第10話過去の大戦
一息ついたカールは再び話し出す。
「さて、【ツリー】に集まった人外達は、さすがにこのまま放置していては、いずれ国に攻め込まれるのではないかと危機感を持ったんだ。
攫われた人達を救出する際、【ロウキ】に攻め込んだ方が良いんじゃないかという意見も出たそうだよ。でも、争い事は基本的に好きじゃない人達が多くてね。
勿論戦ったら自分達が勝つと思っているけど、戦うと自分達の方だって無傷で済むわけがない。勝った後も戦後の財政や食料問題に医療対策、【ツリー】には悪い事しかないからね。
それに、【ロウキ】の国が人外を攫っているっていう証拠がなかったんだ。正当な理由なく戦う事に対して、侵略になるんじゃないかという意見も出たんだ。
会議が紛糾して時間だけが過ぎる中、次郎さんが周囲を凄まじい殺気で睨みながら言ったそうだ。
「まず救出はすぐにでもするべき事ですよね。これは決定事項でよろしいでしょうか。」
全員賛成。人外の代表が震えてたって伝わってるよ。
「では、盗賊たちの居場所の特定。失踪者の失踪した場所と人数を調べて、地図にまとめる作業等、各種族から人を出して取り掛かって下さい。
エルフ族は【ツリー】の防御、各種族へ何が必要でどんな事をしてほしいのか等の要望書を代表達に渡してください。人数が増え、食料に住居等の問題も出てるでしょう。
後で戦争に関して決めましょう。先程から揉めてるだけで何も決まらない、時間の無駄です。
じゃ動いて下さい。1時間以内で終わらせて、再度集合しましょう。」
その後30分で地図が出来て、各種族の役割や協力体制も決まった。
地図には、盗賊の拠点と失踪者の村の近くにある怪しい集落を合わせた数が30個近くあって、
「いつの間にこんな事にって」皆唖然としたそうだよ。
戦争をするかしないかの会議が始まった時、次郎さんが言ったそうだ。
「皆様は私よりずっと経験も豊富ですし素晴らしいご意見をお持ちでしょう。
皆様のご意見の後ですと言いにくいので、若輩の私の案を先に述べてもよろしいでしょうか。」ってね。
何も決められない皆に怒ってて嫌味を言っている気もするよね。皆すぐ頷いたそうだよ。
「まず、【ロウキ】と【ラト】の近くに監視者とその護衛を置く。次【ツリー】の防衛と戦闘準備に盗賊と失踪者の受け入れ準備。そして一斉救出作戦を行い、盗賊と失踪者、あったら証拠と一緒に【ツリー】に戻る。
最後【ロウキ】又は【ロウキ】と【ラト】が攻撃してくれば、そのまま反撃。
してこなければ、救出した者や盗賊から事情聴取した証言と拠点にある証拠を集めて【ロウキ】に抗議、結果必要となれば戦争。
皆様、お分かりになっておられないようですが、人外を攫い、人外への恐怖を自国民に植え付けている時点で、敵対行為を行っているんです。
このまま人外の人数が減ったら、人間や獣人の数に勝てると思いますか? 魔法が使えても人数や戦略で負けることだってあると思います。
魔法や力が強い等、自分達を上に見過ぎて、彼らの能力を過小評価しすぎでは? 危機感がなさすぎるように思います。油断なんてできる状況じゃないんですよ。
実際、我々は異世界人と鬼族が訴えてくるまで何も気づけなかったんですから。」
話を聞いた代表達は、結局、彼の案をもとに作戦を練って総力を挙げて救出作戦を行ったんだ。
救出作戦を終えて騎士や参加者達が戻ってきたんが、助かった失踪者達は薬品や拷問などで体の一部が無くなっていたり、酷い傷を負っていたり、無理やり妊娠させられた人外やすでに生まれた【ムーン】がいる等、壮絶な様子だったそうだ。
彼らの証言を基に【ロウキ】に抗議すると、勿論【ロウキ】は認めず、逆に【ラト】に「盗賊たちが人外を攫っていたのを【ロウキ】の所為にして【ツリー】が侵略しようとしている。」といったんだ。【ロウキ】は「次は【ラト】だ。一緒に戦わないと国が亡びる」と言って同盟を持掛け、【ラト】は【ロウキ】と一緒に宣戦布告したんだ。
【ラト】は、【ロウキ】の話が事実かどうか調べもしなかった。戦争時に調べないってあり得ないから、これを機に【ツリー】の領土が欲しいとか何か思惑があったんだろうね。
戦争の時、人間と獣人の中には誘拐事件の事を知って人外と一緒に戦う為に集まってくれた人達もいたんだ。そして皆で連合軍を作って戦ったんだよ。
その結果、戦争は連合軍の圧勝で終わった。我々連合軍は負傷者は出たけれど戦争での死者は出ずにすんだんだ。対して【ロウキ】に【ラト】は負傷者は少なかったが大在の死者を出したんだ。両国もかなり破壊されたそうだ。
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