第37話人外達と3国緊急会議

 【ラト】の事件が報告されて、急遽人外達と3か国で辺境国家の対策を協議する事になった。

【ツリー】で集まることになったが、時間になっても【ロウキ】の王達だけ来なかった。

 【ロウキ】の潜入員達によると、ここ数日、王達は人前だけでなく家族の前にも姿を現していないとの事だった。不穏な空気を感じたのか相談の結果、今回の件は【ロウキ】には知らせない事になった。


 まず、潜入員達の調査結果が出席者に伝えられる。

 【ラト】での孤児や浮浪者誘拐事件に辺境国が係わっていた事。

 辺境国にいる者は、領主で人形術師のパプティ・アーズ、人形の娘マリ・オネット、人形部隊、盗賊、少数の一般人達。パプティ・アーズ辺境伯は人形術師という事しか分からず、事情を知っていそうな前領主とその娘でパプティ・アーズ辺境伯の妻は既に亡くなっているた。

 影と呼ばれる盗賊や不審者を厳粛する組織があり、パプティ・アーズ辺境伯の命令で動いているようで人数や戦力等は不明。ただ、潜入者が出会った影は一瞬で複数の盗賊を殺す事ができ、潜入者達には見えないほど早い攻撃ができる者であった。

 人形達は1体で影1人と同じ実力があり、貴族街にいる盗賊の頭を力で抑えている。領主の娘となっている人形は魔法を使えて、魔力が無尽なのか補給し続けられるのか不明だが、大きな魔法を何個も打てると盗賊が話していた事。

  異世界人に我々が侵略者と教え込み訓練をしている。異世界人を訓練しているのは勇者として盗賊と人形達の先頭に立たせて【ロウキ】にのりこ無時の旗印にするつもりだろうという噂がある事。

 異世界人を訓練しているセッキという男は優しげな外見と違い残虐な盗賊団の頭として有名で、種族関係なく殺す事が大好きな殺人集団。強いものだけが生き残っている盗賊団で、異世界人は彼らと一緒に行動している事。

 異世界人の訓練が終わり次第近くの人外の村を襲い異世界人を戦いに慣れさせるつもりだという事。

 盗賊達や一部の庶民達の避難場所として転移できる隠れ家が存在する事とその場所が特定できた事。


 次々に上がってくる報告を聞きながら、皆深刻な表情になっていた。

「人形の戦力が高い事と知り合いに化けられるというのは怖いですな。」

「その件ですが、潜入員の話によると潜入先の盗賊、窃盗団だそうですが彼らは人形と仲間を見分けられるそうです。常に一緒にいる仲間だから分かるのかと思ったら、知り合いじゃない人形でも人形と人間の区別をつけているとのことでした。

 潜入員と一緒に女性の所に行ったら、あれは人形だなと言ってその日は皆で帰ってきたとか。」

「ほお。なぜわかったんですかな。その潜入員も分かったんですか。」

「いや、潜入員は分からなかったから聞いたそうです。そうしたらゾッとする感じがするとか、血が通っていないような気がするんだよ、と言ったそうです。

 潜入員が分からないと言うと、理屈じゃなくて感覚で掴むものだ。経験が足らないだけだからいつか分かるようになると慰められたとか。」

「難しいな。盗賊に出来て潜入員にはできないのか。血が通っていないか。人形を捕まえて調べてみるのが良さそうだが、可能かな。」

「人形を捕まえる時は、全面戦争できる準備が整った時でしょうね。1体捕まえたら人形術師に気付かれそうですから。そんなリスクはおかせません。」


 皆黙り込んで、深刻な雰囲気だ。

「戦争が始まる前に、人形を出来る限り潰してしまうのが良いでしょうな。人外の村を襲う計画なら、兵士の村にしておいておびき寄せて一気に攻撃してしまいましょう。【ラト】の誘拐犯達を参考にした作戦があるんですよね。」

「ええ、盗賊達は家の地下に地下通路を作り離れた場所まで通路を伸ばして地面の下に地下室を作ったんですよ。結構長い距離がありましたが、空気を循環する魔道具を埋め込まれ地面の下の地下室でも10名近くが生活していました。

 敵が囮村の中に入ったらすぐに逃げ出せるように、地下室を作りその地下室から通路を通って外へ脱出する。その後に一斉に囮村を魔法攻撃。囮村には、防御等の効果を無効化する魔道具を置き、敵の防御を無効化しておけば大打撃を与えられます。」

