も盗賊も皆雄叫びを上げた。


 【ロウキ】に人形を潜入させ権力者と入れ替わり国を乗っ取る作戦の失敗。悪名高い残虐なセッキと人形の娘マリ・オネットを失い大きな痛手を負ったパプティ・アーズ。

「もう後がない、こうなったら全戦力を連合軍にぶつけ、その隙に俺は転移魔道具で隠れ家に逃げる。人形の材料は隠れ家にあるからな。落ち着いたら又作ればいい、駒にする盗賊などいくらでも出てくる。

 次は絶対に負けない。人形の入れ替えが完璧なら中からかき回して国を乗っ取れることは分かったからな。皆、私を逃す為の犠牲になって貰うよ。」


 パプティ・アーズには、この戦いはやる前から負ける事など分かっていた。ただ自分が逃げる隙を作る為だけにこの戦いを行うのだ。


 宣戦布告を聞いていた連合軍の隊長達。

「大嘘吐きがよく言うぜ。勇者はもう、マリ・オネットが殺しただろうが。」

「そもそも【ロウキ】は人間が治めていて、人外は占領なんかしてませんしねえ。」

 戦争の開始に向けて各隊長が部下に指示を出す。

「よし、作戦開始、全員配置につけ。」


 周囲の空気が変わった。皆が合図を待つ中、辺境国の内の魔道具を無効化した潜入員達が合図を上げた。それを見た隊長達が叫ぶ。

「合図がきたぞ、一気に行くぞ。勝利を我らに。」

 隊長の声にこたえるように一斉に叫び声をあげると、魔法部隊が辺境国に大量の魔法を打ち込む。その隣では獣人や骸骨の兵士達が痺れ薬玉や睡眠玉等も辺境国に投げ入れていった。

 辺境国への魔法攻撃が終わると、次は攻撃部隊が辺境国へ突入していく。中で生き残っていた盗賊や人形達との戦闘が始まった。辺境国から外へ逃げてきた敵は、包囲して待ち構えていた魔人賊とエルフ族に倒されていく。


 隠れ場所へ避難を始めた辺境国の者達も、罠によって痺れたり眠ったりして動けなくなった所をどんどん捕縛されていく。避難所として既に暮らしている人間達も眠らせて捕縛。

 こちらは戦闘もなく、あっという間に片が付いた。


 当初の予定通り人形に護衛されたパプティ・アーズは、混乱の中ひっそりと転移陣で逃げ出した。だが、転移追跡装置を準備していた連合軍の兵士達に追われ、人形達が倒されると手を上げて投降する。

「まさか、転移を追われるとは。これまでだな、大人しく投稿するよ。」

 竜達に防御魔法をかけてもらった兵士達が、捕縛する為パプティ・アーズをに近づいた。すると突然パプティ・アーズが何かの魔道具を作動させて自爆した。

 兵士達は防御魔法と防御付与した戦闘服のお陰で無事だった。

「最後まで油断ならなかったな。こいつの自爆に誰も巻き込まれなくて良かった。」

「凄い威力ですね、これは竜達の防御魔法がなければ少し怪我をしていたかもしれません。」


 パプティ・アーズが作動させた魔道具は人形と連携していたらしく、全ての人形が次々に爆発していった。避難所の人間達や盗賊達の所に紛れ込んだ人形達も一斉に爆発したのだ。

 付与魔法の戦闘服のお陰で連合軍の者達は軽傷だけで無事だった。ただ人形の近くにいた辺境国の人間達は大怪我や即死していた。

「凄い爆発だったな、戦闘服のお陰で俺達は軽傷だったが。」

「はい、辺境国の住民達の酷い状態を見るとゾッとしますね。」


 辺りは爆発のせいで混乱状態だった。この隙に逃げ出そうとする盗賊達をみて、兵士達は軽傷者には一度後ろに下がるように命じると、向かってくる盗賊達を抑え込む。

 周囲が落ち着きを取り戻すのを確認した隊長が指示を出した。

「よし、敵対行動をした奴は全員捕まえたな。手の空いている者は怪我人の治療に当たってくれ。」

 治療が始まったがもともと体力もなかったのだろう。爆発に巻き込まれた一般市民と一部の盗賊達は死亡。助かった者は2割程度、体力があり体格も良く戦闘服を着ていた盗賊達だけだった。


 パプティ・アーズ辺境伯との戦いは連合軍の勝利で終わった。

 辺境国に連合軍が突入してから戦争は半日で終結。負傷者数名、死亡者無し、連合軍側の圧勝という結果だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る