第28話【ラト】の誘拐事件経過 突入作戦
瑠璃達が去った後、エイミーとブルは上司に報告する。協議の結果、捕まえた誘拐犯になりすまし潜入捜査を行う事になった。
エイミー達は信用できるメンバーを選抜して、偵察部隊、連絡部隊、実働部隊、人質救出部隊を選ばなければならない。
皆で潜入させる人間に関して話し合う。被害者役はスラムの人間なら違和感なく潜り込める。スラムの顔役ナナシにスラムの人間で2名、信用出来る協力者がいないかどうか相談するエイミー達。
暫く考えていたナナシは、両親が犯罪組織の探索をしていて殺された狐人の姉妹ニピとニナを推薦する。2人とも、犯罪組織を憎んでいるから裏切る心配はないだろうと。
ナナシは潜入役の2人を目立たない様に連れてくると言うと部屋を出て行った。
ナナシが戻る前に、今回の作戦に参加するメンバーを決めていく。
誘拐犯役はブルの治安部隊から3名、偵察部隊はエイミーの竜騎士団からエルフと竜のペアを3組、連絡係をボーンファミリーから3名出し、実働部隊と救出部隊は合同部隊にした。拠点の場所や敵の人数等、偵察部隊からの報告が来てから人数を調整する事になった。
誘拐犯から聞きだした取引場所等の情報共有、作戦の内容を決めて行く。各部隊のリーダー以外は別の場所で待機させいつでも動けるように待機していた。
「後は、ナナシさんが被害者役を連れてきてからかな。念の為実働と救出部隊も何名か待機させておくよ。」
スプーの言葉に頷くエイミーとブル。
待っていると、被害者役の少女達を連れたナナシが戻ってきた。狐人の姉妹ニピとニナだ。
互いに自己紹介をして、作戦の内容を話せるところだけ2人に説明するブル。2人から改めて出来るかどうか確認を取ると2人とも強い眼差しと力強い声で出来ますと答えた。
「よし、じゃあ2人ともよろしくお願いします。この子達につける魔道具は何にする、防御はいるよな。」
ブルの言葉を聞いてナナシとスプーが呆れた様な顔で魔道具はつけられないという。エイミーは無言だった。
「相手も探査の魔道具を持っている可能性が高い。見つかる危険性が高く見つかれば拷問で情報収集され殺される事が分かっているのに魔道具なんてつけられないだろう。2人の危険が増し作戦失敗の確率が上がるだけだ。
作戦が失敗したらどうやって被害者達を見つけて救出するんだ。」
「だが、こんな小さな子供達を守る物もつけずに危険の中に行かせるなんて。それにもし偵察部隊が見失ったら、彼女達を発見するのが難しくなって彼女達も売られてしまうかもしれない。」
意見が対立し険悪な雰囲気になった時、エイミーはニピとニナに聞いてみる。
「意見が分かれているけれど、あなた達はどう思うの。私は作戦成功の為には付けられないという意見よ。危険は覚悟でここにきているんでしょうし、覚悟がないなら今のうちに止めた方が良いわ。
危険にさらさない様に最善はつくすけれど、危険がないとは言えないの。」
エイミーの話を聞いて頷く2人はブルを睨みつける。
「居場所を知らせる魔道具をつけても、敵が妨害できる魔道具を持っていたら意味がない。スラムの人間が持てるはずのない魔道具を持っていて見つかったら、その場で私達を殺して拠点に行かずに逃げてしまうわ。そもそも、身体検査をしないなんてありえないのに、何故魔道具を付けられると思うの。
潜入なんて危険なのは分かったうえで参加しているし、参加させているんでしょ。あなたの仕事は作戦を成功させる為に最善を尽くす事よ。
私達を囮にする事に対する自分の罪悪感を減らしたいだけのように見えるわ。私達を見殺しにしなければならなくなった時、魔道具を付けた出来る限りの事をしたって自分を守りたいんじゃない。非情な決断をする時に自分のせいじゃない仕方がなかったんだって、逃げたいだけみたい。
私達の命を囮にするくせに。上に立つなら全てを背負う覚悟をしなよ。他の3人みたいに。
ついでに言うと、魔道具は付けないって私達に言わせようとするのは卑怯よ。だって魔道具はつけないこれ以外ないでしょ。」
ニピとニナの話が終わり、ブルは黙って俯いた。
「そうだな、すまなかった。」
ブルを見ていたスプー。2人に向かって話し出す。
「そうだよな、じゃあ魔道具はなしで。竜がいるけど風魔法で音を拾えない事も考えて、盗賊達の移動が終わるまで3か所にわかれて追跡しよう。
ニピとニナは一番危険な任務だ。危うくなったら逃げてしまって構わないからな。自分達の安全を第一に考えてくれ。敵から逃げる時は仲間がいる所に目印があるからそこに向かって逃げるんだ。
分かったな。くれぐれも気を付けろよ。後作戦に協力してくれてありがとう。」
スプーの言葉の後、エイミー達全員作戦協力への感謝を伝えた。
詳しい打ち合わせをする為に、ニピとニナは犯人役と一緒に出て行った。ナナシも出来ることはもう無いから、不信を抱かれない様にいつも通りスラムにいるといい出て行く。
ナナシにお礼を言ったスプーとエイミーは落ち込んで俯いていたブルの背中を思い切り叩き、気合を入れ作戦を進めていく。
「こういうのは時間との戦いなんだから、いつまでもウジウジしてないでシャキッとしろよ。さっさと立って部下達に命令しに行け。」
「ニピとニナには悪い事をしたと思う。でもウジウジしてるんじゃなくて、スプーの一撃が強烈だったんだよ。肉は骨より柔らかいんだよ。」