「魔法攻撃で戦力を低下させた後に攻め込むんですね。異世界人の事はどうしますか。」

「出来れば生かしてとらえたいですね。囮村の段階なら騙されて攻撃に参加しただけですから。ですが、攻撃してきたり人質にされた場合は戦うしかないと思います。生きたまま捕えた場合でも、事情を考慮して減刑という形になると思います。史実を学ばせて何かの労働、でしょうか。」

「そうですな、せめて辺境以外の所に現れていればこんな事にはならなかっただろうに。気の毒に。」

 皆しばらく沈黙する。どんな理由であれ、戦争に参加して相手を傷つけたり殺したりすれば裁かなければいけない。


 同情する意見も聞かれるが、皆仕方がないという表情だった。

「こればかりは運ですね。可哀想だが、どうしようない。助け出す事も不可能だ。救出に向かって此方の作戦が洩れ足りしたら元も子もないからな。」

「【ロウキ】が今どんな状態が分からないので、作戦は早めに進めていきたいと思います。この会議の後すぐに囮村を作成します。辺境国が我々に対して敵対行動を起こそうとした時に、辺境国を取り囲んで攻め入る状態にしておかなければいけません。

 奴らが転移で逃げる予定の隠れ家にも捕縛できる罠を仕掛けましょう。我々が辺境国に攻め入ったら、逃げるものが出るでしょう。バラバラになるより一ヶ所に逃げてくれた方が楽ですからね。取りこぼしも防ぎやすいですし。」


 皆が頷いて、作戦の纏めに入っていく。

「そうですね。では配置を決めて行きましょうか

 囮村を作り地下通路と地下室を作る。防御無効などの魔道具を設置し待機、辺境国の者が攻めこんで来たら囮は地下通路から逃げ、その後周囲から一気に魔法攻撃。そしてそのまま攻め込む。

 囮役と攻め込むのは私達鬼族と魔人の連合でやりたいと思います。魔道具や薬等の準備と補充、いざという時の戦闘支援は骸骨族でお願いしたいが宜しいですか。」

「はい、骸骨族は問題ありません。必要な数の道具と薬を後で教えてください。詳細な作戦はその時に相談しましょう。」

「では次は、辺境国の避難場所だな。人がいない避難場所は罠などの準備と兵の待機、人がいる避難場所は当日飲み水に睡眠薬と痺れ薬を入れて無力化させて捕まえる。両方とも竜騎士団と【ラト】の兵士達の連合で人数は十分だろう。割り振りは双方の代表で話し合って決めてくれ。

 問題は逃げ場の分からない所か。これは潜入員の情報に頼るしかないな。現段階ではどうしようもないので分かり次第潰していくという事で。」

 皆が了承して頷いた。

「最後は辺境国家との戦いですな。人間と人形の区別がつかないとなると、人間が連合に入るのは混乱を招いて危険ですので、今回は人間抜きの連合にしましょう。」

「私は【ロウキ】の国内の方が心配です。人形による入れ替わりがすでに起こっているかもしれないと考えていたほうが良いでしょうな。」

「確かに。それは潜入部隊からの報告とエルフ竜騎士団の【ロウキ】駐屯兵達からの報告を待つしかないでしょう。竜騎士団には戦闘態勢で常時警戒するように指示しました。」

「ではすぐに、【ロウキ】の人外達と彼らと親しい【ムーン】達を一時避難させます。」

「辺境国との戦いの配置は後程別室で行います。」

「会議の結果決まった作戦を、最後にもう一度確認します。

1、人外囮村が攻撃され囮が地下通路から逃げ敵が村に入ったら一斉に魔法攻撃。

2、人外の村が攻撃されたのを理由に辺境国を取り囲む。

3、避難場所に避難してきた辺境国の者達を一気に捕縛。

4、辺境国に魔法攻撃、転移魔法の追跡装置発動。転移魔法の反応があった場合は各部隊の裏組織が追う。

5、【ロウキ】の状況確認。これは難しいので、様子を見ながら対応を検討していくしかないと思います。他に何かある方はお願いします。

 なさそうですね。では、別室での会議のある方以外はここで解散となります。

連絡を密に取り何か変化がありましたらすぐに報告してください。ご協力よろしくお願いします。」

 一部の者だけ残ると他の者は礼をして帰っていった。残った者達は別室へと移動する。


 【ロウキ】の街に既に人形が潜伏している事に気がついた時街は大混乱に陥るだろう。


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