第41話タクマの選んだ道の先
【ロウキ】の乗っ取りが失敗に終わり、悔しがっていたパプティ・アーズに朗報が届く。影からの報告によると、辺境国から少し離れた所に魔人の村がある事が判明したそうだ。
先程までて怒っていた事等忘れて、嬉しそうにセッキを呼び出すパプティ・アーズ。
「タクマの成長具合はどうだ。魔人の村が見つかったし、行けそうならタクマを連れて襲撃してきてほしいんだが。」
セッキは苛々したように、コツコツと足で床を鳴らしている。
「やっと剣を持って歩くのが普通にできるようになりました。振るとなると後1週間以上はかかりそうです。すっごく弱い、本当に弱いんですよ。」
苛立っているセッキを見て考え込んだパプティ・アーズ。
「苛立つのは分かる。タクマをは素人だからな、相手をするのも大変だろう。
タクマは魔道具で防御を固めて連れて行けばいい。襲撃は見学、実際に参加するのは次だと言っておけば問題ない。セッキにはいつも頑張ってもらっているからな。マリにタクマを任せて、セッキ達は好きなだけ暴れなさい。」
話を聞くと顔を歪ませてにんまりと笑うセッキ。
「了解しました。好きにしていいなら俺達が殺している現場は見せない方が良いかもしれません。残虐すぎて引かれてしまうかも、それか恐怖を感じるかな。」
「確かにな。乗り込んで住民達を集めたら、連絡係として先にマリとタクマをこっちに戻すか。影を2人つけるから、当日マリ達のチームに入れてくれ。
3日後に攻め込む事にするか。3日じゃあまり変わらないだろうが、少しはましになるだろう。セッキ、ストレス溜まっているみたいだな。影の厳粛する盗賊を生け捕りにして、そちらにまわしておこう。」
「ありがとうございます。では、3日後の夜に襲撃をかけ、マリとタクマは連絡員として影2名と共に先に国に戻します。」
「ああ、よろしくな。」
セッキが去っていくと、人形の兵士と影を呼ぶ。
「セッキのストレスが溜まって凶暴性が増している。適当な盗賊を捕まえてセッキに渡して置け。あとタクマと一緒に行く者を2名選んでおいてくれ。」
人形が去るとパプティ・アーズはため息をついていた。
人外達の連合軍もちゃくちゃくと準備が進んでいた。偽魔人の村には地下通路が作られ、遠くから鬼と魔人と骸骨の連合軍が村を取り囲んでいる。
「辺境国家から偵察に来た者達が帰っていきました。本部にも知らせてきます。」
「わかった。よろしく頼む。」
「いよいよですな、我々は準備万端ですよ。人形の見分け方も分かりましたし、人形がいたら生け捕りにしますか。」
「そうだな、異世界人がきたら彼も生け捕りにしたいが。両方とも出来たらだけどな、無理なら仕方がない。こちらの犠牲を出すわけにはいかないからな。
【ロウキ】では異世界人2名の犠牲が出ているそうだし、彼は操られているだけだから本当は助けてやりたいのだが。」
「そうですね。ですが異世界人は難しいかもしれません。彼の側にはパプティ・アーズの娘の人形がいるようですから。」
セッキはマリとタクマに3日後の襲撃を伝える為に訓練所にやって来た。楽しそうに話している2人。
「何でマリが人形だとあいつは気が付かないのか、不思議だよな。マリの目はどう見ても光もなければ、何の感情が浮かんでないじゃないか。」
セッキは笑顔を作ると2人に近づいていく。
「2人とも、急に呼んで悪いな。3日後に人外の村を襲撃する事に決まったんだ。結構近くに潜伏していた村で国に来られたら大変だからな。その前に潰さないといけない。
タクマは連絡係だ。今回の襲撃のやり方をよく見ていてくれ。襲撃後はチームの人間と一緒に国に戻って報告してくれ。チームはマリと後2人つける。マリよろしくな。」
「分かったわ。夜に襲撃かしら、それなら夕方に出発ね。頑張りましょうタクマ。」
「ああ、よろしくお願いします。」
「じゃあ、訓練を始めようか。時間が無いから少しでも剣に慣れておきたいからな。」
2人とも立ち上がり、剣の訓練が始まった。3日間で何とかなるのかは微妙だが。
襲撃当日、タクマは緊張していた。先程会った同じチームの2人とマリと一緒にセッキの攻撃部隊の後ろを走っていく。暫く走るとセッキ達が止まった。
「あそこに見える明かりがあるところが村だ。今から村に突入する。タクマは俺達のすぐ後ろから、チームの皆と一緒に来てくれ。声を出したりせず静かに動いてくれ。」
連絡係は本来は離れた場所で待機するのだが、タクマには離れた場所からだと何が起きているのか分からないので、自分達のすぐ後ろから付いてこさせる事になったのだ。
