第13話穏やかな朝
外から物音がしていたため、起きて身支度を整えた瑠璃。
窓からのぞくと、レオが早朝訓練をしていた。邪魔をしてはいけないと思った時、レオが瑠璃に気づいて小声で話す。
「おはよう、瑠璃さん。カールも起きているから下に降りても大丈夫だよ。」
「おはようございます。分かりました。」
瑠璃も小声で挨拶し、荷物をもって下に降りて行った。
すでに2人とも起きてのんびりと紅茶を飲んでいる。
「おはようございます。カールさん、マリーさん。」
「おはよう、瑠璃さん。今紅茶入れるから座って。」
マリーが紅茶を入れに行くのを見たカール、瑠璃の荷物を見て箱を指さした。
「おはよう、瑠璃さん。荷物ならこの箱に入れると良いよ。入れた持ち主しか開けられない防犯機能付き、しかも固定魔法がで動かない魔道具なんだ。」
新たな付与魔法の登場に喜んだ瑠璃は、嬉しそうに箱を開閉したり動かそうと箱を持とうとした。
「ああ、駄目だあ。本当に全然動かないですね。私結構力強いのに。凄いですね。」
朝の訓練を終えたレオが着替えるまで、紅茶を飲みながら今日の予定を話し合う。
「朝食はバンおばさんの食堂に行こう。午前中竜に会ってお昼食べて、【ロウキ】に行って異世界人の支援所に行こうか。【ロウキ】には、俺が付き添うよ。あっちの竜騎士にも友人がいるからね。
【ツリー】観光は【ロウキ】で帰れるか聞いてからが良いよね。帰れるならお別れ前に会いたいし、
もしその段階で無理でも皆で話し合おう。俺達相談にのるからね。」
「ありがとうございます。助かります。」
予定が決まった所でちょうどレオが戻ってきた。
「お待たせ、朝の訓練でお腹すいたよ。さ、朝食に行こう。」
「そうね、バンおばさんのお店は美味しいしご飯もいくつか選べるのよ。楽しみにしててね。」
外に出てお店に向かって歩いて行く。道には色々なお店が並び朝早くから人も多く賑やかだ。エルフが沢山歩いているが、殆どの人は普通の人と変わらずカールが美形なだけなのを瑠璃は確認した。
街の奥の方には緑の葉が美しく輝いていて周囲に神聖な空気を醸し出している世界樹がある。
歩きながら、珍しそうにあちこち見ている瑠璃。
「色々なお店があって、賑やかで良いですね。美しく輝いている世界樹もあって、綺麗な街ですね。」
「ありがとう。この辺りは住民専用なんだ。許可が出てないとエルフ以外は入れないんだよ。」
「申請はエルフが役所で言うの。門と駐屯地の間には宿とか大きな商会が密集していてね。住民以外はほとんどそこにいるわね。逆にエルフは学校とか図書館とかもある住民達の所に多くいるのよ。」
暫く歩くと白い壁と黄色の花に囲まれた可愛いお店、バンおばさんのお店に着いた。
「お天気がいいから今日は奥の中庭に行きましょ。中庭も可愛くて人気な場所なのよ。ご飯はどうしようかなあ。デザート系もあるし、今日は何を食べようかしら。」
嬉しそうなマリーを先頭に歩いて行くとエルフの女性店員がやってきて案内してくれる。
メニューを見ると、パンやご飯定食、サラダ、デザートに飲み物まで、どれもおいしそうだ。
「ワッフルセットにします。私の世界にも同じ名前の料理があるんですよ。」
「異世界料理なのかもね、私はサラダセットと甘々アイスパフェ。」
「俺はパンと卵に野菜ジュース。レオはカツ定食でいいな。よろしく、リンちゃん。」
「うん、ここの朝はいつもこれって決めてるからね。」
「どれも美味しそうです。食べ物の好みが合っていて良かった。」
皆で美味しく頂いた後リンさんがやってきた。店内に人がいる状態でいきなり瑠璃の予定を聞いてくる。
