第9話過去の大戦の原因 人外誘拐事件

「構わないよ。瑠璃さん、気遣ってくれてありがとう。」

 カールが微笑みながら言うと、レオとマリーも頷いている。


「そんなに気にしないで、大丈夫。私達出来る限り瑠璃さんの力になりたいと思っているんだから。」

「そうだよ。いきなり1人で知らない世界に来て、不安な事ばかりだと思う。遠慮しないでもっと僕達を頼ってくれていいんだよ。」


 2人の優しい言葉にちょっと泣きそうになっている瑠璃。

「充分なくらい助けてもらってますよ。ありがとうございます。」


 新しくハーブティーを持ってきてくれたカール。

「じゃあまず、俺達エルフ・人外・魔人・・・・・・。 長いな。今だけ纏めて人外にするよ。」

 良いの?エルフって言わないと怒られるんじゃないの、と呟くレオ。

 サラッと流してカールの話が始まる。


「始まりは、異世界人女性の梅さんに楓さんと鬼族達が、【ツリー】に助けを求めてきた事からだった。

 2人は鬼の村で保護されて、鬼と結婚した異世界人達なんだ。

 彼女達が外出先から村に戻ったら、30人弱の村人達が全員いなくなっていたんだ。

 鬼達は鬼同士なら、相手の場所が分かったり、自分の見聞している事や伝えたい思いを相手に送ったりできるんだよ。そして戦闘が得意でとても強いんだ。


 だから最初は心配もせず、すぐに鬼達が仲間に連絡を取ったんだ。でも、仲間に思念を飛ばしたり居場所を探しても反応がない。血や争った跡もない。何も分からない状況に不安になり、交流のあった魔人の村に助けを求めに行ったら、そこも誰もいなかった。


 これはおかしいと、皆はそのまま【ツリー】に向かい協力を求め、【ツリー】は竜騎士を派遣し両方の村の近辺を捜索したり、人外達に事情を知らせて警戒と、村や知り合いで失踪者がいないか情報提供を求めたんだ。


 結果集まった情報は、既に100人以上の人外が行方不明であるという事。

 3年位前から、あまり交流のない村の人外が気が付いたらいなくなっていた、行商の商人が誰も村に来なくなった、町の人外の孤児や浮浪者を見かけなくなった等の情報が寄せられたんだ。

 いなくなっても余り気付かれない人達だったから、発見が遅れたんだろう。


 鬼の村と魔人の村も一緒に消えているしもし彼女達が一緒に消えていたら、この事が分かるのはもっと後になってからだっただろうな。

 

 漸く、人外が種族に関係なく失踪していることが分かった。だがその時は獣人や人間も攫われているのか分からなかったので、先に人外で集まって今後の対策を決める事になった。


 【ツリー】に秘密裏に人外の各種族の代表が集まって協議した結果、ひとまず【ロウキ】と【ラト】には知らせずに人外のみで捜索することが決定された。

 まず【ロウキ】と【ラト】で似たような失踪が起きていないか調べる為、外見は人間と同じという事で魔人と異世界人が潜入したんだ。

 魔人は外見は人間だけど魔法の使える人の事を言うんだよ。後潜入した異世界人は次郎さんといって魔人の町で保護されて、魔人の代表の旦那さんになった人なんだ。


 彼らが潜入した時、既に梅さん達が【ロウキ】潜入していて、梅さん達は【ロウキ】で、街を探す梅班とスラムを探す楓班に分かれて捜索を開始していたんだ。自分達の家族が攫われていたら、協議の結果なんか待っていられないよな。


 梅班は人外を発見できずに楓班も人外を発見できなかったが、情報があると人間の男が接触してきたそうだ。梅班に連絡し話し合った結果、梅班が後方からこっそりついて行くという事で、楓班は男について行った。


 男が連れて行った先は、ある公爵の屋敷だった。高潔で人格者と評判の良い公爵で、人外の使用人と街で暮らしていた人外を全員匿まってくれていたんだ。


 王達は国民に、魔法が使える人外が襲ってくるとか寿命を長くする秘術を隠し持っている等嘘をついて、人外に不満を持たせたり恐怖を煽るような話をしていたそうだ。


 王達の態度を不信に思った公爵が調べた結果、王達の命令で犯罪組織や盗賊が、街の外でこっそり人外を攫い、どこかに連れて行っていると情報を得て、街の人外を屋敷で保護。人外が連れ去られた場所や誘拐の証拠を掴もうと調べていたが、配下の何人かが殺されてしまいこの屋敷も危険になったので、すぐにでも国を脱出しようとしていたそうだ。

 そんな時に、梅さん達が【ロウキ】に潜入してきたのを発見して現状を伝えようと接触したそうだ。そこで、梅班も合流して人と人外は隠遁魔法で脱出し【ツリー】に向かったんだ。


 【ラト】も潜入した結果、人外が見当たらなかったが人外に対して迫害等を行っている事はなかった。


 まあ獣人は獣人や友人以外には興味がない人が多いから、街から人外が消えても友人じゃなければ気にしないだろうな。

 この頃は、敵対していたわけでもなかったし、正直魔法が使えないという事で【ロウキ】と【ラト】を気にもしていなかった事が仇となったんだよね。


 その後は両国の近くに監視者を残して、探索に出た者達は、犯罪組織や盗賊の拠点の捜索に取り掛かった。


 異世界人と鬼達がすぐに【ロウキ】に潜入したおかげで、公爵に会えて詳細な情報が早い段階で【ツリー】に伝わり、村等に残っていた人外達は素早くこっそりと【ツリー】に移動できたんだよ。


 【ツリー】の防御を固めることもできたし、攫われる被害者を減らす事もできた。だから今でも、異世界人と鬼に感謝し好意を抱いている人外は多いんだ。

 もちろん公爵家の人達や他にも協力してくれた獣人や人もいたから彼らにもね。」


 さすがに疲れたのか、一息入れるように紅茶を飲むカール。

それを見て、マリーは気遣うようにカールを見た。

「大戦を話す前に一度気分を変えて。少し休憩にしましょう。」

「そうですね、カールさんお疲れでしょう。」


「じゃあ少し休憩させてもらうよ。」

 カールは微笑んで紅茶を飲んだ。

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