影が2人にマリもいるんだから大丈夫だろうという判断だった。
村の周囲を取り囲み全員一気に音もたてずに攻め込んでいく。村にセッキ達が入り、村の中央に集まった瞬間、あちこちから攻撃魔法が放たれた。痺れ薬玉や睡眠玉もあるようだ。
人形のマリには効かないが、セッキ達は皆薬で倒れて殺されていく。影2人もすでに死んでいた。マリはタクマを抱えると魔道具の防御魔法を発動しようとする。
「どうなってるの、魔道具が発動しない。そういえば皆の戦闘服の効果も出てない。無効化されているのね。範囲はどこまでかしら。」
痺れて動けないタクマだけ抱えると、走って村の外へ飛び出した。すると、マリの目の前に魔人と鬼の連合軍が立ち並ぶ。
タクマを抱えたまま魔法を放ち、突破口を開いて逃げようとするマリ。だが敵の数が多すぎた。なんとか敵の魔法を避け続け、剣の間合いに近づかせない様に、自分も魔法攻撃で牽制する。
人形のマリは疲れはしないが、だんだんと魔力が減ってきているのか、魔法の威力が低くなってきた。そこに魔人達がタイミングを合わせて魔法を一気に叩き込んできた。
砂煙が上がる中、マリは無事に立っている。避けきれない攻撃はタクマを盾にする事で自分への被害を最小限にしたのだ。
タクマは唖然としていた。自分がマリの盾にされて攻撃を受けた事に。
「どうして...・・・ マリ。」
「仕方ないでしょう、私はお父様の所に帰らないと行けないわ。勇者が私達の国で訓練していた事は広まったんだから、あなたが死んでも変わりがいる。
何の役にも立たないあなたなんか、私の盾にする以外に何に使うのよ。」
苦笑いをして鼻で笑うとタクマを放り投げた。
タクマはもう話す気力がないのかショックが大きいのか言葉は出ない。ただ涙が流れてくる。段々と意識が薄れていくのか目を瞑って涙を流しているタクマ。
「叔父さん達が見える。皆養子の自分を受け入れて、家族として接しようとしてくれていた。
きちんと向き合えば、叔父一家と幸せな時間を過ごせたかもしれない。それなのに自分から距離を作った。虐めや暴力を受けていた悩みも相談すればよかった。あの時、光の中に飛び込まなければよかった。
叔父さん達、ずっと俺を支えようと家族になろうとしてくれて、ありがとう。この思いが届くといいな。」
タクマは最後に笑顔を浮かべたまま息を引き取った。
マリはタクマの事はもう見てなかった。なんとかしてここから逃げないといけない。剣を構えると、戦闘能力の高い鬼を避けて魔人に向かっていった。
魔人に剣を当てて弾き飛ばしながら後ろに魔法を投げながら、前に進んでいくマリ。人外達の連合軍は味方に当てない為に魔法は控えて後ろから鬼族達が追っていった。マリの魔法が途切れた隙に足元へ短剣を投げた魔人。マリが少しバランスを崩した瞬間、鬼がマリの背中に飛びつき剣を突き立てた。
マリの動きが止まった。剣の先には蒼く丸い球体があった。マリを動かしていた動力だ。念の為に自爆に備えて防御の魔道具を置いて様子を見ながら球体を破壊するとマリは全く動かなくなる。
もう安全かと思った時、突然マリの体が爆発した。
「時間差か、凄い事を考えるな。パプティ・アーズ。」
「そうだな、敵の戦力は大分削げたかな。残虐セッキ部隊が出てくるとは思わなかったが、皆無事でよかった。異世界人は可哀想だったが。」
「ああ、弔ってやろう。お前は異世界人の亡骸を入れる棺を持ってきてくれ。オレは報告をしてくる。ここは頼んだぞ。」
そういうと骸骨班の隊長は代表して報告する為に、先に戻っていった。
タクマは共同墓地に埋葬された。レオやハンナ達から、タクマの話を聞いた瑠璃と姫子は葬儀に参列した。葬儀には他にも、知り合いの人外や戦闘に参加した兵士の代表達も参列していた。
「ついた場所によっては、私がこうなっていたかもしれない。」
呟いた瑠璃に頷く姫子。瑠璃の話は続く。
「辺境は他国と離れすぎているわ。同じ種族の人もいない交流もないとなるとまた同じことが起きかねないね。辺境には前に【スピ】という人外達の国があったけれど、人間や盗賊達に滅ぼされたって聞いたし。
辺境に人外達の国が出来たらいいのに。人外だけじゃなくて異世界人や【ムーン】も自由に住めるような。」
「そうね、戦争が終わったら。そうなると良いよね。」
「うん。」
瑠璃の話を聞いていた人外達は、皆何かを考えている様子だった。
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