「異世界の方は【ロウキ】に行かれるんですか。カールさんとはどうやって知り合ったんですか。今後はどうするんですか? 」
その質問に店内にいた人達も静かになってしまう。店内にいた他のエルフ達がリンさんを睨んでいる。
答えようとする瑠璃を止めてカールが話し出した。
「リンちゃん、初対面の相手にいきなり個人的な予定を聞くのは失礼だよね。彼女は俺の友人だ。彼女に個人的な事を聞くのはやめてくれるかな。」
「カールさん、ありがとうございます。リンさん、知らない方に予定を話すのは不用心ですしお答えできません。」
きっぱりと断られて、少し驚いたような表情をしたリン。
「すみません。」
「いえそんなに気にしていません。リンさんもお気になさらずに。ご飯美味しかったです。」
優しく微笑む瑠璃を見ていた周りのエルフ達も、瑠璃達から視線を戻した。
「カールさんに頂いたんですけれど、ケーキとてもおいしかったです。リンさんが作ってるって聞きました。」
「そうなんです。お菓子は昔【ラト】で作っていたので得意なんです。喜んでもらえて良かったです。」
空気が和んだところで、お店を出る。竜騎士に会うためにお店を出発した。
外に出て小声で呟いている瑠璃。気合を入れた。
「そっか異世界なんだから、人が多い所で個人情報は言わないほうが良さそうね。もっと用心しないと。海外旅行中と同じね。気を引き締めてなくちゃ。」
瑠璃の後から出てきたカールが申し訳なさそうな顔をしている。
「ごめんね、瑠璃さん。素直な良い子なんだけど、あれは駄目だな。」
「大丈夫ですよ。でも他のエルフの皆さんの反応に驚きました。」
「ああ、エルフはね。一般的に異世界人に敬意を持ってるというか好感度が高いというか。瑠璃さんがフォローしてくれたから、彼女も大丈夫だろう。」
顔を顰めて怒り出すカール。
「大体、お店の中で初対面の異世界人に予定を聞いてくるなんて。
いや、話したこともない相手にいきなり予定尋ねるって変だよね。あの子年相応じゃないんだな。
誰がいるか分からないのに。差別集団や異世界人の瑠璃さんを利用しようと企む奴がいるかもしれない。そもそも聞いてどうするんだろう。」
怒るのを止めて考え始めたカールに、瑠璃はお礼を言う。
「でも今回の事で早めに気づけて良かったです。やっぱり自分が異世界人なんだから、個人情報とかもっと気を付けないといけないって。」
瑠璃の言葉にマリーが頷いた。
「そうね。瑠璃さんが異世界人ってことはもう広まっていると思う。異世界の話は、料理とか服とか無難な話だけの方が良いわ。兵器とか薬とかやばそうな物は聞かれたら専門職じゃないから分からないとか言っちゃえばいいのよ。」
「マリーも僕も拙そうな物はそう言ってかわしてるしね。そういえば、個人に何の魔法が使えるか聞くのはタブーなんだよ。戦闘能力は秘密だから。瑠璃さんに聞かれなかったから言うの忘れてたよ。」
「やっぱりそうですよね。相手が言わない限り聞かない方が良いのかなって思って。」
「まあ秘密って言っても、使っている所や相手の売っているものか職業で大体分かることも多いんだけどね。」
話していると遠くに建物が見えてきた。
「竜騎士の兵舎と竜舎が見えてきたね。あそこの広い敷地が竜騎士達のいる所だよ。」
煉瓦の壁の大きな洋風の建物と、芝生が広がっている運動場のようなものがある。東京ドームが入りそうな位の大きさだ。
「うわ、凄い広さですね。驚きました。」
「竜は大きいからね。竜に会えるよ、楽しみだね。瑠璃さん。」
嬉しそうに頷く瑠璃を見ながら、皆微笑んで先へ進んだ。
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