第16話 30年前からの因縁
魔法使いジェラックは、銀の腕輪を前にして、その白く長い顎髭を右手で撫でながら、30年前の出来事を語り出した。
◇
30年前、魔王セレスが率いる闇の軍団と勇者バルトを筆頭とする人間、そして人間以外の光の種族達との間で全面戦争が起きた。
『魔王セレス:(14)話参照』
魔王セレスの魔の手はスカイドラゴンシティーまで届いた。スカイドラゴンシティー城内にまで一時期は闇の軍団の進出を許したが、勇者バルトとそのパーティー、スカイドラゴンシティーの戦士や魔法使いの働きにおいて、闇の軍団を退けることができた。その直後、魔王セレスは、巨大な魔法力を放出しスカイマウンテンに古代から眠っている怪物を呼び起こしたのである。その怪物は、空の化身とまで言われた超巨大スカイドラゴンであった。
『超巨大スカイドラゴン:古代種。この世界には空(スカイドラゴン)・海(クラーケン)・陸(ベヒモス)・地下(ヨルムンガンド)それぞれに大型古代種が残存していると言われている。伝説となったモンスターの1種として数えられる。(現代にいるスカイドラゴンと同じような形状をしているが、ほぼ別物と言っていい。)首が長く、翼が生えている。空のような真っ青な表皮と鱗で覆われ、緑色の瞳をしている。翼を広げると体長40メートル程あり、姿形にどこか気品がある。空の化身・空の精霊など呼び名もある。』
スカイマウンテンから目覚めた超巨大スカイドラゴンは異形であった。他のモンスターの羽や足、腕などが付着していた。そのスカイドラゴンはスカイマウンテンの地下に銀色の金属でできた牢に入れられ封印されていたのであった。その牢が魔王セレスの魔法力により破壊されたのである。その衝撃により、スカイマウンテンにて山崩れが起き、スカイマウンテンに避難していた住民達に甚大な被害が出た。その際に、カルタの妻セルと3才の娘ハルタも帰らぬ人となってしまった。
そのスカイドラゴンが空に放たれ城内・城下町にて暴走した。勇者バルト、光の戦士達と共にジエラックやカルタ達は戦ったが、空の化身・超巨大スカイドラゴンは強く特異体質であった。受けた攻撃を自分の生命エネルギーに変えるのである。まるで空の広がりのように無限に吸収していった。そして体内に吸収したモンスター達の特殊能力も扱うことができ、勇者バルト率いるパーティーでさえも苦戦し倒すことができなかった。
倒すことができない為、スカイドラゴン城にある、『空の箱』に封印したのである。そして平和は戻ってきた。
『空の箱:モンスターを封印するアイテムの中でも最上級を誇る優れ物。空の箱の中はその名の通り、空のような真っ青な空間が、無限に広がっていると言われている。沢山の強力なモンスターを何百体も封印できる数少ないアイテム。外側からは破壊しやすいが、内側かの破壊は、ほぼ不可能なはずだった・・・。』
しかし、この話には続きがあり、20数年後に、その『空の箱』に大きな亀裂が生じた。王はじめ側近達は恐怖した。超巨大スカイドラゴンは20年という年月をかけ、内側から『空の箱』を壊し、外に出ようとしていたのである。
王や一部の部下は、このことを国民に知らせなかった。知らせることでパニックになると思われたからだ。その為に内密に処理しようとしたのである。『空の箱』の変わりがいる。ジエラックが進言した。
「2~5才までの幼子の心の中に封印したら、よろしいかと思います。幼子の心は空のように美しく広がっております。ただし心の一部を捧げなければいけませんじゃ」
そして、王は黙って3才になる自分の娘(ティル)を連れてきた。町の住民達は知らない。その3才の子が自分達を守る為に差し出されたことを・・・。 禁術だった。その子は涙を失くす代価に、自分の内側に封印魔法をかけられたのだ。
その時から、超巨大スカイドラゴンは、少女の心奥深くに封印された。そして、その少女の瞳を通して、少女と同じ風景を見続けているのである。
◇
ジェラックは、ゆっくりと息を吐き、話し終えた。そして、白い顎鬚から右手を離し、銀色の腕輪を指差した。
「その腕輪は、スカイマウンテンにてスカイドラゴンを封印していた牢の金属で作られておる。その金属は地上にはない特殊な物じゃ。スカイドラゴンの力を弱めてくれる力がある。これを着ければ竜人化の進行を和らげることができるはずじゃ」
それを聞いたティルは顔を上げ、ほっとした表情を見せた。
ティルとは対照的に、王とカルタの表情は深刻であり苦渋に満ちていた。ホスマは驚きを隠せない様子であった。そして妃は、ただ静かに笑っていた。
王とカルタの心情は似ていた。ティルへの愛情と謝罪の気持ちであった。
カルタは奇しくも、亡くなった娘と同じ年齢の時に竜を封印されたティルが気になって仕方が無かった。その為、封印直後に剣術を教える役割を自ら買って出たのである。ティルと娘ハルタを重ね合わせていた。
そして現在、カルタにとってティルは、世界で1番大切な存在になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます