第8話リンちゃんの事情とエルフの事情

「まあ、珍しい話じゃないからね。7年前に俺の友人ルッコラも獣人女性と結婚して【ラト】で暮らしているし。

 リンちゃんの場合は、【ラト】で人間の男と恋に落ち妊娠した事がわかると、男が2人で貯めていたお金をもって逃げたんだ。暮らしていた家や家具も売り払ってね。

 2人の物を男が勝手に売ったから被害届は出せたけど、お金は戻らなかったんだよ。同情したルッコラ達が家に呼んで暫く面倒を見ようとしたんだ。

 ただ、リンちゃんは【ラト】から離れたかったそうなんだ。それを聞いたバンおばさんが落ち着くまで、何年か家で働きながら暮らしたらって誘って【ラト】に帰ってきたんだ。

 

 でも【ツリー】はエルフ以外国民になれないから、子供の教育や技術習得が出来ないだろ。学校も通えないし、まあ行けても魔法の授業だから、魔法が使えないと進級も出来ないしね。 


 バンおばさんや若い子なんかは気にしないけど、エルフ以外が長く暮らしていることを嫌がる人もいるからね。 お金をが溜まったら、【ロウキ】か【ラト】に行くんだって周囲に話しているそうだよ。ユウちゃんも3歳になったし、そろそろ出て行くんじゃないかな。」


「そうなの、学校に行けないとなると【ツリー】にいたら将来が不安よね。【ラト】と【ロウキ】なら国民になれるけれど、どちらを選ぶのかしら。確か、【ムーン】は10歳までに決めればいいんだったわよね。」


 話を聞いて、【ツリー】はエルフしか国民になれないことを知る瑠璃。

「片親がエルフでもその子供は、【ツリー】では、国民になれないんですか?」


「そうだよ。【ツリー】では国民はエルフのみって決まっているんだ。

 【ムーン】というのは、他種族同士の子供の事を言うんだけれど、どの種族との組み合わせでも魔法や身体強化は使えないんだ。外見も能力も人間と同じになるんだよ。つまり、見た目も中身も人間なんだからエルフじゃないという事なんだ。


 それに、僕達エルフは皆魔法が使えるけど、【ムーン】は使えないし、エルフのように戦う事が出来ないからね。過去にあった戦争から、僕達はいつでも何かあれば全員戦闘員として戦えるんだよ。

 そういうエルフを育てる為に、学校も最初は基礎魔法と基礎体力向上訓練を、その後普通の勉強ともっと詳しい魔法や戦闘・生活の技術等を学ぶんだ。

 魔法が出来ない【ムーン】は、エルフではないし国民として認められないという事かな。


 ただ、戦う事の出来ないエルフが国から追い出されることはないし、エルフ同士は【ムーン】の子供が出来ても態度や付き合いが変わることはないから、エルフ以外の人が国にいるのが嫌なのかなと思う。国の外の【ムーン】とは普通に付き合っているしね。


 戦争を経験している人が沢山いるし、人間と獣人を信用していないんだろう。だから片親がエルフじゃない【ムーン】の事も信用できない。【ムーン】を【ツリー】の内部にいれて取り返しのつかない事をされるのを警戒しているんだ。


 俺も同じ気持ちかな。前の戦争では大勢のエルフが犠牲になったし、魔法が使える種族は用心して身を守らないとね。」


 聞いているレオとマリーも頷いている。

「そうね、私達もこの世界の人間と獣人とは、ある程度の距離を保って付き合っているわ。平和になったからといって、色々な”人”がいるんだから警戒することは大切だと思うわ。」

 レオもマリーの意見に賛成して頷いていた。

「そもそも【ムーン】だって【ツリー】は嫌だと思う子も多いんじゃない。だって同じ年頃の子供達は魔法や戦闘訓練をしてるんだよ。それを見ているだけで自分は出来ないっていうのも辛いんじゃないかな。

 悔しがったり不満がたまったり妬んだりする子も出てくると思う。子供だからこそ感情のコントロールは難しいし、魔法ができる子とできない子は離しておく方が良いと思う。大人になれば、人それぞれ違っても別に良いんだって気にしないようになる人も多いだろうし。

 【ツリー】にいるより他国に行って、他の【ムーン】と友達になったり学校に行く方が【ムーン】にとっても良いと思うよ。」


 平和になったからといって、昔戦争で敵対していた相手を信用し、関係を気付き直すのはとても難しいし時間もかかる。


「【ツリー】や【ムーン】の事を聞かせてくれて、ありがとうございます。

なんと言ったらいいのか、凄く難しい事ですよね。戦争や酷い目にあわされた種族と信頼関係を気付き直すのは。」


 どういう風に続けたらいいのかと思い少し黙ったあと、正直に気持ちを伝える事にした。

「私はこの後【ロウキ】に行って、自分の世界に帰るために動こうと思っています。でもどの位この世界にいる事になるのか分かりません。【ロウキ】に行く前にこの世界の現状を少しでも聞いておきたい。

 私の事情で話したくないであろう過去の辛い話を話して欲しいというのは心苦しいですし厚かましいお願いだと思っています。皆様にとって可能な範囲で、過去の戦争や現在の各国の関係を教えてもらえないでしょうか。」


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