ぶつぶつ言いながらも立ち上がり出て行くブル。首をかしげて自分の手を見るスプー。
「結構力は入れたけど、そこまで痛くないだろ。あいつ最近鈍ってるんじゃないか。」
微妙な顔のエイミーと一緒にスプーも部下へ指示を出しにいった。
ニピとニナを袋に入れ、街の外にある取引場所へと向かう犯人役のネル、ケイ、アオ。勿論偽名で、潜入や諜報を得意とする治安維持部隊の裏隊員達だ。同じ隊員達にも身分を隠されて完全に別組織として成り立っている。
街を出て歩きながら犯人役として演技している3人。
「これって、いくら貰えるんだろ。終わったら一杯やるだろ。」
「ああ、今回の金で3人で家でも買えるといいな。あと何回かやったら結構たまるんじゃないか。今回誰にも見られなかったしな。またやれるぜ。」
「あれじゃないか、誰かいるぞ。」
木の下に荷車を持った男が1人立っている。
「遅かったな。これ以上遅れたら帰ろうかと思ったよ。」
「見つからない様に出てきてるんだから、遅いのは当たり前だろ。ばれて捕まるのはこっちなんだから文句を言うなよ。こっちは捕まったら終わりなんだから。」
「ああ、せめてるわけじゃないんだよ。悪かったな。荷物を確認させてくれ。」
「狐人の女二人か。なかなかいいな。報酬だ。」
「おお、結構いい値段だな。これなら、また何かあったら声かけてくれよ。」
「そうだな、【ラト】でばれた時の事を考えて、【ロウキ】でも商売を始めたいんだが、誰か良い奴を知らないか、人間が良いんだよ。
勿論そいつが成功したら紹介料は出すさ。紹介した人間の成功報酬とは別に紹介料を払うよ。」
嬉しそうにニヤニヤ笑う3人。とても悪い笑顔だ。
「何人か良さそうな奴がいる。人間でも似た者同士仲がいいからな。奴らに聞いてみるか。」
「いや、俺も一緒の時に話したいからまだ話さないでくれ。決まったら連絡する。」
「わかった、俺たち居場所は決まってないがスラム街にいるから見つけてくれよ。」
「ああ、分かった。スラム街や住民にも情報を売ってくれる友人がいるからな。」
そう言うと、男はニピとニナを乗せて去っていった。
犯人役もそのまま街に戻り、食堂で豪快にお酒を楽しみむ。その辺の人間にもお酒を奢りつつ、男の言った情報源の事をさり気なくばれないように探りを入れていた。
ニピとニナを連れた男は、尾行に気付いている様子はなく進んでいく。
暫く行くと立ち止まり、周囲に何もない所で地面を3回蹴った。すると、地面が開き中から男が出てくる。ニピとニナを袋から出し、2人は話し出した。
「連れて来る時、異常はなかったか。」
「ああ、魔道具や魔法を探知する魔道具も異常を示さなかった。今回のやつらは結構いい腕だよ。【ロウキ】に人間の友人がいるらしい。」
「そうか、【ラト】の情報屋にそいつらの事を調べさせて、問題がなければ【ロウキ】の友人も紹介させよう。明後日には皆纏めて出荷出来る。」
「じゃ明後日、護衛達と一緒に迎えに行く。今回ボスも行くってさ。」
「了解。じゃ明後日、何時もの時間にいつもの場所で。」
そう言うと男はニピとニナを地面の開いた所にいれ自分も入っていく。
もう一人の男は荷車を引いてどこかへ移動している。偵察班1組はその場に残り、偵察班2組と連絡係は男の追跡を始めた。男は1軒の農家にたどり着く。荷車を置くと家に入っていった。
偵察班はそのまま残り交代で見張りを始め、連絡係がスプー達に知らせにいった。
報告を聞いたスプー。
「そうか、ご苦労。引き続き監視を頼むと伝えてくれ、踏み込む前には連絡する。
後、ニピとニナの偵察班だが、明日誰か追加で送ると伝えておいてくれ。交代させないといけないしな。」
連絡係が去っていくと、3人ともため息をついた。
「【ラト】の中に情報屋がいるとはな。スラムはともかく住民もか。」
「地面の下に潜伏場所を作るとは、秘密裏に地下の様子を確認させないと。まさにモグラ叩きですよ。
農家も盲点でした。村という程大きくもないし、確か気の良い老夫婦がのんびり暮らしていたはずです。あの夫婦が犯罪集団のボスなのか、脅されているのか最悪殺されたか、確認しないと。」
「救出と拠点への襲撃は、明後日の取引の所を抑えるのと同時にやりたいな。それまでは偵察と突撃の準備に備えよう。エイミーは偵察の交代の方任せたぞ。」
「はい、じゃ街の地下捜索はブルさんですね。見回りのついでに街で探せますからね。
襲撃は取引場所と農家と地下の潜伏場所で一斉に突入ですね。出来るだけ目立たない様に捕まえて、【ラト】内の情報屋も知りたいです。」
「そうだな、隠密に優れている治安部隊の裏組織に一任できるか、ブル聞いてみてくれ。俺達は後方支援のほうが良さそうだ。目立つだろ、エルフ竜騎士団と骸骨集団。
後は、救出した被害者を一時保護できる隠れ家と食事や服を用意できる。」
ブルはどこかに連絡すると、頷いて二人に言う。
「大丈夫です。救出と襲撃のメインは彼らに任せられます。
我々は突入で逃げた奴の処理をします。竜騎士団は襲撃までの偵察と連絡をお願いします。被害者は救出して聴取後はボーンファミリーに任せます。」
「よし、後は準備して、明後日に備えよう。それまではいつも通りに見えるように各自注意して行動してくれ。」
そう言うと解散して部下達への説明に向かっていった。
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