第14話竜に乗れた幸せ 竜に頭丸呑みされる不幸せ
話していると、前の方から手を振りながら体格のいいエルフが走ってくる。
「皆さん初めまして、カールの友人アレクです。よろしくお願いします。」
強面なのに、笑うととても親しみやすい笑顔だ。皆で挨拶を終えた後、早速竜を見に行く。
「竜は風魔法が使えるので獣人ではなくて人外の種族になるんですよ。私達竜騎士を乗せ風魔法を使って早く移動したり、戦闘も強靭な肉体と強い力素早い動き等魔法が無くても強いですが、風魔法も一緒に戦うので戦闘が得意な種族と言われています。戦闘狂と言われる鬼族と同等ですね。
風魔法を使って遠くの声を拾ってきたり自分の気配を消したりするので偵察にも優れた能力を持っているんですよ。
誇り高い種族で義を重んじるから、一度親しくなると生涯の友になれるんです。」
嬉しそうに竜の凄さの説明をするアレクと共に竜舎へ向かう。
「燕さん、俺の友人と知り合いの方が遊びに来てくれたんだ。パートナーの燕さん」
緑色の体躯、鋭い爪に金色の目の竜がいる。皮膚は固そうで馬の2倍以上の大きさだ。
瑠璃達を見た燕は挨拶をした。
「まあ、アレクに騎士以外のお友達がいたのね。皆さんどうぞよろしくね。」
「初めまして、瑠璃です。お会いできて光栄です。よろしくお願いします。」
格好いいテラノザウルスみたい、嬉しそうに笑っている瑠璃を見てレオとマリーはほっとした表情だ。
「初めまして、レオとマリーにカールです。お忙しい中ありがとうございます。」
「良いのよ、アレクがお友達を連れてくるなんてめったにないから会えて嬉しいわ。」
燕は瑠璃に優しい声で話しかけた。
「竜に乗ってみたいって聞いているわ。瑠璃私に乗って良いわよ。大丈夫、ゆっくり歩くからね。風で調節できるし落ちたりはしないわ。」
「なんと、良いんですか? うわー、嬉しい、嬉しいです。ありがとうございます。」
皆驚いて燕を見た。レオとマリーは良かったね、と瑠璃と一緒に喜び、アレクは俺の事はすぐに乗せてくれなかったとぶつぶつ言ってカールに慰められている。
そんなアレクを鼻で笑った燕。
「勿論よ。異世界人を乗せるなんて初めてよ、めったにない貴重な事だわ、アレクもたまには役立つわね。」
そう言うと風魔法を使って瑠璃を自分の背中に乗せた。
「背中に突起があるでしょう、それを掴んでね。しっかり捕まって。じゃ歩くわよ。」
「うわー凄い高いですね。それに周りをやさしい風で守られている感じがします。」
大喜びではしゃいでいる瑠璃と満足で得意げな燕。竜舎をグルっと回り竜の散歩は終了した。降りる時も風で優しく降ろしてくれる。
「凄い楽しかったです。最高の気分です。燕さんありがとうございました。」
「どういたしまして、重くてごっついアレクよりずっと良かったわ。」
皆で楽しそうに談笑していると、1頭の若い竜が瑠璃に向かって走ってきて、そのまま瑠璃の頭を飲み込んだ。
その瞬間、燕がその竜の首を噛み引き離し、地面に叩きつけ体を足と尻尾で抑え込んだ。
「よりによって異世界人になんて事してるのよ。こんな失態許さないわよ。あんたは竜族の恥さらしよ。瑠璃さんに謝りなさい。」
燕さんが足でげしげし踏みつけて怒りの雄叫びを上げているのを見て、アレクとカールは魔法を消し、
レオとマリーも武器を戻した。青い顔のアレクが騎士団長を呼びに行った。
突然の事に唖然としていた瑠璃、恐怖よりも皆の対応に感心している。
「燕さん早かったですね、攻撃が見えませんでした。皆もすぐ攻撃しようとしていたし、私も何か訓練した方が良いのかなあ。頭も顔もべっとべっとで気持ち悪いかも・・・・・・。 」
地面でげしげし踏まれている竜が、泣きそうな声で訴える。
「だってお腹が空きすぎて死にそうなんだよ、【ラト】から【ロウキ】まで朝から走って着いたと思ったら休憩もご飯もなく【ツリー】まで走らされたんだよ。
皆良いにおいがしたから一番弱そうなのを本能的に狙っちゃったんだよ。勿論食べたりしないよ。人間なんて食べ物じゃないもん。でも匂いが―――美味しそうで、少し舐めたかったんだよ。」
「私はね、謝れって言ったのよ。」
そういうと、竜の頭が地面にめり込んだ。燕さんが竜の頭を踏んでいる。
「ごめんなさい。申し訳ありませんでした。」
「これは大問題よ。本当にごめんなさい。慰謝料も支払いますし、出来る限りの対応をします。一族の代表からも謝罪させます。」
真剣な顔で考えている瑠璃。周囲を沈黙が支配している。その時ものすごい勢いで走ってきた集団、アレクさん率いるエルフ集団が到着した。
「驚いたけれど幸い怪我をする前に助かっていますし、それよりも、そこの竜さんの今の状態を何とかした方が良いと思います。先に竜さんに普通の食事を食べさせて休ませてあげて下さい。」
皆がざわざわと何か言っている。
「なんて優しい異世界人。」 「頭丸呑みされて涎でぐちゃぐちゃなのに、竜を気遣ってあげてるなんて。」 「竜が人を食べようとしたなんて前代未聞だ。」 「この話は外に漏れるだろうし騎士団が竜に無理をさせた事にも非難が殺到する。」 「誠意をもって対応しないと大変だ。」
それぞれの立場で色々な意見がささやかれていた。
咳ばらいをして壮年のおじ様エルフが瑠璃に礼をすると話を始めた。
「初めまして、エルフ竜騎士団団長のブラッド・ジョンズです。この度は海が・・・・・・。 酷い事をしてしまい申し訳ありませんでした。騎士団を代表して謝罪致します。海の事を気遣って頂きありがとうございます。
勿論、お詫びとして我々は出来る限りの対応をさせて頂きます。」
「初めまして、瑠璃です。ご丁寧にありがとうございます。」
渡されたタオルで顔を拭き、マリーは髪を拭きながら瑠璃を慰める。
「可哀想に、早くシャワーを浴びて綺麗になりましょう。さっさと話を終わらせてお家に帰りましょうね。」
マリーが皆に提案した。
「皆さま、場所を移動した方が良いですよ。天使のような優しい言葉を瑠璃が言ってくれたのですから、その竜にも普通の餌をやらないと。間違えて別の者を襲わないようにね。
私達の朝食の匂いにつられて食べようとするくらいお腹が減っているんですから・・・・・・。
私の新鮮な果物タップリ甘い甘ーいパフェの香りかしら、瑠璃さんのふわふわワッフルもバターのいい香りととろけるベリーアイスの爽やかで甘酸っぱい香りだったし、それともレオのさっくさくジューシー肉汁タップリ柔らかカツかな。レオは定食だから炊き立ての美味しいご飯も付いていたかしら。美味しそうないい匂い。」
マリーが話していると、海が食べ物を想像したのか、涙を流し涎も垂らしお腹もきゅきゅ鳴らしている。
「そうですね。何人か燕と一緒に海を食堂へ連れて行ってくれ。皆様はこちらへ。」
マリーの怒りに引き気味の騎士団一同は一部は食堂に向かい、残りは瑠璃達を案内する団長達と一緒に移動していった。
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